【NAVAJO】ナバホのビンテージジュエリー、古いコンチョボタンを想起させるデザインがキャスト成形によって形作られ、その中央に美しいハイグレードブルージェムターコイズがマウントされたアンティーク/ビンテージピンブローチです。
また裏側には『HAND MADE NAVAJO』の刻印が刻まれており、作者個人の特定は不可能ですが、M. L. Woodardがニューメキシコ州ギャラップで運営していたインディアンクラフトショップ【Woodard's Indian Arts】ウッダーズインディアンアーツで制作された事が推察可能な大変貴重な作品となっています。
トゥーファ/サンドキャスト成形の作品はナバホジュエリー創成期からみられる技術の一つですが、本作のようにヤスリで削り出す事によりエッジのしっかりとした個体の場合には、『トゥーファキャスト』による成形か『サンドキャスト』(砂型鋳物)によるものか明確な判断が困難です。
さらに、それらの古くから完成された技術/技法は現在に至るまで大きな変化なく受け継がれている為、正確な制作年代の特定も難しくなっています。
本作では、量産向けにパターン化された『型』による造形ではなく、作者のオリジナリティーと高い技術を感じさせます。
また細部がヤスリで削り出す事て作り上げたエッジのしっかりとした造りや裏面の研磨等の美しい仕上げ工程、そしてターコイズの質等からは、1940年代末~1960年代前半頃に作られた作品と思われます。
左右対称にフラワーコンチョの様な造形が構成され、そのデザインに美しくフィットするオーバルシェイプにカットされたターコイズがマウントされています。
またそのシルバー部分を形作ってい断面は、全てが三角形/トライアングル型で構成されており、立体的で美しいエッジを持ち品位のある印象に仕上げられています。
マウントされたターコイズは、美しい色彩と強い発色を持った【High Grade Blue Gem Turquoise】ハイグレードブルージェムターコイズです。
ナバホの伝統的造形をどこかモダンでエレガントな印象に昇華しているのはこの石による効果と思われます。
素晴らしい透明感と澄んだ深みを持ちアーシーなゴールドのマトリックスや、グリーングラデーションのウォーターウェブが入り複雑で深淵な表情を見せています。
ブルージェムはもともと硬度の高いターコイズですが、こちらはそんなブルージェムの中でもハイグレードにグレーディングされる色と硬度を持つ石です。
その神秘的で強い煌めきを持った石は、古い作品でありながら現在も宝石として価値を失っていないナチュラル無添加ターコイズです。
裏側には『HAND MADE』と『NAVAJO』の刻印が施されています。同時にスクラッチにより刻まれている文字については、作者ではなく流通上でトレーディングポスト等が商品管理の為に刻んだ文字と思われますが、その文字列が何を意味しているのか正確に読み解く事は出来ません。
また『HAND MADE』と共に925シルバー製であることを表す『STERLING』のスタンプが施された作品は比較的多く発見されていますが、本作の様に作者の部族を示す『NAVAJO』の刻印が施されたピースは、非常に貴重となっています。
最初に『HAND MADE AT THE INDIANS』 『HAND MADE BY INDIANS』を使用したのは1920年にコロラド州で創業した【GARDEN OF THE GODS TRADING POST】ガーデンオブザゴッド トレーディングポストです。
1930年代には、当時【Kenneth Begay】ケネス・ビゲイと【Allan Kee】アレン・キーが所属していたフラッグスタッフの【Babbitt's Indian Shop】バビッツ・インディアンショップや、ビンテージインディアンジュエリーの歴史を紐解く上でとても重要であり【Joe H. Quintana】ジョー・キンタナが所属していたことでも知られる【Seligman's】セリグマンズ、そしてアリゾナ州にオープンし、上記のBabbitt's Indian Shopから移籍したKenneth Begay、Allan Keeという名工達によってその名を馳せた【White Hogan】ホワイト ホーガン等でも『HAND MADE』の刻印が使用されました。
『NAVAJO』の刻印については、アメリカ政府のバックアップを受けて誕生した組織【Indian Arts & Crafts Board】(IACB)が、各地のトレーディングポストで聖制作された作品に対し、その製法やクオリティーを保証・認証する証として刻印した『U.S.NAVAJO』があります。
そして、本作の制作元と思われる1930年代後半創業の【Woodard's Indian Arts】ウッダーズインディアンアーツが『HAND MADE NAVAJO』の双方を刻印していたようです。
