【ZUNI】ズ二のビンテージジュエリー、大変貴重なブラックウェブナンバーエイトターコイズとブラックオニキス、そして鮮やかな色彩が美しいレッドコーラルがインレイされたハイエンドなアンティーク/ビンテージリングです。
伝統的な技術・技法で作られていますが、その洗練されたミニマムなデザインや細部まで美しく仕上げられたシルバーワーク、レクタングラー(長方形)に構成されたフェイスのシェイプ等により、古い個体ながらどこかモダンな印象を持った上質な作品となっています。
明確に制作時期を特定する判断材料に乏しい作品ですが、その製法やマテリアル、造形の特徴等からは、1940年代末~1960年代の作品と推測されます。
さらに当時、非常にクリエイティブで独自性の強い作品を多く生み出したズ二の偉大な作家【Dan Simplicio】ダン・シンプリシオ(1917-1969)が強く想起される造形ですが、やはりホールマーク(作者や工房等のサイン)等の刻印もなく、作者を特定することは不可能です。
内側にはスクラッチによる「NかZ」と思われる文字が刻まれていますが、これは作者を特定できるホールマーク(サイン)等ではなく、流通上で施されたものと思われます。
シャンク部分は、内側が細くワイドな幅のフェイスに向けて広くなるシェイプとなっており、装飾の無い大変シンプルな造形となっていますが、実は上下のエッジには丁寧に削って丸みを施しており、最も細い部分はハーフラウンドワイヤー(断面が半円型)のようになっています。
この様なディテールは、簡素なシルバーワークのようにも感じられますが、実際には非常に手の込んだ細工であり、Dan Simplicio作品以外ではあまり見ないディテールです。
その様なしっかりとしたシャンクをベースとして、フェイスは高度なインレイ技術によりグラフィカルで抽象的な印象の格子模様が構成されています。
非常に美しい色彩と複雑な景色を持ったナンバーエイトターコイズ、深淵なブラックのオニキス、そして中央には元々の自然な形状を活かしたと思われるレッドコーラル/赤珊瑚が配される事で、美しいコントラストと奥行きを持ったデザインとなっています。
深い黒のオニキスを大胆に構成し、質の高いターコイズとコーラルの発色をの一層際立たせているようです。
また、フェイスのコーナー部分が丸く造形される事で、ズニジュエリーらしい柔らかな表情が与えられていますが、そのデザインによりターコイズをインレイする難易度はとても高くなっています。
しかしながら、本作のインレイは大変美しく仕上げられており、精巧に石がカットされる事によりシルバーとの間を埋める充填剤が殆ど確認できず、このような細部からも作者の技術力が伺えます。
このようなインレイワークによって構成されたZUNIの作品は、1930年代以前から見られますが、本作のように不規則な平面構成による抽象的なデザイン構成は1940年代~1970年代初頭頃の作品に見られる特徴で、20世紀前半に生まれたキュビスムやアール・デコ、そしてミニマル・アート等の影響も感じられます。
マウントされたターコイズは、大変美しい【Old Number Eight Turquoise】オールドナンバーエイトターコイズ。 ミドルグレード上位~ハイグレードにグレーディングできるジェムクオリティーを持つ石です。
ナンバーエイトらしいとても澄んだ発色の良い水色に強いブラックウェブが入り、部分的に濃淡やグリーンのグラデーションも見られます。
今なお素晴らしい艶と照りを保ち、僅かに変色はあるかと思われますが、大変高い硬度を感じさせます。
現在もナンバーエイト独特の魅力を湛え、宝石としての質(ジェムクオリティ)を体感できる無添加ナチュラルのターコイズです。
【Number Eight Turquoise】ナンバーエイト鉱山は、ネバダ州の鉱山で1920年代中頃~1960年年代頃まで採掘されていました。特に1930年代中頃に採掘された石は素晴らしいクオリティーを持っていたとされています。
採掘されるターコイズは、バリエーションが豊かな鉱山の一つですが、その多くは澄んだ水色を持ち、ハイグレードにグレーディングされるものは北米産ターコイズの中でも最も変色や劣化しにくいとされ、高い硬度を誇っています。
現在はその多くがコレクターや有力なトレーダーに収蔵され、市場に出ること自体が少なくなってしまいました。
【Inlay】インレイ/チャンネルインレイは、古くからズニ族が得意として発展させた技術であり、カットしたターコイズやシェルなどをシルバーにピッタリと嵌め込む螺鈿細工のような技術です。
ナバホのシルバー技術に次ぐ長い伝統のある技術であり、1920年代以降、現在に至るまで多く作られましたが、そのモチーフはサンダーバード、ナイフウイング、レインボーマン、サンフェイス等、とても多様なモチーフが見られます。
【C. G. Wallace INDIAN TRADER】C.G.ウォレスインディアントレーダー等有力なトレーダーの元では、ナバホのシルバースミスがシルバーワークを担当し、そこにズニのシルバースミスがインレイワークを施した共作品なども作られてます。
