【NAVAJO】ナバホのアンティークジュエリー、【Fred Harvey Style】フレッド・ハービースタイルや【Tourist Jewelry】ツーリストジュエリーと呼ばれる、20世紀前半頃にアメリカ中西部の観光客向けに制作されたスーベニアアイテム(土産物)の一つで、中央に施された【卍】Whirling Log/Nohokosのアップリケ/パッチワークがメインに構成された貴重なアンティーク/ビンテージバングルです。
動きのあるシェイプと立体的なシルバーワークが魅力的で、刻印された色々なモチーフも楽しいピースとなっています。
1920年代末頃~1930年代製と思われる作品で、ツーリストジュエリーらしい見所が随所に散りばめられています。
バンド/地金のシェイプは、センターが広くターミナル(両端)が細く造形され、上下のエッジは『スキャロップドエッジ』(ホタテ貝)とも呼ばれる細かな動きのあるシェイプに造形されることで少しクラシックな印象を感じさせます。
その中央に厚い卍がアップリケされ、それを中心にしてライトニングスネークやモーニングスターを表す三角形に顔があしらわれたデザイン、さらにカクタス(サボテン)やクロスドアローズ等、アンティークツーリストジュエリーらしいスタンプワークが左右対称に配されています。
また卍の両サイドは、鏨(鉄製の金型ツール)の凸と凹を用いシルバーを叩きだすことで作るシェルコンチョのリポウズ/バンプアウトが施されています。
それらの貝殻を起源に持つ造形や卍がアップリケで表現される事で、立体的で豊かな表情が与えられているようです。
こちらのようなアイテムは、残されている資料等から1923年にニューメキシコ州アルバカーキで創業され、多くのナバホやプエブロの職人が所属した有名工房【Maisel's Indian Trading Post】マイセルズ インディアントレーディングポストで作られた作品と推測されますが、ニューヨークのメーカー【Arrow Novelty】アローノベルティ社等でも製造されており、ショップマークやホールマーク等が入らない為に正確な詳細は不明です。
ただし、当時のカタログ資料によればその製作工房によらず、コインシルバー製である可能性の高い事が推測されます。
また、一部の制作工程には機械が用いられているためマシン&ハンドメイドのハイブリッドなピースであり、ツーリストジュエリーの為、ある程度は生産されていると思われますが、その現存数は非常に少なく、類似した造形/デザインのものを見つけるのは大変困難となっています。
卍 【スワスティカ】 Whirling Log 【ワーリングログ】について・・・
4つの【L】 『LOVE・LIFE・LUCK・LIGHT』 からなる幸福のシンボル卍(Swastikaスワスティカ)はラッキーシンボルとして当時よく使われていたモチーフです。
しかしながら、1933年のナチスドイツ出現、1939年にWW2開戦によりアメリカにおいては敵国ドイツのハーケンクロイツと同一記号は不吉だとして使われなくなってしまいました。
当時の新聞記事にも残っていますが、インディアンたちにも卍が入った作品の廃棄が求められ、政府機関によって回収されたりしたようです。
その後、大戦中にも多くが廃棄されてしまった歴史があり、現存しているものは大変貴重となりました。
こちらはそのような受難を乗り越えて現存しているものです。
【Arrowhead/Arrow】アローヘッド/アローは、『お守り』の意味合いを持ちインディアンジュエリー創成期からみられる最古のモチーフの一つです。
【Crossed Arrows】クロスアローは、 『フレンドシップ』『友愛』『友情』を象徴しています。
【Morning Star】モーニングスター(中央に施されている三角形のスタンプ)は、導きや道標を表します。
【Coin Silver】コインシルバーとは、インディアンジュエリーにおいては銀含有率90.0%の地金を表します。
また、アメリカの古い硬貨における銀含有率は900ですが、日本では800~900や古い100円硬貨では600、メキシカンコインは950であり、900シルバーが最も多く使われていますが世界中で共通した純度ではありません。
同様に【Sterling Silver】スターリングシルバー=【925シルバー】は、銀含有率92.5%の地金であり、こちらは世界中で共通の基準となっています。
また『割金』と呼ばれる残りシルバー以外の7.5%には、銅やアルミニウム等が含まれています。(現在では、スターリングシルバーの割金は7.5%全てが銅と決められています) 925シルバーは熱処理によって時効硬化性をもち、細かな細工や加工に向いていたため食器や宝飾品等様々な物に利用されていますが、インディアンジュエリーにおいては、その初期に身近にあった銀製品、特にシルバーコインを溶かすことで、材料を得ていた背景があるため、現代でも限られた作家によりコインシルバーを用いる伝統が残されています。
シルバーの色味や質感は、『割金』や製法にも左右され、コインシルバー900とスターリングシルバー925の差異は純度2.5%の違いしかない為、見た目で判断するのは困難ですが、やはりコインシルバーは少し硬く、着用によってシルバー本来の肌が現れた時に、スターリングシルバーよりも深く沈んだ色味が感じられると思います。
さらに古い1800年代後半頃の作品では、メキシカンコインが多く含まれていたためか、そのシルバーの純度は95.0%に近くなっているようですが、身近な銀製品を混ぜて溶かしていた歴史を考えると純度に対してそれほど強い拘りはなかったことが推測されます。
本作も少し硬く渋い質感のいシルバーとなっており、石がマウントされずそのシルバーのみで構成されたソリッドで武骨な表情も特徴的なブレスレットとなっています。
ツーリストジュエリーらしい意匠のアイテムながら、非常にバランスの良い秀逸なデザインとなっており、卍をメインとしながらも随所に施されたスタンプやリポウズの立体的なディテールにより、複雑な表情とともに程よい存在感を示します。
またその落ち着いた印象や黒っぽくなっているシルバーの肌、そしてキャッチーなモチーフ等により、性別や季節を問わず、ビンテージスタイルから日常的なシーンまで幅広くフィットさせることが出来るブレスレットとなっています。
『マニュファクチュアラー』と呼ばれる、スーベニアジュエリーの量産化を図った大手の工房で作られたものですが、一つ一つ違ったアップリケやスタンプワークの構成となっており、全く同じ組み合わせはほとんど存在せず大変貴重でコレクタブルなアンティークピースとなっています。
◆着用サンプル画像はこちら◆
コンディションは、画像のようにサイド部分にリペアの跡が確認できます。
ただし、非常に巧くリペアされている為、強度や着用感には問題の無い状態です。
また小キズやシルバーのクスミ等の使用感、ハンドメイド特有の制作時のムラなどは確認できますが、不安のない状態を保っています。