【NAVAJO】ナバホのビンテージジュエリー内側に刻印された『UITA22』のホールマークにより、【United Indian Trader's Association】(UITA)に参加していたトレーダー/トレーディングポストで作られた事が判断可能な作品で、伝統的な造形の一つである『スプリットバンド/スプリットワイヤー』により構成されたアンティーク/ビンテージバングルです。
末尾のナンバー『22』から【Dean Kirk of Manuelito】ディーン・カーク オブマヌエリートで生まれた作品と判り、非常にシンプルな造形スタイルであるスプリットバンドをメントしていますが、サイドからターミナル(両端)に刻まれたスタンプワークも素晴らしいクオリティを持つブレスレットとなっています。
こちらのようなシルバーを割り開くことで造形するスプリットバンドによって作り上げられる美しいデザイン/造形はインディアンジュエリーの古典期に生まれた造形の一つです。
その後、ナバホの偉大な作家【Fred Peshlakai】フレッド・ぺシュラカイ(1896-1974)も同様の作品を制作しており、ナバホの伝統的スタイルとして受け継がれました。
それらの中でも特に【Allen Kee】アレン・キー(1916-1972)と【Kenneth Begay】ケネス・ビゲイ(1913?-1977)によって制作されたピースは歴史的な技術と造形を継承しながらも大変モダンで美しいジュエリーとして昇華され、アリゾナ州スコッツデールにあったインディアンクラフトショップ【White Hogan】ホワイト ホーガンを代表する名作の一つとなっています。
またWhite Hoganを始めとする1950年代以降に作られた同スタイルのバングルは糸鋸を使用してスプリット部分を切り開いていますが、本作は厚い鉄製の鏨ツールを用いハンマーによって叩き割る原始的な技術によって形作られており、武骨ながらも高い技術力によって作り上げられています。
『UITA22』のホールマークにより1940年代後半~1950年代に作られた事が判断可能で、インゴットシルバー(銀塊)から成形されたバンドをベースとして、前述の通り鏨によって5本に割り開く事で荒々しくも端正で洗練されたスプリットバンドを形成しています。
スプリットの起点部分にはハーフラウンドワイヤーがアップリケされていますが、これは装飾と共にバングルとしての強度を高めるディテールとなっています。
それは、内側を確認することで判断可能ですが細いワイヤーを重ねたスプリットバンドではなく丁寧で力強いシルバーワーによって造形されたスプリットバンドであることが判ります。
さらに多くの同スタイル作品とは異なりフロント部分にドーム状のアールが施されておらず、フラットに手首に馴染むシェイプとなっています。
このようなシェイプも1950年代以前に作られたスプリットバンド作品の特徴となっており、1960年代以降に多く作られたワイドで立体的なアールも持ったバングルに比べさり気なく男性にも着用して頂きやすい素朴な印象に仕上げられています。
そしてまた、本作の特徴となっているのがサイド~ターミナルに刻まれた質の高いスタンプワークです。
使用されているスタンプツール(鏨・刻印)自体が高い完成度を誇り、アンティーク作品特有のクオリティーを感じさせます。
このような『スタンプワーク』という技術は、スタンプ/鏨ツールを打ち付けることによってシルバーに文様を刻みこんでいますが、その鏨ツールはシルバーよりも硬い鉄(鋼)で作られています。その為、その加工はジュエリー制作よりもはるかに高い難易度です。
そして、ナバホジュエリーにおけるスタンプワークは、古くからその根幹を成す技術の一つであり、シルバースミスの「技術力」は、スタンプツール/鏨を制作する「技術力」次第であり、優れたシルバースミスは優れたスタンプメーカーと同義です。
また、スタンプのクオリティは現代作品とビンテージ作品を見分ける上でも大きな特徴となります。
1950年代以前の作品で見られる1920年代~1940年代に作られたスタンプツールの多くは、本作と同様に非常に細かな文様を刻むことが出来る高い質を持ちアンティーク作品独特の特徴ともなっています。
1970年代以降に作られた同デザイン(スプリットバンド)の殆どは、本作のような過去の名作を元にキャスト(鋳物)で作られています。
本作は原始的で技術力を要する伝統的なスプリットの技術が用いられており、細部には武骨さも感じられますが、独特の味わいを宿しています。
【the United Indian Trader's Association】(以下UITA)は1931年に組織され、C. G. WallaceやGARDEN OF THE GODS TRADING POST、Tobe Turpen等をはじめ、最終的には75のトレーディングポスト/インディアンアートトレーダーが加盟する組織となりました。
UITAが組織された目的は、BELL TRADING POSTやMaisel's等のManufacturersと呼ばれるインディアン工芸品の分業化や量産化を推し進めたメーカー(マスプロ)に対抗するためで、伝統的な製法や材料、一つの作品を一人のシルバースミスが全行程を通して制作するという体制等を守ることなどを規定し、上記のマスプロ品との差別化を計ることでした。
当時、サウスウエスト地方の観光の隆盛に伴ってスーベニア産業もその需要に応えるため、多くのショップやメーカーが生まれました。それらは元々トレーディングポストとして運営されていましたが、やがて多くのインディアンを雇い入れるMaisel'sやBell等のメーカーも創業されることになります。
