【ACOMA】アコマプエブロの巨匠3兄弟【Hunt Brothers】の中でも最も秀逸な作品を残している次男【Wayne Henry "Wolf-Robe" Hunt】ウェイン ヘンリー『ウルフ ローブ』ハント(c.1902-1977)】(以下Wolf-Robe)の作品。スクエアワイヤーをベースとしたバンドにアロー等のスタンプワークが施された非常に完成度の高いアンティーク/ビンテージバングルです。
さらに『ファイルワーク』と呼ばれるヤスリで削る技法を駆使する事で、上下のエッジ部分にスタンプワークのデザインと呼応した刻みが施され、立体的な構造と美しいスタンプワークが強調されています。
1940年代後半~1950年代頃に作られた作品と思われ【Wayne Henry "Wolf-Robe" Hunt】(以下Wolf-Robe)を代表する造形スタイルの作品となっています。
おそらくインゴット(銀塊)から成形されたスクエアワイヤーに力強いスタンプワークによってアローやライトニングスネーク等の刻印が刻まれ、エッジにはそれらのスタンプワークに呼応してファイルワークよる刻みが施されています。
それらの大変手の込んだディテールにより、立体的で構築的な造形の作品に仕上げられており、幅と同程度の厚みを持った地金の特徴が最大限に生かされているようです。
バンドの内側には『Wolf-Robe』のホールマーク(サイン)と、スターリングシルバー(925シルバー)製であることを表す『STERLING』の刻印が施されています。
こちらの様なスクエアワイヤーをベースとした古い年代のブレスレットは、GARDEN OF THE GODS TRADING POSTに所属したサン・イルデフォンソプエブロの偉大な作家【Awa Tsireh】アワ・シーディ(1898-1955)や、ホピの巨匠【Morris Robinson】モリス・ロビンソン(1901-1984)、同じくホピの【Lewis Lomay】ルイス・ロメイ(1913-1996)等が残しており、ナバホ族のシルバースミスよりもプエブロの作家による作品が想起される造形スタイルとなっています。
また、この様なスクエアワイヤーをベースにファイルワークによって立体的な造形を生み出す造形スタイルは、現代では【Thomas Curtis Sr.】トーマス・カーティス(1945-2013)や、その娘である【Jennifer Curtis】ジェニファー・カーティス氏に受け継がれています。
【Wayne Henry "Wolf-Robe" Hunt】ウェイン ヘンリー ”ウルフ ローブ” ハントは、アコマ プエブロの巨匠として知られ、インディアン自身で店を経営した初めての作家である【Clyde Hunt】(c.1900-1972)を兄に持ち、その兄を師として、とても若い時期からシルバースミスとしてのキャリアをスタートしたようです。
1930年代にはアルバカーキに在住し、多くのショーを受賞しながらハイスクールにも通っていた記録が残っています。その後、オクラホマ州タルサに近いカトゥーサにて【CATOOSA Indian Trading Post】を経営しました。
そして、BELL TRADING POSTでシルバースミスとして働きながらそのデザインにも携わった弟の【Wilbert Hunt】(c.1906-2007)と合わせた3兄弟は、『Hunt Brothers』と呼ばれました。彼ら兄弟の中でもホールマーク(作家のサイン)を使用し、多くの秀作を残したのがWolf-Robeであり、ナバホの偉大な作家【Fred Peshlakai】フレッド・ぺシュラカイ(1896-1974)等と同時期に『作家』としてインディアンジュエリーを制作した最初期の人物の一人です。
また当時、共に仕事をしたアコマの作家の子孫には当店でも長く懇意にして頂いた【Greg Lewis】グレッグ・ルイス、その息子である【Dyaami E Lewis】ディアミ・ルイスがおり、その技術やスタイルは現代にも受け継がれています。
ツーリストスタイルの作品も多く残していますが、もちろん全てハンドメイドで制作され、オーセンティックでトラディショナルな技術をベースとしながらも独自性を模索し、さり気なくも一見して同作者の作品である事をを感じさせるデザイン/造形もWolf-Robeの特徴です。
内側に刻印された『STERLING』は、銀含有率92.5%の地金であることを示す表記であり、1930年代初頭頃には登場していました。
ただし、ショップやトレーディングポストにおいて多用されるようになったのは戦後である1940年代後半以降のようです。
本作の様に1940年代以前に作られたジュエリーでも散見されますが、第二次世界大戦中の金属需要が影響したと推測され、1940年代末以降の作品で非常に多くみられるようになりました。
『925』の表記も同じ意味を持っていますが、925の刻印はインディアンジュエリーにおいては非常に新しく採用された刻印であり、そのほとんどが1990年代以降の作品に刻印されています。
主にイギリスの影響を受けた国において『STERLING』、それ以外の国において『925』の表記・刻印が多く使用されています。
Sterling Silver/スターリングシルバー=925シルバーは、熱処理によって時効硬化性をもち、細かな細工や加工に向いている為、現在においても食器や宝飾品等様々な物に利用されています。
【Ingot Silver】インゴットシルバー(銀塊)からの成形は、アンティークインディアンジュエリーにおいて非常に重要なファクターですが、銀含有率/品位とは関係なく、ジュエリーの製法技術を表します。
現在制作されている作品の多くは、材料として市販されているシルバープレート(銀板/ゲージ)を加工することでジュエリーとして成形されていますが、インゴットから成形する製法では一度溶かしたシルバーを、鍛冶仕事に近い方法であるハンマーやローラーで叩き伸ばすことでジュエリーとして成形していきます。
最終的にはどちらもプレートやバーの形態になるため、大きな差は無いように思われますが、インゴットから成形されたシルバーの肌は、硬くなめらかで鈍い光を持っています。
それにより生み出されるプリミティブで武骨な作品の表情は、やはりアンティークインディアンジュエリーの大きな魅力です。
また、1930年代にはシルバープレートが登場しますが、当時シルバープレートを用いて制作されたジュエリーは政府によりインディアンクラフトとして認定されず、グランドキャニオンなどの国立公園内で販売できなくなった記録も残っています。
アンティークインディアンジュエリー特有の質感と奥行きとを持ち、伝統的な技法やディテールで構成された造形は、エスニシティーな雰囲気も持っていますが突出した造形センスを感じさせるエッジーで洗練された印象も有しています。
そして、現代においても新鮮でシンプルなデザインは多くのスタイルにフィットし、素朴で武骨な雰囲気ですが、どこかエレガントな印象を兼ね備えています。
さらに、シルバーのみで構成される事で強過ぎる存在感を示さず、さり気なく多くのスタイルにフィットするさせることが可能です。
また厚みがあり控えめな幅は、他のブレスレットとの重ね付けにも向いていますが単独でも特別な存在感を放ちます。
無骨な雰囲気とエレガントな印象を共に感じさせ、Wolf-Robe/ウルフ・ローブという偉大な作家による卓越したシルバーワークの完成度と造形美が感じられる作品であり、史料価値も高いアンティークピースです。
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コンディションも大変良好です。
シルバーには僅かなクスミやハンドメイド作品特有の制作上のムラ等は見られますが、使用感を感じさせない非常に良い状態を保っています。