【Fred Harvey Style】フレッド・ハービースタイルや【Tourist Jewelry】ツーリストジュエリーと呼ばれる、20世紀前半頃にアメリカ中西部の観光客向けにスーベニアアイテム(土産物)の一つとして作られたアンティーク/ビンテージバングルです。
アーシーなセンターのグリーンターコイズと、その両サイドにアップリケされたサンダーバードをメインに、アローやライトニングスネーク、クロス等の多彩なスタンプワークも特徴的なピースとなっています。
1920年代末頃~1940年代製と思われ、おそらくコインシルバー(銀含有率90.0%)から作られたバンドをベースとしています。
フロント部分が2本に割り開かれた伝統的でオーセンティックなスプリットバンドの造形となっており、中央にフラワーコンチョが配されグリーンターコイズがマウントされています。
そしてその両サイドには、ツーリストジュエリーやフレッド・ハービースタイルと呼ばれるアイテム群を代表する、サンダーバードをモチーフとしたアップリケが施されています。
それぞれに力強く立体的なスタンプワークによって細部を描き出し、クロスなどのモチーフも刻まれる事で存在感のあるサンダーバードとなっています。
さらに、サイドからターミナルにかけても、ライトニングスネークやクロス等のスタンプが刻まれており、ツーリストらしい味わいとキャッチーな魅力をもたらしています。
モチーフや構成はツーリストジュエリーらしいキャッチーなイメージですが、ツーリストジュエリーの中では比較的しっかりとした造りのピースです。
また、ワイルドなマトリックスが特徴的なグリーンターコイズがマウントされており、ナチュラルで馴染みの良いアクセントとなっています。
多くの工程がハンドメイドで作られていますが、ターコイズを留めるベゼル(覆輪)には『ベゼルカップ』と呼ばれる既製のパーツや、アップリケされたサンダーバードのカッティングなど一部の工程には、機械が用いられていると思われ、、マシン&ハンドメイドのハイブリッドなピースとなっています。
またこちらのようなアイテムは、コロラド州デンバーでツーリスト向けのジュエリーを最も古くから製造していたことで知られる【Harry Heye Tammen】H.H.タンメン社、又は同社から独立したニューヨークのメーカー【Arrow Novelty】アローノベルティ社や、1923年にニューメキシコ州アルバカーキで創業され、多くのナバホやプエブロの職人が所属した有名工房【Maisel's Indian Trading Post】マイセルズ インディアントレーディングポスト等で製造されていましたが、こちらにはショップマークやホールマークは入らず詳細は不明となっています。
ただし、当時のカタログ資料によればその製作工房によらず、コインシルバー製である可能性の高い事が推測されます。
【Coin Silver】コインシルバーとは、インディアンジュエリーにおいては銀含有率90.0%の地金を表します。
また、アメリカの古い硬貨における銀含有率は900ですが、日本では800~900や古い100円硬貨では600、メキシカンコインは950であり、900シルバーが最も多く使われていますが世界中で共通した純度ではありません。
同様に【Sterling Silver】スターリングシルバー=【925シルバー】は、銀含有率92.5%の地金であり、こちらは世界中で共通の基準となっています。
また『割金』と呼ばれる残りシルバー以外の7.5%には、銅やアルミニウム等が含まれています。(現在では、スターリングシルバーの割金は7.5%全てが銅と決められています)
主にイギリスの影響を受けた国において『STERLING』、それ以外の国において『925』の表記・刻印が使用されています。
925シルバーは熱処理によって時効硬化性をもち、細かな細工や加工に向いていたため食器や宝飾品等様々な物に利用されていますが、インディアンジュエリーにおいては、その初期に身近にあった銀製品、特にシルバー製のコインを溶かすことで、材料(地金)を得ていた背景があるため、現代でも限られた作家によりコインシルバーを用いる伝統が残されています。
インディアンジュエリーの歴史では、1900年代初頭にH.H.タンメン社が『800-Fine Silver』(シルバー含有率80.0%)を採用し、1910年代~1940年代初頭までに作られたツーリストジュエリーにおいては、Coin Silver 900が多く採用されました。
シルバーの色味や質感は、『割金』や製法にも左右され、コインシルバー900とスターリングシルバー925の差異は純度2.5%の違いしかない為、見た目で判断するのは困難ですが、やはりコインシルバーは少し硬く、着用によってシルバー本来の肌が現れた時に、スターリングシルバーよりも深く沈んだ色味が感じられると思います。
さらに古い1800年代後半頃の作品では、メキシカンコインが多く含まれていたためか、そのシルバーの純度は95.0%に近くなっているようですが、身近な銀製品を混ぜて溶かしていた歴史を考えると純度に対してそれほど強い拘りはなかったことが推測されます。
【Thunderbird】サンダーバード はインディアンジュエリーの伝統的なモチーフの一つで、伝説の怪鳥であり、雷や雲、ひいては雨とつながりが深く幸福を運んでくるラッキーシンボルでもあります。 ジュエリーでは『限界の無い幸福』を表すシンボルであり、ネイティブアメリカンの守り神的存在です。
実在しない為にその容姿は作者の意匠に委ねられており、イーグルの様な威厳のある姿から、小鳥の様な可愛いデザインまで幅広く表現されているのも魅力の一つとなっています。
【Arrow/Arrow Head】アロー/アローヘッドは、 プロテクト(お守り)を意味しています。【Crossed Arrows】クロスアローは、 『フレンドシップ』『友情』を象徴しています。
ツーリストジュエリーでありながら経年とアンティークのシルバーが持つ質感やワイルドでアーシーなターコイズによって渋い表情とビンテージ独特の迫力を持っています。
またポップな印象のモチーフやシルバーの落ち着いた表情は、性別や季節、スタイルを問わず馴染みやすい高い汎用性を持っています。
さらに、男性向けのアクセサリーには重要な要素である『ギャップ』と『遊び心』を与えてくれるアイテムであり、スタイルにアクセントと奥行きをもたらすことが出来るビンテージ独特のバングルです。
『マニュファクチュアラー』と呼ばれる、スーベニアジュエリーの量産化を図った大手の工房で作られたものですが、一つ一つ違ったアップリケやスタンプワークの構成となっており、全く同じ組み合わせはほとんど存在せず大変貴重でコレクタブルなアンティークピースとなっています。
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コンディションも大変良好です。
シルバーには全体にクスミ等が見られ、ハンドメイド特有の制作上のムラ等などは見られますが、使用感少なく良い状態を保っています。
ターコイズには、マトリックス部分(母岩)には凹凸が見られますが、それらはカットされた時からの天然石由来の特徴(マトリックスロス)であり、ダメージではありません。