【Fred Harvey Style】フレッド・ハービースタイルや【Tourist Jewelry】ツーリストジュエリーと呼ばれる、20世紀前半頃にアメリカ中西部の観光客向けに制作されたスーベニアアイテム(土産物)の一つ。中でも当時有名工房の一つであった【Arrow Novelty】アローノベルティ社製のピースで、コインシルバー製のオーセンティックなクロストップをベースに【逆卍】Whirling Log/Nohokos等、多様なスタンプワークが刻まれたアンティーク/ビンテージネックレスです。
1920年代中頃~1930年代に作られた作品で、コインシルバーインゴット(銀塊)から成形されたワイルドな質感のクロストップです。
その2か所に異なったデザインの卍と逆卍、さらにアローやベアポーの様なツーリストジュエリーらしいスタンプが多数施されており、素朴ながら味わい深い表情が魅力的な作品です。
また、当店でレザーレースと組み合わせており、程よいサイズ感で石のマウントされないクロスの為、さり気なく合わせて頂きやすいネックレスとなっています。
表面には凹凸や粗い肌質の部分が見受けられますが、これはコインシルバーを溶かしてバー形状やある程度のクロス形状を作り、それを成形していく過程で生まれたものと思われます。
そして裏側には、工房Arrow Noveltyのホールマークである『COIN 900』の文字が刻まれたアローヘッドが刻印されています。
【Arrow Novelty】アローノベルティ社は、アメリカにおいてツーリスト向けのジュエリーを最も古くから製造していたコロラド州デンバーのメーカー【Harry Heye Tammen】H.H.タンメン社でアシスタントマネージャーをしていた【Rudolph Litzenberger】がニューヨークで1919年に創業しました。
1925年には現在復刻されてよく見かけるカタログを発行し、当時のツーリストジュエリームーブメントを支える大手メーカーの一つとなっています。
また、当時のカタログを比べた時にH.H. TammenとArrow Noveltyのデザインが極似し、品番やプライスも同一であることから、Arrow Noveltyの販売した製品は、ある時期までH.H. Temmenが製造していたと推測されます。
当時、すでに競争が激しかったスーベニア産業においての同社の戦略は【Maisel's】の長所(そのスタイルやクオリティー)とH.H. Tammenのノウハウ(量産化)を同時に進めることだったようです。
製造元を表すサインであるホールマークはあまり多く刻印されなかったようですが、その多くをコインシルバーで制作し、Maisel'sやGARDEN OF THE GODS TRADING POST、SOUTHWEST ARTS&CRAFTS等、古くから営まれる工房の作品をデザインソースとしながらも、それまでのツーリストジュエリーに比べすっきりと完成度の高いデザインが多いのが特徴で、プライスもMaisel'sの似たタイプのものと比べ安く設定されていたようです。
ただし、いつ頃からか不明ですが、残念ながら製造にはインディアン以外の作業員が携わっていたとされています。
そのため、カタログには『Indian Design』と表記されており、多くの秀逸なデザインを残していますが、同じようにジュエリーの量産化を進めたBellやMaisel'sと違いインディアンメイドではないという理由で、Arrow Noveltyのピースは当店での取扱いが少なくなっています。
【Coin Silver】コインシルバーとは、インディアンジュエリーにおいては銀含有率90.0%の地金を表します。
また、アメリカの古い硬貨における銀含有率は900ですが、日本では800~900や古い100円硬貨では600、メキシカンコインは950であり、900シルバーが最も多く使われていますが世界中で共通した純度ではありません。
同様に【Sterling Silver】スターリングシルバー=【925シルバー】は、銀含有率92.5%の地金であり、こちらは世界中で共通の基準となっています。
また『割金』と呼ばれる残りシルバー以外の7.5%には、銅やアルミニウム等が含まれています。(現在では、スターリングシルバーの割金は7.5%全てが銅と決められています) 925シルバーは熱処理によって時効硬化性をもち、細かな細工や加工に向いていたため食器や宝飾品等様々な物に利用されていますが、インディアンジュエリーにおいては、その初期に身近にあった銀製品、特にシルバーコインを溶かすことで、材料を得ていた背景があるため、現代でも限られた作家によりコインシルバーを用いる伝統が残されています。