また、現在ではインレイ技法で制作される多くのジュエリーがキャストによる量産品(量産されたシルバーに石をはめ込むだけ)となってしまいましたが、こちらはシルバー部分を含めてすべてがハンドメイドで成形されています。
【Dan Simplicio】ダン・シンプリシオは、ZUNI族の中でも最も著名な作家の一人であり、その創造性豊かな作品の数々はインディアンジュエリー史におけるパイオニアとして、確かな軌跡を残した人物です。
その一例として、カットせずに自然な形を生かしたコーラル(珊瑚)等を最初に用いた作家として知られており、他にも多くの新しいスタイルや技術を生み出した人物です。
また、1930年代後半から台頭した量産型のメーカーによる安価な「ズニスタイルジュエリー」に対抗し、ハンドメイドの特性と味わいを活かした有機的でアドリブ的な要素を含んだ作品を多く残したました。【Leekya Deyuse】(1889-1966)や【Leo Poblano】(1905-1959)等、同じズニの巨匠と呼ばれる作家達との共作品も残されています。
1917年、ニューメキシコ州ズニプエブロに生まれ、叔父にはズニ族において記録が残る作家として最初期の一人と言われる【Juan de Dios】ファン・デ・ディオス(1882-1940)を持ち、とても若い時期からシルバースミスとしての技術を教わったようです。
息子のMike Simplicioの証言によれば、第二次世界大戦中にはフランス・ドイツ・イタリアに従軍し、そのヨーロッパ滞在中に目にした彫刻や美術品などの影響を受け、帰国後にインディアンジュエリーとしては新しかった植物モチーフや蛇等のモチーフを用いた、複雑で有機的な造形・デザインを生み出したとされています。
当時、それらは非常に独創的であり、現代においてはズニのトラディッショナルなスタイルとなっていますが、1930年代~1950年代に彼が生み出した造形や技術、価値観に至るまで後進に強い影響を与え、現代ズニジュエリーに対する功績は計り知れません。
ホールマークの刻まれた作品が非常に少ない為に、本邦ではそれほど知名度の高い作者ではありませんが、アメリカ本国におけるインディアンジュエリートレーダーからは非常に高い評価を獲得している作家です。
1975年に行われたC. G. Wallaceコレクションのオークションでは同作者の作品が50点以上が出品され、C. G. Wallaceが大変多くの作品を個人コレクションしていた事からもその評価が伺い知れます。
また、甥には【Juan Calavaza】ファン・カラバザがおり、その妻であり日本においても高名な【Effie Calavaza】エフィー・カラバザもDan Simplicioの創作に強い影響を受けた作家です。特に石の上に蛇が被さるデザインは、Effie Calavazaの代表作であり、彼女の子供や孫たちに受け継がれていますが、そのデザインのオリジンは叔父であるDan Simplicioの作品であり、それを受け継ぎ発展させた作品が今日のEffie Calavazaの知名度を作り上げています。
本作は残念ながら作者の特定できないピースですが、Dan Simplicioによる作品の可能性も高く、異なった作者である場合にも同氏の影響を強く感じさせ、『ズニジュエリー』の枠に収まらない独自性や美意識を宿した作品です。
そのオリジナリティの強いデザインとインディアンジュエリーのオーセンティックな技術、そして上質なマテリアルが融合し、同居した味わい深い作品。さらに、それらを成立させているシルバーワークと造形センスには、作者の根底にあるアニミズムの思想や自然に対する畏敬の念を感じさせるインディアンジュエリー独特の美意識が感じられます。
本作のように石をインレイすることで生まれる美しい色彩感覚やグラフィカルな構成は世界的に高く評価されており、ズニジュエリー独特の印象と共にハンドクラフト品の素朴な魅力も感じることが出来ます。
華やかなカラーリングやボリューム感を持ったフェイスにより、際立った存在感を示すリングとなっています。
しかしながらアーシーで上質なマテリアルにより仰々しい印象はなく、抽象的でモダンなデザインとナチュラルな表情を兼ね備え、パワフルでポップなスタイルでもナチュラルな装いにも、さらに少しフォーマルなシーンにさえもフィットし、日常のコーディネイトにおいて素晴らしいアクセントと成り得る作品です。
また、伝統的でクラシックなシルバーワークはナバホやホピの作品とも相性が良く、そのボリューム感やスクエアフェイスの構築的な表情は男性の手においても映えるリングとなっています。
前述の様に独創性や上質な石とシルバーワークのクオリティーを有し、そのビンテージジュエリーながら完成された造形/デザインは、アートピースとしても高く評価できる非常にコレクタブルでハイエンドな作品です。
◆着用サンプル画像はこちら◆
コンディションも大変良好です。全体にシルバーのクスミやハンドメイド特有の制作上のムラなどはありますが、特に目立ったダメージの無い状態を保っています。
また、ターコイズには僅かな変色があるかと思われますが、全ての石が素晴らしい艶を持ち、使用感を感じさせない大変良好な状態となっています。