【NAVAJO】ナバホのアンティークジュエリー、インゴットシルバー(銀塊)から成形された硬く堅牢なトライアングルワイヤー(竜骨型)をベースに、力強く刻まれたスタンプワークも魅力的なアンティーク/ビンテージトライアングルバングルです。
当店主が資料用として個人収蔵していたピースの一つで、ホールマーク(作者や工房のサイン)等が刻印されていない為に正確に作者や背景を特定することは出来ませんが、使用されているスタンプツール(鏨・刻印)からは、ヒストリックな名作を多く遺した【C. G. Wallace Trading Post】C.G.ウォレスインディアントレーディングポストに所属したシルバースミスによって作られた事が推定可能な作品となっています。
※着用サンプル画像において重ねて装着している作品は、本作と共に発見されたブレスレットです。販売はそれぞれ単体での販売になっておりますのでご注意ください。
そちらの作品については、下記のリンクよりご確認頂けます。
ITEM CODE:JBO008063
Attr. to【C.G.Wallace T.P.】Stamped Triangle Cuff c.1930~ ①
※スタンプワークのパターン(鏨・刻印ツール)は異なりますが、同作者が同時に制作した作品と思われます。
1930年代~1940年代に作られたピースと思われ、それほど太いワイヤーではありませんが、インゴットシルバー(銀塊)から成形されている事で見た目以上に重く硬い仕上がりとなっています。
現在でもナバホのオーセンティックなスタイルの一つとしてトライアングルワイヤーをベースとした作品は数多く制作されており、一見本作もそれらとの大きな違いは見られません。
しかしながら、現在制作されている作品群のソース/源流となった古いピースであり、その製法やプリミティブながら技術力を感じさせるシルバーワークは非常に高い完成度を誇り、現在作られている類似作品とは全く違った重厚感と迫力を持ったハイエンドな作品です。
本作の様にインゴットシルバーから成形されたトライアングルワイヤーは、シルバーの塊をハンマーワークによってバー形状に叩き伸ばした後、それをトライアングル型に彫り込んだ溝に叩きこんで三角形の断面を形作るか、ローラーを使用して伸ばしながら圧力を掛ける事で成形していきます。
それらハンマーワーク/パウンティング(鍛造)やローラーによる非常に高い圧力により高い密度を獲得し、インゴット成形独特のとても硬く滑らかなシルバーの質感と素晴らしい着用感が生み出されています。
上記のようなトライアングルワイヤーをベースに、やはりアンティーク作品独特な質を持つスタンプツール(鏨・刻印)によって刻まれたスタンプワークも特徴的なブレスレットとなっています。
それは、大胆に構成されたベイナータイプ(弧を描くデザイン)のスタンプを基本としながら、中心から上下左右対称に構成された、クラシックで洗練された印象を作っており、シンプルなデザインに深遠な奥行きを与えているようです。
これらの『スタンプワーク』は、スタンプ/鏨ツールを打ち付けることによってシルバーに文様を刻みこんでいますが、そのツール(鏨)はシルバーよりも硬い鉄(鋼)で作られています。その為、その加工はジュエリー制作よりもはるかに高い難易度となります。
そして、ナバホジュエリーにおけるスタンプワークは、古くからその根幹を成す技術の一つであり、シルバースミスの「技術力」は、スタンプツール/鏨を制作する「技術力」次第であり、優れたシルバースミスは優れたスタンプメーカーと同義です。
さらに、スタンプツール(鏨・刻印)のクオリティは現代作品とビンテージ作品を見分ける上でも大きな特徴となります。
現代においては既製品のスタンプツールが普及し、ツールから自身の手によってハンドメイドするシルバースミス自体が少なくなってしまいましたが、1950年代以前の作品で見られる1920年代~1940年代に作られたスタンプツールの多くはシルバースミスによって制作され、本作と同様に非常に細かな文様を刻むことが出来る高い質を持つことが特徴となっています。
内側にスクラッチにより刻まれている『p-EHS』と思われる文字については、作者ではなく流通上でトレーディングポスト等が商品管理の為に刻んだ文字と思われますが、その文字列が何を意味しているのか正確に読み解く事は出来ません。
