【NAVAJO】ナバホのシルバースミスによるアンティークジュエリー。裏面にある『UITA17』の刻印により【Hubbell Trading Post】ハッベルトレーディングポストで制作されたことが確認できるピースであり、バースト(放射状)デザインの5ポイントスターがモチーフとなったアンティーク/ビンテージピンブローチです。
本作の様な立体的なスター/星の造形は、ミッドセンチュリー期に多く制作されましが、それらのほとんどはサンドキャスト成形(砂型鋳物)となっていますが、本作はキャスト成形ではなく【Hollow Style】ホロウスタイルと呼ばれる中空構造によって生み出されており、特筆すべき特徴であり本作のスペシャリティとなっています。
また、ネイティブアメリカンアートの成長と普及に大きく貢献したヒストリックなトレーディングポストであるHubbell Trading Postで制作・販売された事が明確な作品であり、1930年代末頃~1950年代前半頃の作品と推測されます。
量産に向いたキャスト(型を使った鋳物)ではなく地金製法によって形作られており、タガネ/鏨(鉄製の金型ツール)の凸と凹を用いてシルバーを叩きだすことで立体的な凹凸を作る『リポウズ/バンプアウト』によって作られた立体的なスターシェイプが生み出されています。
さらにその裏面には、丁寧にカッティングされたフラットなシルバーが施される事で【Hollow Style】ホロウスタイルと呼ばれる中空構造となっており、重すぎず高い強度を誇るピンブローチとなっています。
重量感としては、無垢のシルバー製と変わらない重さを感じさせますが、中空構造で間違いありません。
裏面の中央にはロウ付けの跡が確認できますが、これは中空構造に形作る再に空気が抜けるように施された穴を後から埋めた跡と思われます。
そして、スターシェイプの中央とそれぞれの先端にはラウンドカットされたナチュラルで味わい深いターコイズがあしらわれ、楽し気で広がりのある造形に仕上げられています。
【Star/星】の造形は、こちらの様な五芒星以外にも六芒星や八芒星などを含め、1930年代以前から見られるとても伝統的な造形スタイルの一つで、中でも本作の様にバースト(放射状)のデザインが見られるものは、『バーストスター』や『スパイダースター』とも呼ばれています。
そのポイント/角の数により違った意味を表しますが、こちの様な5ポイントスターやローンスター、モーニングスターはインディアンにとって大切な道しるべの象徴であり、ブランケットやナバホラグ等沢山の作品に落としこまれています。
【Hollow Style】中空構造/ホロウスタイルは、1940年代後半頃からみられる技法の一つ。美しく造形するには高い技術を必要とし、本作の様に立体的で綺麗なフォルムを作り上げるのは容易ではありません。
ボリューム感のある造形を過剰な重量にすることなく形作ることが出来る技術であり、インディアンジュエリー以外でも古くから見られる技法です。
【the United Indian Trader's Association】(以下UITA)は、1931年に組織されC. G. WallaceやGARDEN OF THE GODS TRADING POST、Tobe Turpen等をはじめ、最終的には75のトレーディングポスト/インディアンアートトレーダーが加盟する組織となりました。
UITAが組織された目的は、BELL TRADING POSTやMaisel's等のManufacturersと呼ばれるインディアン工芸品の分業化や量産化を推し進めたメーカー(マスプロ)に対抗するためで、伝統的な製法や材料、一つの作品を一人のシルバースミスが全行程を通して制作するという体制等を守ることなどを規定し、上記のマスプロ品との差別化を計ることでした。
当時、サウスウエスト地方の観光の隆盛に伴ってスーベニア産業もその需要に応えるため、多くのショップやメーカーが生まれました。それらは元々トレーディングポストとして運営されていましたが、やがて多くのインディアンを雇い入れるMaisel'sやBell等のメーカーも創業されることになります。
初期の1910年代~20年代までは、双方の作品には製法やデザインに大きな差がありませんでした。 しかし、後者のメーカーは1930年代に入ると工房で多くのインディアンに同時制作させることにより分業化や機械化をはじめ、少しずつ伝統的な製法や作品の味わいは失われていきました。
また、それらのメーカーの生産する作品の多くはクリエイティブな作家を要するトレーディングポストで生まれた作品の模倣も多く、NAVAJO GUILDの作品やGARDEN OF THE GODS TRADING POSTに所属したAwa Tsirehのデザイン、VAUGHN'S Indian Storeの作品等は多くの模倣品が作られています。
特にこれらの模倣作品はピンブローチが多く、UITAの作品はブレスレットやコンチョベルト等すべてのアイテムに見つけることが出来ますが、ピンブローチに比較的多く刻印されている傾向があるのは、模倣品との明確な区別を促すためだったのではないかと推測されます。
また、UITAではそれぞれのトレーダー(ショップ)ごとにナンバーを割り振っており、『UITA』の末尾にそれぞれのナンバーが刻印されています。それらの内、いくつかのナンバーはそのトレーダーが判明していますが、いまだ不明となっているナンバーも多く存在しています。