初期の1910年代~20年代までは、双方の作品には製法やデザインに大きな差がありませんでした。 しかし、後者のメーカーは1930年代に入ると工房で多くのインディアンに同時制作させることにより分業化や機械化をはじめ、少しずつ伝統的な製法や作品の味わいは失われていきました。
また、それらのメーカーの生産する作品の多くはクリエイティブな作家を要するトレーディングポストで生まれた作品の模倣も多く、NAVAJO GUILDの作品やGARDEN OF THE GODS TRADING POSTに所属したAwa Tsirehのデザイン、VAUGHN'S Indian Storeの作品等は多くの模倣品が作られています。
特にこれらの模倣作品はピンブローチが多く、UITAの作品はブレスレットやコンチョベルト等すべてのアイテムに見つけることが出来ますが、ピンブローチに比較的多く刻印されている傾向があるのは、模倣品との明確な区別を促すためだったのではないかと推測されます。
また、UITAではそれぞれのトレーダー(ショップ)ごとにナンバーを割り振っており、『UITA』の末尾にそれぞれのナンバーが刻印されています。それらの内、いくつかのナンバーはそのトレーダーが判明していますが、いまだ不明となっているナンバーも多く存在しています。
『1』 = 【Gallup Mercantile】 ギャラップ マーカンタイル
『2』 = 【C. G. Wallace INDIAN TRADER】C.G.ウォレスインディアントレーダー
『12』 = 【Packards Indian Trading】パッカーズインディアントレーディング
『21』 = 【SOUTHWEST ARTS&CRAFTS/Ganscraft】サウスウエスト アーツアンドクラフト
等々・・・
そして、本作も内側に刻印されたホールマーク【UITA22】の末尾の数字『22』から、【Dean Kirk of Manuelito】ディーン・カーク オブマヌエリートで販売された作品であることを特定することができます。
【Dean Kirk of Manuelito Trading Post】ディーン・カーク オブマヌエリート トレーディングポストは、1881年に【Mike Kirk】マイク・カークによってニューメキシコ州ギャラップで創業した歴史あるトレーディングポストのすぐそばで、1942年代の同氏の死後、息子である【Dean Kirk】ディーン・カークが始めたトレーディングポストです。
その作品群は多岐にわたり、当時まだ新しい技術であったオーバーレイ技法を取り入れた作品や、伝統的なシルバーワークを駆使しながらもモダンで洗練されたデザインのブレスレット、さらにアニマルモチーフのピンブローチ等、ツーリストスタイルまで、幅広いジャンルや造形スタイルの作品が残されています。
また、多くのシルバースミスが所属していたと推測され、その作者を特定することは出来ませんが、本作の様に素晴らしいクオリティーを持つ作品が多く残されており、UITAの刻印が入ると云うことはその製法や材料等について厳しい条件をクリアしていることを表しています。
【Ingot Silver】インゴットシルバー(銀塊)からの成形は、アンティークインディアンジュエリーにおいて非常に重要なファクターですが、銀含有率/品位とは関係なく、ジュエリーの製法技術を表します。
現在制作されている作品の多くは、材料として市販されているシルバープレート(銀板/ゲージ)を加工することでジュエリーとして成形されていますが、インゴットから成形する製法では一度溶かしたシルバーを、鍛冶仕事に近い方法であるハンマーやローラーで叩き伸ばすことでジュエリーとして成形していきます。
最終的にはどちらもプレートやバーの形態になるため大きな差は無いように思われますが、インゴットから成形されたシルバーの肌は硬くなめらかで鈍い光を持っています。
それにより生み出されるプリミティブで武骨な作品の表情は、やはりアンティークインディアンジュエリーの大きな魅力です。
また1930年代にはシルバープレートが登場しますが、当時シルバープレートを用いて制作されたジュエリーは政府によりインディアンクラフトとして認定されず、グランドキャニオンなどの国立公園内で販売できなくなった記録も残っています。
スプリットバンドのデザインは大変洗練されたモダンでクリーンな印象を与えますが、1910年代以前のネイティブアメリカンジュリー古典期から作られている造形スタイルの一つであり、本作も伝統的な古典技術・製法を受け継ぎオーセンティックな造形スタイルが生み出されています。
また、ビンテージジュエリー独特の武骨で寂びのある雰囲気を漂わせながらも、フロント部分にスタンプワークが見られないことによりステレオタイプなナバホジュエリーとは異なるシンプルさとクリーンな印象を持っています。
またその造形は彫刻的な迫力と独特の上質感を感じさせ、着用時に特別な洗練度を生んでいるようです。
クラシックな雰囲気やシンプルで素朴なデザインはタイムレスな魅力を放ち、ビンテージスタイルはもちろんですが、少しフォーマルなスタイルにもフィットするエレガントな質感を兼ね備え、性別を問わずどんな装いにも馴染みやすい普遍的で完成された造形美を誇ります。
UITAのホールマークが刻印されることで制作背景が考察可能であり、その製法や材料などに裏付けを持った作品。手工芸品としてだけでなくアートピースとして高く評価されるまでに練り上げられており、ミニマムで無駄の無い完成度を持つハイエンドなブレスレット。希少性・史料価値も高いアンティークジュエリーの一つとなっています。
◆着用サンプル画像はこちら◆
コンディションは、シルバーのクスミや細かなキズ、ハンドメイド作品特有の制作上のムラ等は見られますが、ダメージは無くとても良好な状態を保っています。