インディアンジュエリーの歴史に革新をもたらした、偉大なイタリア人作家【Frank Patania Sr.】フランク・パタニア(1899-1964)及び、同氏が1927年に創業したシルバージュエリーショップである【Thunderbird Shop】で作られたクリップタイプのアンティーク/ビンテージイヤリングです。
オーバーレイ技法を用いてレインクラウド/雨雲のモチーフがアイコニックに図案化された作品。立体的なシルバーワークをベースに、美しいコーラル/珊瑚がマウントされたピースとなっています。
1940年代末頃~1960年代前半に作られた作品と思われ、オーセンティックでクラシックな印象のラウンドシェイプに丁寧にカッティングされたレインクラウドモチーフがオーバーレイされており、その両端からは立体的に造形されたフェザーの様なパーツがアップリケされています。
そして、そのレインクラウドによる雨の恩恵を受ける位置には、発色が美しく立体的なドームシェイプにカットされたコーラル(珊瑚)がマウントされており、オーバーレイ技法による影となる凹の中に配する事で、その色彩や存在感を際立たせているようです。
さらに、コーラルの左右やレインクラウドの両端には、レインドロップとも呼ばれる小さなシルバーボールが施されており、作品の立体感と共に可憐で愛らしい印象を生み出しているようです。
また、ラウンド型の中央付近はフラットな造形となっていますが、エッジ部分は柔らかなアール(曲面)によるドームシェイプが作られており、上質感が与えられながらオーバーレイのデザインが強調された作品となっています。
裏面に刻印されているホールマークは読み取りにくくなっていますが、【Thunderbird Shop】を表すサンダーバードとSterling Silver=925シルバー製であることを表す『STERLING』のスタンプ、それにFrank Pataniaのイニシャル『FP』が刻印されています。
マウントされたレッドコーラルは、地中海・イタリア産か東南アジア産と思われ、色相と発色が大変美しいコーラル/珊瑚です。
僅かにマットな質感となっていますが、経年を感じさせず現在もその美しい発色を保っています。
【Overlay】オーバーレイと言う技法は、シルバーの板に描いたデザインを切り抜き、下地のシルバーの上に貼り付けることで立体的に絵柄を浮き出させる技法です。
本作の様にスタンプワークと組み合わされた作品も見られ、完成度を高められたオーバーレイ技法を用いた美しいホピのジュエリーは、現代に至るまでに多くの傑作を残しています。
1930年代にホピの大家【Paul Saufkie】ポール・スフキー(1904-1998)によって生み出された技術ですが、その黎明期にはホピ以外のナバホ・プエブロのシルバースミスにも新しい表現方法として色々な作品が作られていました。
1940年代~1950年代にかけて【Harry Sakyesva】ハリー・サキイェスヴァ(1922-1969?)や同い年の作家【Allen Pooyouma】アレン・プーユウマ(1922-2014)、そして【Victor Coochwytewa】ヴィクター・クーチュワイテワ(1922-2011)等により、ホピの代表的なスタイルの一つとして定着させられました。
オーバーレイ技術の定着以前にも、オーバーレイと近い造形を生み出すような大きく大胆で細かな刻みを持たないスタンプ(鏨)がホピの作家によって制作されていました。
しかし、スタンプ(刻印)というデザインやサイズが固定されてしまう技術から解放し、もっと自由な図案を具現化できる技術・技法として生み出されたのではないかと考えられます。
【Rain Cloud】雨雲は、砂漠地帯に住むインディアンにとって非常に重要であり、『吉兆』『良い展望』を表しています。特に農耕民族にとって重要な存在であり、狩猟民族であるナバホ/ディネの人々よりもホピやズニを含むプエブロの人たちの間でよく用いられたモチーフです。
【Frank Patania Sr.】フランク・パタニア・シニアは、1899年シチリア生まれのイタリア人で、インディアンジュエリーの世界に新しい価値観を持ち込み、多くの傑作を生み出しました。そして、多くの優秀な後進を育てた人物としても有名です。
6歳からイタリアで金細工師に弟子入りし、その技術を身に付けていきました。10歳のころに母親、兄弟とともにニューヨークに渡り、多くの移民とともに産業革命の喧騒なかで成長していきました。その後、19歳のころにニューヨークでも大手のジュエリーカンパニーでデザイナーとしての仕事に就き、そこでも多くの経験を積んだようです。
転機となったのは1924年、当時大流行していた結核に侵され、療養のために訪れたサンタフェで、インディアンのシルバーとターコイズを使った仕事を見たとき、『自分の表現方法を発見した』 そして、『二度とニューヨークに戻りたくなくなった』と語っています。
そして、わずか3年後の1927年にはサンタフェに【Thunderbird Shop】サンダーバードショップをオープンしました。当時、シカゴ~アルバカーキ~南カリフォルニアへ続く鉄道整備に伴なって、アメリカ中西部各都市の観光産業の活況と共にフレッド・ハービー社の隆盛、インディアンアートの産業化もあり、その新しい魅力を持つ「サンダーバードショップ」のジュエリーや工芸品は大変な好評を博しました。
やはり、オープン初期からFrank Pataniaの作品はナバホ・プエブロ双方のインディアンジュエリーの影響を色濃く感じさせます。
また、多くのインディアンアーティストを育てたことでも有名です。【Joe H. Quintana】ジョー・キンタナ、【Julian Lovato】ジュリアン・ロバト、【Louis Lomay】ルイス・ロメイ、他にも【Mark Chee】マーク・チーなどもサンダーバードショップで石のカッターとして働いていたようです。
彼ら(特に上記3人)はFrank Pataniaの技術やその美意識を受け継ぎ、『パタニア サンダーバード』スタイルとも言われる作品を残しました。
それらは、独自性とインディアンジュエリーの伝統的で素朴な強さを持ちながら、新しい価値観や実験的な造形を生み出し、品位を感じさせる作品で、それぞれに強い個性を持っていますが、どこか共通する美意識を感じるのも特徴です。
本作もそんなPatania Thunderbird styleの美意識と共に、インディアンジュエリーの世界に多様性をもたらした試みや、多文化を吸収する新しい意識を感じさせる貴重な個体です。
それは、当時はまだ新しい造形スタイルの一つであった『オーバーレイ技法』を採用した事による造形美にも表れており、プエブロの伝統的なモチーフとFrank Pataniaの美意識や価値観が融合される事で、他に類を見ない独自性をも宿す作品となっています。
そのエスニシティながら洗練されたデザインは、エレガントにもカジュアルな装いにも馴染みやすく、多様なスタイルにナチュラルにフィットしてくれるアイテム。多くのコーディネイトにおいて素晴らしいアクセントと成り得え、日常に違いと高揚感さえもたらす力のある作品となっています。
インディアンジュエリーが芸術として成長していく過程・歴史において、非常に重要な役割を果たしたFrank Patania Sr./Thunderbird Shopで作られた作品であり、大変コレクタブルで史料価値も高いアンティークジュエリーの一つです。
◆着用サンプル画像はこちら◆
コンディションも良好です。
全体に多少のクスミや僅かなキズが見られ、ハンドメイド作品特有の制作上のムラは確認できますが、特にダメージは無く良好なコンディションを保っています。
コーラル/珊瑚には天然石由来のマトリックスや凹凸が見られますが、これらはダメージではありません。