『1』 = 【Gallup Mercantile】 ギャラップ マーカンタイル
『2』 = 【C. G. Wallace INDIAN TRADER】C.G.ウォレスインディアントレーダー
『12』 = 【Packards Indian Trading】パッカーズインディアントレーディング
『21』 = 【SOUTHWEST ARTS&CRAFTS/Ganscraft】サウスウエスト アーツアンドクラフト
等々・・・
そして、本作も内側に刻印されたホールマーク【UITA17】の末尾の数字『17』から、【Hubbell Trading Post】で制作・販売された作品であることを特定することができます。
【Hubbell Trading Post】ハッベルトレーディングポストは、1878年に【J. Lorenzo Hubbell】ジョン・ロレンツォ・ハッベルによってアリゾナ州のインディアン居留地であるガナードに設立され、ネイティブアメリカンとの交易を目的として運営された最古のトレーディングポストの一つです。
ネイティブアメリカンの工芸品をアメリカを代表するアート・民芸品として広く普及させ、特にラグとジュエリーにおいては非常に大きな役割を果たしたトレーディングポストです。
経営者であるJ. Lorenzo Hubbellは、トレーディングポストの運営だけでなく政治家としても活動し、スペイン語・英語・ナバホ語を習得していました。
そして、ナバホの人々と対等な立場での交易を提案し、その交易品の成長を助けました。
特にナバホラグの発展に貢献し、同トレーディングポストの周辺で作られたラグである『ガナード』と呼ばれるリージョナルラグ(地域特性の強いナバホラグ)は、美しい赤を特徴とし、現在でも大変人気の高い作品群となっています。
それらのデザインは、J. Lorenzo Hubbellがサンプルとして提供した世界中の織物を起源としており、染料等の新しい材料も同トレーディングポストが供給しました。
『ガナード』という地名もJ. Lorenzo Hubbellによって名付けられた地名であり、ナバホ族のチーフ『Ganado Mucho』の名前に由来しています。
ジュエリーにおいても1910年代頃から『ハッベルグラス』と呼ばれるイミテーションターコイズをイタリアのベネチアにオーダーしており、安定した供給が難しかったターコイズに代わる素材として世界初のイミテーションターコイズを生み出しています。
それら『ハッベルグラス』を用いた作品は、その現存数の少なさや独特な表情等から、現在では大変貴重な作品群となっています。
1960年に国定歴史建造物に指定され、1967年にはヒストリックなトレーディングポストとして国立公園協会の運営となりましたが、現在でも100年前と大きく変わらない姿で営業が続けられています。
UITA参加時期は明確になっていませんが、『17』というナンバーから1930年後半~1940年代頃と推測されます。
『STERLING』の刻印は、銀含有率92.5%の地金であることを示す表記であり、1930年代初頭頃には登場していました。
ただし、ショップやトレーディングポストにおいて多用されるようになったのは戦後である1940年代後半以降のようです。
本作の様に1940年代以前に作られたジュエリーでも散見されますが、第二次世界大戦中の金属需要が影響したと推測され、1940年代末以降の作品で非常に多くみられるようになりました。
『925』の表記も同じ意味を持っていますが、925の刻印はインディアンジュエリーにおいては非常に新しく採用された刻印であり、そのほとんどが1990年代以降の作品に刻印されています。
主にイギリスの影響を受けた国において『STERLING』、それ以外の国において『925』の表記・刻印が多く使用されています。
Sterling Silver/スターリングシルバー=925シルバーは、熱処理によって時効硬化性をもち、細かな細工や加工に向いている為、現在においても食器や宝飾品等様々な物に利用されています。
ナバホの伝統的で高度な技術によって形作られた作品であり、スターモチーフはオーセンティックでキャッチーな印象を受けますが、その立体的な造形やセンスを感じさせるクリーンなデザインには、高い完成度が感じられます。
アイコニックでシンプルなデザインと立体的な程よいボリューム感、さらに使いやすいサイズによって多くのアイテムにおいて良いアクセントとして存在感を示します。
武骨な印象もありますがジャケットやラペル、バッグ、そしてハット・キャップのワンポイントなど、色々なスタイリングで違和感なくフィットすると思われます。
また、ナバホジュエリーを代表するでディテールデザインを用いた作品でありながら、その造形には唯一無二の独創性を持っており、同様の造形技法によるスターモチーフの作品は、今後の発見が非常に困難なとてもコレクタブルなアンティークピンブローチです。
アンティークピースながら完成されたシルバーワークと上質感が体感できる作品。ヒストリックな背景を持つコレクタブルな作品の一つとなっています。
◆着用サンプル画像はこちら◆
コンディションも良好です。
使用感の少ない状態ですが、ロウ付け跡等のハンドメイド作品特有の制作上のムラは確認できます。
ターコイズは多少の変色があるかと思いますが現在も素晴らしい艶を保ち、全体に良好なコンディションを保っています。