【C. G. Wallace INDIAN TRADER/C. G. Wallace Trading Post】C.G.ウォレスインディアントレーダーは、【Charles Garrett Wallace】チャールズ・ガレット・ウォレスが、1928年にZUNI /ズ二のジュエリーを専門に扱うトレーダーとしてズニの町で創業し、非常に多くのズニジュエリー作家を支援しました。
創業後すぐに、ナバホのシルバー彫金技術を必要として【Ike Wilson】アイク・ウィルソン(1901-1942)とその兄である【Austin Wilson】オースティン・ウィルソン(1901-1976)、他にも【Billy Hoxie】ビリー・ホクシー、【Charles Begay】チャールズ・ビゲイ(1912-1998)等の一説には二十数人と言われるナバホ出身のシルバースミスが在籍していたと云われており、こちらの作者もその中の一人による作品だと思われます。
また、彼らの様にズニの町でシルバースミスをしていたナバホの職人は、技術的にはナバホの伝統的な彫金技術を重視していたようですが、植物のようなスタンプワークのデザインや表現等、そのデザインスタイルやディテールには、ナバホジュエリーにはあまり見られないズニ/プエブロの影響を受けていると考えられる作品が多く残されています。
そんな少し特殊な環境や優秀な職人による伝統の継承、さらに経営者であるCharles Garrett Wallaceの献身的なインディアンアーティストへのバックアップにより大変多くの傑作を生み出し、後世に残したトレーディングポストです。
それら残された作品群の一部であるCharles Garrett Wallaceの個人コレクションの約半数は、1975年にアリゾナ州フェニックスのバードミュージアムに寄贈されました。
また、残りの一部はSotheby Parke Bernet社のオークションに出品され、そのオークションカタログは現在でも多くの研究者やコレクターにとっての第一級の資料となっています。
【Ingot Silver】インゴットシルバー(銀塊)からの成形は、アンティークインディアンジュエリーにおいて非常に重要なファクターですが、銀含有率/品位とは関係なく、ジュエリーの製法技術を表します。
現在制作されている作品の多くは、材料として市販されているシルバープレート(銀板/ゲージ)を加工することでジュエリーとして成形されていますが、インゴットから成形する製法では一度溶かしたシルバーを、鍛冶仕事に近い方法であるハンマーやローラーで叩き伸ばすことでジュエリーとして成形していきます。
最終的にはどちらもプレートやバーの形態になるため、大きな差は無いように思われますが、インゴットから成形されたシルバーの肌は、硬くなめらかで鈍い光を持っています。
それにより生み出されるプリミティブで武骨な作品の表情は、やはりアンティークインディアンジュエリーの大きな魅力です。
また、1930年代にはシルバープレートが登場しますが、当時シルバープレートを用いて制作されたジュエリーは政府によりインディアンクラフトとして認定されず、グランドキャニオンなどの国立公園内で販売できなくなった記録も残っています。
本作もインゴットシルバーから成形される事で大変硬く独特な艶を持った質感となっており、古典的な技術によって形作られながらエッジーでモダンな印象さえも有し、上質感とジュエリーとしての品位も備えたブレスレットとなっています。
ナバホのオーセンティックなスタイルとして長く制作されることになるトライアングルワイヤー。その非常にシンプルで洗練されたデザインと普遍的な造形美は、性別やシーンを問わずどんな装いにもフィットする高い汎用性を示しタイムレスに末永く長くご愛用いただけるかと思われます。
さらに控えめな幅とオーセンティックで美しいデザインは重ね付けにも向いたバングルですが、こちらの様な太さのトライアングルワイヤーは単独でもしっかりとした存在感を放ちます。
このようなトライアングルワイヤーバングルはアンティークナバホジュエリーの中でも最も人気の高い造形スタイルの一つであり、本作はさらに歴史的な背景も推定可能な高い資料価値も有するアンティークジュエリー。非常にコレクタブルな作品の一つであり、トレジャーハントプライスなピースとなっています。
◆着用サンプル画像はこちら◆
コンディションも大変良好です。
シルバーには多少のクスミや僅かなキズが見られ、ハンドメイド作品特有の制作上のムラ等はありますが、使用感を感じさせないとても良好な状態を保っています。