シルバーの色味や質感は、『割金』や製法にも左右され、コインシルバー900とスターリングシルバー925の差異は純度2.5%の違いしかない為、見た目で判断するのは困難ですが、やはりコインシルバーは少し硬く、着用によってシルバー本来の肌が現れた時に、スターリングシルバーよりも深く沈んだ色味が感じられると思います。
さらに古い1800年代後半~1920年代以前の作品では、メキシカンコインが多く含まれていた為、そのシルバーの純度は95.0%に近くなっている個体も多いようですが、身近な銀製品を混ぜて溶かしていた歴史を考えると純度に対してそれほど強い拘りはなかったことが推測されます。
【Ingot Silver】インゴットシルバー(銀塊)からの成形は、アンティークインディアンジュエリーにおいて非常に重要なファクターですが、銀含有率/品位とは関係なく、ジュエリーの製法技術を表します。
現在制作されている作品の多くは、材料として市販されているシルバープレート(銀板/ゲージ)を加工することでジュエリーとして成形されていますが、インゴットから成形する製法では一度溶かしたシルバーを、鍛冶仕事に近い方法であるハンマーやローラーで叩き伸ばすことでジュエリーとして成形していきます。
最終的にはどちらもプレートやバーの形態になるため、大きな差は無いように思われますが、インゴットから成形されたシルバーの肌は、硬くなめらかで鈍い光を持っています。
それにより生み出されるプリミティブで武骨な作品の表情は、やはりアンティークインディアンジュエリーの大きな魅力です。
また、1930年代にはシルバープレートが登場しますが、当時シルバープレートを用いて制作されたジュエリーは政府によりインディアンクラフトとして認定されず、グランドキャニオンなどの国立公園内で販売できなくなった記録も残っています。
【卍】【Whirling Log】ワーリングログ【Swastika】スワスティカについて・・・
アルファベットの『L』を4つ組み合わせて生まれた記号であり 『LOVE・LIFE・LUCK・LIGHT』 からなる幸福のシンボルであり、ラッキーシンボルとしてネイティブアメリカンの工芸品において広く認知されていたモチーフです。
しかしながら、1933年のナチスドイツ出現、1939年にWW2開戦により、アメリカにおいては敵国であるドイツのハーケンクロイツと酷似した記号は不吉だとして使われなくなってしまいました。
1941年当時の新聞記事にも残っていますが、インディアンたちにも卍が施された作品の廃棄が求められ、政府機関によって回収された事もあったようです。
その後、大戦中にも多くが廃棄されてしまった歴史があり、現存しているものは大変貴重となりました。
本作はそのような歴史的な受難を乗り越えて現在まで受け継がれてきたピースであり、史料価値を感じる事の出来るビンテージジュエリーとなっています。
クロスモチーフはキリスト教の普及と同時にとても古い時代からインディアンアートにも落とし込まれ、ズニの巨匠【Horace Iule】(1901-1978)等のクロスモチーフ作品で有名になった作家も存在しています。
しかしながら、こちらのように古い年代におけるクロスモチーフは現存数が少なく大変貴重なピースとなります。
普遍的でオーセンティックなクロスモチーフは高い汎用性を示し、コインシルバーインゴットから成形された渋くワイルドなシルバーの質感は、多くの素材に馴染みが良く、程よいサイズ感も含め日常のコーディネートに取り入れやすいネックレスとなっています。
また、95㎝まで長く使用する事が可能なレザーレースにセットしており、長さを変えることでその印象も大きく変化させることが可能で、性別やスタイルを問わず合わせて頂けると思われます。
【Arrow Novelty】アローノベルティ社という製作の背景が明確な作品であり、同社の古いカタログでも紹介されているクロストップですが、実物の確認されている数は極端に少なく、本作では卍刻印も含め大変貴重で類似作品の発見は非常に困難なコレクタブルピースとなります。
◆着用サンプル画像はこちら◆
コンディションは全体にシルバーのクスミや、インゴットシルバーからの成形による凹凸等、ハンドメイド特有の制作上のムラが見られますが、特にダメージは無く大変良い状態を保っています。