【NAVAJO】ナバホのアンティークジュエリー、ナローなトライアングルワイヤー(竜骨型)のバンドをベースに【逆卍】Whirling Log/Nohokosやアロー等のスタンプワークが刻まれたアンティーク/ビンテージバングルです。
おそらくインゴットシルバー(銀塊)から成形され、このような幅の作品においては貴重な大きめサイズのブレスレットとなっています。
【Tourist Jewelry】ツーリストジュエリーや【Fred Harvey Style】フレッド・ハービースタイルとも呼ばれる、20世紀前半頃に観光客向けに作られたスーベニアアイテムの一つ。しかしながら、全ての工程がハンドメイドで仕上げられており、マシン工程が併用され量産化された同スタイルのピースと比べ、粗暴ながらも独特の完成度と質感を感じさせる作品です。
1930年代頃に作られた作品で、インゴットシルバー(銀塊)から成形されたと思われるトライアングル(竜骨型)ワイヤーは、独特な角度を持ったトライアングル/三角形の断面に成形されています。
それは現代の作品で多く使用されているコマーシャルワイヤー(既製の地金用シルバーワイヤー)には存在しない、頂点の角度が少し鈍角な三角形型の断面に成形されています。さらにそれは、市販されているトライアングルワイヤー(コマーシャルワイヤー)にスタンプを施した作品に比べ、独特な硬さが感じられます。
さらに、上下対称に逆卍やアロー等のスタンプワークが大変力強く刻み込まれており、ターミナル(バングルの端)のエッジは斜めに角度を付けて仕上げられています。
これらの製法や造形スタイルからは、ツーリストジュエリーの中でも古い作品と推測する事が出来ます。
また、初期のツーリストジュエリーである為、具体的なモチーフが卍とアロー以外には見られず、スタンプ(鏨・刻印)は抽象的なモチーフとなっていますが、連続して構成されることでプリミティブな中に、どこか洗練された印象も感じさせます。
造形スタイルやスタンプツール(鏨・刻印)等から、1932年創業の【BELL TRADING POST】ベルトレーディングポストで制作されたものと推測されますが、ショップマークやホールマークは入らず詳細は不明となっています。
分業化・量産化を始める以前に全てハンドメイドによって制作された創業初期の作品と思われ、それによりコインシルバー製である事も推定可能となっています。
【卍】鉤十字 (Swastika/スワスティカ)とは・・・
ネイティブアメリカンにおける卍モチーフは【Whirling Log】ワーリングログや【Nohokos】ノホコスと呼ばれ『LOVE・LIFE・LUCK・LIGHT』4つの単語における頭文字【L】を組み合わせる事で生み出された幸福を象徴するラッキーシンボルとして長い歴史を持っています。
また世界的にも、サンスクリット語の『幸運』を意味する言葉に由来し、仏教、ヒンドゥー教、オーディン教、さらにキリスト教における十字の一種としても用いられ、神聖なシンボルとして古くから世界中で見られる記号・象徴の一つとなっています。
日本においても家紋や寺社を表す地図記号として現在でも使用され、身近な図案や記号として用いられています。
しかしながら1933年のナチスドイツが出現し、1939年にはアメリカも第二次世界大戦に参戦すると、敵国ドイツ(ナチス)のシンボルであるハーケンクロイツと酷似した記号は不吉だとして使われなくなってしまいました。
1941年の新聞記事にも残っていますが、ネイティブアメリカンたちにも卍が入った作品の廃棄が求められ、政府機関による回収も行われました。
その後、大戦中にも多くの卍を用いた作品が廃棄されてしまった歴史があり、現存しているものは大変貴重となりました。
本作はそのような歴史的な受難を乗り越えて現在まで受け継がれてきたピースであり、史料価値を感じる事の出来るビンテージジュエリーとなっています。
また、ネイティブアメリカンの工芸品においてはジュエリーだけでなくラグやバスケット、ポッテリー等でも重用されていたモチーフであり、卍と逆卍の使い分けは意識されていなかったようです。比較的逆卍が多いようにも感じられますが、卍・逆卍共に区別なく用いられていたと思われます。
【Arrow/Arrowhead】アロー/アローヘッドは『お守り』の意味合いを持ち、インディアンジュエリー創成期からみられる最古のモチーフの一つです。
【BELL TRADING POST】ベルトレーディングポストは、ニューメキシコ州アルバカーキーで【Jack T Michelson】ジャック・ミケルソンとその妻により1932年頃に設立されました。また『BELL』の名前は妻である【Jack Mildred】ジャック・ミドルトンの旧姓から名づけられました。
ツーリストジュエリーをメインに非常に多くのアイテムを供給し、【Maisel's Indian Trading Post】マイセルズ インディアントレーディングポストと並ぶ有名メーカーとして知られていますが、創業からしばらくは、【Ganscraft/Julius Gans Southwestern Arts and Crafts】ガンズクラフト社と同じ姿勢を持ち、小規模で完全なハンドメイドによってジュエリーの制作を行っていました。
しかし、代表であるJack T Michelsonは機械化することを望み、1940年にニューヨークポストに広告を掲載、そこで求めに応じた人物がツーリストアイテムの歴史上、大変重要な人物である【M.J."Jerry"Chakerian】M.J.ジェリー・チャケリアンでした。チャケリアンはニューヨーク出身の敏腕ビジネスパーソンであり、ツーリストジュエリーの生産・流通に大きな影響を与えた人物です。
そして、彼のコンサルティングにより、すでに機械化に成功していた【Maisel's】マイセルズの生産工程/ビジネスモデルをベースにした機械化とその飛躍に成功しました。