他に同店で制作されたと思われる『HAND MADE HOPI』等、他部族のシルバースミスによる作品も発見されています。
その後、1980年代以降でも散見される『HAND MADE』の刻印ですが、相対的に高い技術を感じさせる作品に多く、有力なショップや工房で用いられた歴史的な傾向があったようです。
また、それらの店には1930年代中頃~1950年代に多く産出した素晴らしいクオリティーのターコイズが供給されていたという共通点も見られます。
【Woodard's Indian Arts】ウッダーズインディアンアーツは、ニューメキシコ州ギャラップにて1930年代後半にM. L. Woodardが始めたインディアンクラフト&アートショップです。
M. L. Woodardは、【the United Indian Trader's Association】(UITA)のエグゼクティブディレクターを務めた人物で、インディアンアートのバックアップやアメリカ政府との交渉を行った重要な人物です。
ショップはアリゾナ州ツーソンとスコッツデール、ニューメキシコ州サンタフェでも展開されており、後に店の頭文字である『W』とIndian Hand Madeを表す『IHM』、Sterling Silverの『S/S』が刻印されるようになります。
もちろん量産化された作品ではなく、全てハンドメイドの昔ながらの技術を使った作品にこだわりながら、比較的モダンなイメージの作品が多く制作された工房兼ショップです。
【Tufa Cast】トゥーファキャストとは、 トゥーファストーンという石を使用したナバホ族の伝統的な鋳造製法です。
インディアンジュエリーにおける『キャスト』は、このトゥーファキャストを原点としています。
サンドキャスト(砂型鋳物)もナバホジュエリーにおける代表的な技術となっていますが、インディアンジュエリーにおけるサンドキャストはトゥーファキャストの副産物として生み出された技術です。
材料となるのはトゥーファ鉱山より採掘される軽石のようなとても柔らかい石(トゥーファストーン)で、これをデザインに合わせて削ることによって作品の型を制作します。
2枚用意されたトゥーファの片方にデザインを彫刻し、2枚合わせたトゥーファの溝にシルバーを流し込んで鋳造します。
量産には向かず、多くが一点物の作品になり手間もかかるため、多くのアーティストが扱う技術ではありません。
サンドキャストについては、トゥーファストーンを削った時に生まれる粉末をオイルと混ぜることで粘土状にし、トゥーファキャストによって制作した鉛による『金型』を粘土状の砂型に押し付ける事でシルバーを流し込む窪みを作ります。
複製の難しいトゥーファキャストと異なり、金型による複製画可能なサンドキャストもトゥーファキャストと並行して受け継がれていますが、古い作品におけるトゥーファキャストとサンドキャストは、表面の研磨によって差異が無くなってしまうため、多くの作品においてどちらによる成形か判別困難となっています。
また現在、トゥーファキャストの最大の特徴となっているのは、シルバーに映し出される石の質感を、そのまま活かす仕上げです。
大地の自然な表情を切り取ったような独特の質感が表現され、その様な仕上げは【Charles Loloma】チャールズ・ロロマが発展させ、インディアンジュエリーの一つの表現方法として周知された手法です。
そこに現れるシルバーの表情はとても荘厳で自然に溶け込むような雰囲気を持っています。
本作の様に上質感のある丁寧で綺麗な仕上げの施されたキャスト成形によるブレスレットやピンブローチ、リング等の作品もミッドセンチュリー期に多く制作された傾向があります。
また、その高い完成度を誇るシルバーワークと、上質な石が多く産出した時代のオールドターコイズがクラシックな印象と品位を与え、小さくも深淵な世界を持ったジュエリー作品となっています。
さらに、程よいボリューム感により多くアイテムに合わせやすく、色々なスタイルに馴染みの良い印象です。
ジャケットやそのラペル等にもフィットしますし、キャップやハット、バッグ等のワンポイントとしても使い勝手の良いピースです。
古典期の作品を踏襲したデザインはビンテージ工芸品としての趣を持ちながら、その完成度によりアートピース・ウェアラブルアートとしても高く評価できる大変コレクタブルなキラーピースの一つとなっています。
◆着用サンプル画像はこちら◆
コンディションも大変良好です。
シルバーのクスミや僅かな小傷、ハンドメイド作品特有の制作上のムラ等は確認できますが、殆ど使用感を感じない良い状態を保っています。
また、ターコイズにはマトリックス部分に凹凸(マトリックスロス)が見られますが、それらは天然石が持つ特徴でありダメージではありません。
現在もアンティークピースとは思えない程、素晴らしい透明感と艶を保っています。