【Kewa】キワ/【Santo Domingo】サントドミンゴか【NAVAJO】ナバホのシルバースミスによるアンティークジュエリー、【卍】Whirling Log/Nohokosのスタンプワークがメインに構成されたアンティーク/ビンテージリングです。
1910年代後半~1930年代初頭頃に作られた作品で、インゴットシルバー(銀塊)から成形されたバンド/地金をベースとし、卍の両サイドに施されたスタンプワークのデザイン等、オーセンティックな造形を基本としながらも独自性を感じさせる作品となっています。
インゴットシルバー(銀塊)から成形されたシャンクはしっかりとした厚みを持ち、サイド~バックには、ファイルワークと呼ばれる鑢で削る技術によって立体的なテーパーラインが施される等、作者の細やかな拘りが感じられます。
その様なさり気なくも手の込んだシャンクをベースとして、全体に力強くスタンプワークが施されています。
スタンプツール(鏨・刻印)のクオリティーも素晴らしく、アンティーク独特の武骨でありながらクリエイティブな紋様を作り上げています。
特に卍の両サイドに刻まれた独特な幾何学模様を描き出す黒い面積の多いスタンプは、ナバホのシルバースミスではなくキワ/サントドミンゴ族のシルバースミスが使用したとされています。
そのディテールにより、明確ではありませんが本作もキワ/サントドミンゴのシルバースミスによって作られた可能性の高いピースとなっています。
また、インゴット(銀塊)から成形されたシャンク/地金は、センターに向かって幅が少し広くなったシェイプでエッジが鞣されており、 ハンマーワークで叩きのばすことで成形された硬く上質感のある肌に仕上げられています。このようなハンマーワークによる造形は高い技術を必要とし、現在では限られた作家の作品でしか見られないディテールとなっています。
本作の様な造形スタイルや卍モチーフ等を用いたジュエリーは、後に多く作られる【Fred Harvey Style】フレッド・ハービースタイルや【Tourist Jewelry】ツーリストジュエリーと呼ばれる、20世紀前半頃に観光客向け/ツーリストアイテムのデザインソースとなった作品です。
全ての工程を一人の職人が担当し、全てハンドメイドで丁寧に仕上げられており、現在フレッド・ハービースタイルと呼ばれる【Manufacturers】メーカーによって分業化や量産化されたツーリストアイテムとは一線を画すクオリティーと味わいを持った貴重なオリジナルピースであり、その希少性と価値を高めています。
1910年代~1940年代当時、サウスウエスト地方の観光の隆盛に伴ってスーベニア産業もその需要に応えるため、多くのショップやメーカーが生まれました。
それらは元々トレーディングポストとして運営されていましたが、やがて多くのインディアンを雇い入れる【Maisel's Indian Trading Post】マイセルズ インディアントレーディングポストや、【BELL TRADING POST】ベルトレーディングポスト等も創業されることになります。
初期の1910年代~1920年代までは、双方の作品には製法やデザインに大きな差がありませんでした。
しかし、後者のメーカーは1930年代に入ると工房で多くのインディアンに同時制作させることにより分業化や機械化をはじめ、少しずつ伝統的な製法や作品の味わいは失われていきました。
また、それらのメーカーの生産する作品の多くはクリエイティブな作家を要するトレーディングポストで生まれた作品の模倣も多く、【Fred Peshlakai】 フレッド・ぺシュラカイ(1896-1974)や【GARDEN OF THE GODS TRADING POST】ガーデンオブザゴッズトレーディングポストに所属した【Awa Tsireh】アワ・シーディー(1898-1955)のデザインを作品をはじめ、【NAVAJO GUILD】ナバホギルドの作品や【C. G. Wallace Trading Post】チャールズ・ガレット・ウォレス トレーディングポストの工房で作られたなどの作品等は多くの模倣品が作られています。
そのため当時、模倣品との明確な区別を促すため、UITA【United Indian Trader's Association】などが組織され、上記のような量産化された作品と差別化が図られた歴史もあります。
【卍】【Whirling Log】ワーリングログ【Swastika】スワスティカについて・・・
アルファベットの『L』を4つ組み合わせて生まれた記号であり 『LOVE・LIFE・LUCK・LIGHT』 からなる幸福のシンボルであり、ラッキーシンボルとしてネイティブアメリカンの工芸品において広く認知されていたモチーフです。
しかしながら、1933年のナチスドイツ出現、1939年にWW2開戦により、アメリカにおいては敵国であるドイツのハーケンクロイツと酷似した記号は不吉だとして使われなくなってしまいました。
1941年当時の新聞記事にも残っていますが、インディアンたちにも卍が施された作品の廃棄が求められ、政府機関によって回収された事もあったようです。
その後、大戦中にも多くが廃棄されてしまった歴史があり、現存しているものは大変貴重となりました。
本作はそのような歴史的な受難を乗り越えて現在まで受け継がれてきたピースであり、史料価値を感じる事の出来るビンテージジュエリーとなっています。
【Ingot Silver】インゴットシルバー(銀塊)からの成形は、アンティークインディアンジュエリーにおいて非常に重要なファクターですが、銀含有率/品位とは関係なく、ジュエリーの製法技術を表します。
現在制作されている作品の多くは、材料として市販されているシルバープレート(銀板/ゲージ)を加工することでジュエリーとして成形されていますが、インゴットから成形する製法では一度溶かしたシルバーを、鍛冶仕事に近い方法であるハンマーやローラーで叩き伸ばすことでジュエリーとして成形していきます。
最終的にはどちらもプレートやバーの形態になるため、大きな差は無いように思われますが、インゴットから成形されたシルバーの肌は、硬くなめらかで鈍い光を持っています。
それにより生み出されるプリミティブで武骨な作品の表情は、やはりアンティークインディアンジュエリーの大きな魅力です。
また、1930年代にはシルバープレートが登場しますが、当時シルバープレートを用いて制作されたジュエリーは政府によりインディアンクラフトとして認定されず、グランドキャニオンなどの国立公園内で販売できなくなった記録も残っています。
本作もインゴットシルバー(銀塊)から成形される事で、独特の硬さや重量感を持った作品となっています。
また、プリミティブな技術によって形作られたオーセンティックな造形スタイルの作品ですが、スタンプツール(鏨・刻印)の素晴らしいクオリティとオリジナリティによって、突出した完成度を誇るリングとなっています。
インディアンジュエリーの古典的な技術によって構成されたクラシックな作品ながら、現代においてもデザインの独創性や新鮮な印象を失っておらず、とても重厚で武骨ながら洗練された完成度を持つハイエンドなリングです。
シルバーのみで構成され、ジュエリーとしての派手さは持っていませんが、アンティーク独特の渋い表情や程よいボリューム感、そしてプリミティブな技術が生み出す手仕事の柔らかさは、多くのスタイルに馴染む汎用性を示します。
アンティークジュエリーの中でもリング/指輪は使用による消費や紛失などにより現存数が非常に少なく、特にシルバーのみで構成されたピースは大変貴重です。
さらに、こちらの様なインディアンジュエリーの歴史の中でも黎明期に制作された個体は、高い史料価値も有しています。
◆着用サンプル画像はこちら◆
コンディションは、少し経年を感じさせるクスミやハンドメイド特有の制作上のムラなどが見られますが、目立ったダメージの無い良好なコンディションです。
またシャンクの繋ぎ目が確認できますが、これはサイズ直しの跡ではなく制作時の繋ぎ目と推測されます。
【卍】の入るピースは戦後もほとんど着用されずに保管されていることが多く、現存数は少ないですが、コンディションの良い個体が多いことも特徴の一つです。