しかしながら、チャケリアンは1956年までBELL社で働いたあと、その後はデンバーの【Harry Heye Tammen】H.H.タンメン社に短期間所属し、そこでは機械生産を止めさせて、伝統的なナバホジュエリー制作への回帰という、BELL社での施策とはまったく逆のことをしており、「伝統的な方法で作られたジュエリーはマシーンメイドのジュエリーとの競争に苦しむべきではない」との自論を持っていたそうです。
当時のタンメン社は業績が酷く悪化していましたが機械化等を行わず、新たにナバホのシルバースミスを雇い入れました。さらに、一部の機械工程にもナバホの職人を雇うことで、「インディアンメイド」の標記を守らせたようです。
チャケリアンの手腕により機械化・量産化に成功したBELL社では、ホールマークが入らないOEM生産も多く行っていたようで、フレッド・ハービーのお店等、サウスウエスト観光各地で取り扱われていました。
また、ナバホスタイルのデザインを多く生産していますが、ズニやプエブロのインディアン達も多く所属し、同じように制作していたようです。
残念ながら1972年には買収され、現存していないカンパニーですが現在でも知名度が高く、ベルトレーディングポストのインディアンジュエリーはアメリカ国内でも大変人気があります。
【Coin Silver】コインシルバーとは、インディアンジュエリーにおいては銀含有率90.0%の地金を表します。
また、アメリカの古い硬貨における銀含有率は900ですが、日本では800~900や古い100円硬貨では600、メキシカンコインは950であり、900シルバーが最も多く使われていますが世界中で共通した純度ではありません。
同様に【Sterling Silver】スターリングシルバー=【925シルバー】は、銀含有率92.5%の地金であり、こちらは世界中で共通の基準となっています。
また『割金』と呼ばれる残りシルバー以外の7.5%には、銅や鉄、アルミニウム等が含まれています。(現在では、スターリングシルバーの割金は7.5%全てが銅と決められています)
主にイギリスの影響を受けた国において『STERLING』、それ以外の国において『925』の表記・刻印が使用されています。
925シルバーは熱処理によって時効硬化性をもち、細かな細工や加工に向いていたため食器や宝飾品等様々な物に利用されていますが、インディアンジュエリーにおいては、その初期に身近にあった銀製品、特にシルバー製のコインを溶かすことで、材料(地金)を得ていた背景があるため、現代でも限られた作家によりコインシルバーを用いる伝統が残されています。
インディアンジュエリーの歴史では、1900年代初頭にH.H.タンメン社が『800-Fine Silver』(シルバー含有率80.0%)を採用し、1910年代~1940年代初頭までに作られたツーリストジュエリーにおいては、Coin Silver 900が多く採用されました。
シルバーの色味や質感は、『割金』や製法にも左右され、コインシルバー900とスターリングシルバー925の差異は純度2.5%の違いしかない為、見た目で判断するのは困難ですが、やはりコインシルバーは少し硬く、着用によってシルバー本来の肌が現れた時に、スターリングシルバーよりも深く沈んだ色味が感じられると思います。
さらに古い1800年代後半頃の作品では、メキシカンコインが多く含まれていたためか、そのシルバーの純度は95.0%に近くなっているようですが、身近な銀製品を混ぜて溶かしていた歴史を考えると純度に対してそれほど強い拘りはなかったことが推測されます。
【Ingot Silver】インゴットシルバー(銀塊)からの成形は、アンティークインディアンジュエリーにおいて非常に重要なファクターですが、銀含有率/品位とは関係なく、ジュエリーの製法技術を表します。
現在制作されている作品の多くは、材料として市販されているシルバープレート(銀板/ゲージ)を加工することでジュエリーとして成形されていますが、インゴットから成形する製法では一度溶かしたシルバーを、鍛冶仕事に近い方法であるハンマーやローラーで叩き伸ばすことでジュエリーとして成形していきます。
最終的にはどちらもプレートやバーの形態になるため、大きな差は無いように思われますが、インゴットから成形されたシルバーの肌は、硬くなめらかで鈍い光を持っています。
それにより生み出されるプリミティブで武骨な作品の表情は、やはりアンティークインディアンジュエリーの大きな魅力です。
また、1930年代にはシルバープレートが登場しますが、当時シルバープレートを用いて制作されたジュエリーは政府によりインディアンクラフトとして認定されず、グランドキャニオンなどの国立公園内で販売できなくなった記録も残っています。
本作もインゴット独特のシルバーの渋い質感が魅力的であり、三角形の角度が鈍角な為にトライアングルワイヤー特有の重量感は控えめですが、比較的幅があって高すぎない事で多くの作品と重ね付けに向いたボリューム感となっています。
さらに、古典的な技術によって形作られながらエッジーでモダンな印象もあり、オーセンティックで美しいデザインはどこか洗練された印象です。
ナバホのオーセンティックなスタイルとして長く制作されることになるトライアングルワイヤー。その普遍的な造形美はあらゆるスタイルにフィットし、長年にわたってご愛用いただける高い普遍性と汎用性を有しています。
トライアングルワイヤーバングルは、アンティークナバホジュエリーの中でも最も人気の高い造形スタイルの一つ。ツーリストジュエリー特有のキャッチーな印象と共に、アンティーク独特の表情を持ち、ナバホジュエリーの歴史を体感できるハンドクラフト/工芸品となっています。
また本作のようなアンティークピースは、ツーリストアイテム/フレッド・ハービースタイルジュエリーの中でも見つけるのが困難でコレクタブルな作品となっています。
◆着用サンプル画像はこちら◆
コンディションは、全体に僅かなクスミや細かなキズ、ハンドメイド特有の制作上のムラは見られますが、特にダメージの無い良い良好な状態を保っています。
【卍】の入るピースは戦後もほとんど着用されずに保管されていることが多く、現存数は少ないですが、コンディションの良い個体が多いことも特徴の一つです。