インディアンジュエリーの歴史に革新をもたらした、偉大なイタリア人作家【Frank Patania Sr.】フランク・パタニア(1899-1964)及び、同氏が1927年に創業したシルバージュエリーショップである【Thunderbird Shop】で作られた作品の中でも名作の一つである『Hopi Mask/ホピマスク』をモチーフとしたアンティーク/ビンテージピンブローチです。
この迫力のあるマスク/仮面は、Frank Pataniaが自身のデザイン画に『Hopi Ceremonial Design Mask』と記しており、ホピ族が儀式で使用していたマスクから着想を得た作品。
それが、非常に高度なシルバーワークにより立体的に形作られており、強いオリジナリティと作者の技巧が感じられるピースとなっています。
本作は、ホールマーク(作者やショップのサイン)が入らない作品ですが、こちらの特徴的なデザイン/造形は、Frank Pataniaの代表的な造形スタイルの一つであり、似たデザインの作品を制作した作家は知られておらず、1950年代にFrank Patania自身、Thunderbird Shop所属のシルバースミスによって作られた事が推定可能な作品です。
インディアンジュエリーの世界に多くの新しい様式や技術を持ち込んだFrank Pataniaらしく、ホピ族の伝統的な民芸品をモチーフとしながらも独創性と高い芸術性を持った作品です。
同作者は他にもブードゥー教のシャーマンドクター/呪術医をモチーフとしたピース等も残しており、ネイティブアメリカンだけでなく自身の出身地であるヨーロッパの美術・文化様式や世界中の民芸や宗教までもインディアンジュエリーの中に溶け込ませていきました。
マスクを象ったシェイプは丁寧にカッティングされたシルバーが土台となっており、そこにハンマーワークによって立体的な丸みが与えられたパーツが配される事によって立体的で奥行きと動きのあるマスクが作り上げられています。
さらに、ターコイズによって目や鼻などが表現され、一部にはツイステッドワイヤー等のワイヤーワーク、そしてシルバーボールによる装飾によって細部の動きや奥行き生み出されています。
一部にはスタンプワークによる刻印が施され、強い陰影が強調されているようです。
すべてナバホジュエリーの伝統的なディテール/シルバーワークにより構成されていますが、手間を惜しまない仕事量と大変高度な技術力、突出した造形センスによって素晴らしい独自性とジュエリーとしての造形美、さらに作者のアイデンティティーをも感じさせるピンブローチに仕上げられています。
マウントされたターコイズは、正確な鉱山は不明ながらとても美しい色相と高さのあるカットが特徴的な石です。やはり、こちらの石も1950年代前後のFrank Patania Sr./Thunderbird Shopで多く見られるターコイズの特徴を持っています。
イラン産の【Persian Turquoise】パージャンターコイズ/ペルシャンターコイズや、ネバダ産の【Number Eight Turquoise】ナンバーエイトターコイズが想起され、澄んだ水色を基調に柔らかなグラデーションやブラウンウェブが入り、ハイドームにカットされている事で、ナゲット・塊状で産出した石であろうと推定可能です。
残念ながら中央の石には肉眼で確認できるクラックがあります。このままでも強度的な問題はないと思われる為、リペアなどは施しておりません。
また中央のクラック以外は、現在も美しい色彩とアーシーな魅力を湛える無添加ナチュラルターコイズです。
【Frank Patania Sr.】フランク・パタニア・シニアは、1899年シチリア生まれのイタリア人で、インディアンジュエリーの世界に新しい価値観を持ち込み、多くの傑作を生み出しました。そして、多くの優秀な後進を育てた人物としても有名です。
6歳からイタリアで金細工師に弟子入りし、その技術を身に付けていきました。10歳のころに母親、兄弟とともにニューヨークに渡り、多くの移民とともに産業革命の喧騒なかで成長していきました。その後、19歳のころにニューヨークでも大手のジュエリーカンパニーでデザイナーとしての仕事に就き、そこでも多くの経験を積んだようです。
転機となったのは1924年、当時大流行していた結核に侵され、療養のために訪れたサンタフェで、インディアンのシルバーとターコイズを使った仕事を見たとき、『自分の表現方法を発見した』 そして、『二度とニューヨークに戻りたくなくなった』と語っています。
そして、わずか3年後の1927年にはサンタフェに【Thunderbird Shop】サンダーバードショップをオープンしました。当時、シカゴ~アルバカーキ~南カリフォルニアへ続く鉄道整備に伴なって、アメリカ中西部各都市の観光産業の活況と共にフレッド・ハービー社の隆盛、インディアンアートの産業化もあり、その新しい魅力を持つ「サンダーバードショップ」のジュエリーや工芸品は大変な好評を博しました。
やはり、オープン初期からFrank Pataniaの作品はナバホ・プエブロ双方のインディアンジュエリーの影響を色濃く感じさせます。
また、多くのインディアンアーティストを育てたことでも有名です。【Joe H. Quintana】ジョー・キンタナ、【Julian Lovato】ジュリアン・ロバト、【Louis Lomay】ルイス・ロメイ、他にも【Mark Chee】マーク・チーなどもサンダーバードショップで石のカッターとして働いていたようです。
彼ら(特に上記3人)はFrank Pataniaの技術やその美意識を受け継ぎ、『パタニア サンダーバード』スタイルとも言われる作品を残しました。
それらは、独自性とインディアンジュエリーの伝統的で素朴な強さを持ちながら、新しい価値観や実験的な造形を生み出し、品位を感じさせる作品で、それぞれに強い個性を持っていますが、どこか共通する美意識を感じるのも特徴です。
本作もそんなPatania Thunderbird styleの代表的なデザイン・造形の作品であり、同作者の美意識とナバホ・プエブロの文化や思想が融合した作品です。
インディアンジュエリーの世界に多様性をもたらした試みや、多文化を吸収する新しい意識を感じさせるデザインのピースであり、造形スタイルやその製法などはナバホジュエリーの伝統を踏襲し、クラシックでありながらモダンで現代的なセンスを感じさせます。
独自性のあるモチーフと伝統的な技術や製法を踏襲したビンテージインディアンジュエリーの素朴でエスニシティーな味わいも感じられ、立体的な構造と迫力のあるデザイン/造形によって特別な存在感を放つピンブローチです。
立体的で特殊な造形の作品ですが、バランスの良いピンブローチであり多くのコーディネイトに合わせる事が出来る汎用性も有する作品。
アウターのアクセントとしてラペルや襟等にもフィットしますし、ハット等のワンポイント等にも使用可能であり、日常のスタイルに豊かな個性とアーティなアクセントを与える事が出来るジュエリー作品です。
ホピ族の伝統的で宗教的な民芸品をソースとして、革新的なデザインのジュエリーが生み出されており、Frank Pataniaという偉大な作家による特別なアイデアを感じさせるハイエンドな作品。ミュージアム収蔵品も多いFrank Pataniaの貴重なオリジナルピースです。
◆着用サンプル画像はこちら◆
全体に僅かなクスミやキズ、ハンドメイド作品特有の制作上のムラは確認できますが、特にダメージは無くとても良好なコンディションを保っています。
ただし、中央のターコイズには画像の通りクラックがあります。しかしながら、石のガタツキ等は無くこのままでも着用に支障のない強度を保っていると思われます。