【Hopi】ホピか【ZUNI】ズ二のシルバースミスによるものと思われるビンテージジュエリー、インレイワークにより幾何学的でありながら愛らしい印象を与えるサンダーバードが描き出されたアンティーク/ビンテージリングです。
美しいターコイズと深遠なオニキスの黒により、どこかレインクラウドとも似たサンダーバードを表現しており、土台となっている重厚なシルバーワークも魅力的な作品です。
独自性を持ち、作者やその部族・制作時期等の特定が難しい作品となりますが、造形技法やデザイン等から1950年代以降、使用されているマテリアルやシルバーワークのディテールにより1970年代前半以前に作られたものと推測されます。
本作の様なインレイ技法を用いた作品は、古くからズニ族の作家が好む造形技術であり、こちらもズニのシルバースミスによるものと推測可能です。
しかしながら、インディアンジュエリーにおけるオーバーレイ技法を生み出したホピ族の偉大な作家【Paul Saufkie】ポール・スフキー(1904-1998)の作品でも類似した造形スタイルの作品が発見されており、1960年代以前にはホピの作家もオーバーレイによる凹凸を利用したインレイを用いておりました。
現代においては、ズニジュエリーの代表的な技術となっていますが、ナバホやホピの作家においてもインレイ技法を好む作家も多く存在しています。
シャンクは、綺麗な仕上げの完成度により既製のシルバープレートを使用しているように見えますが、厚みの村や硬さ、ハンマーワークによる造形技法等から、インゴットシルバー(銀塊)から成形されているようです。
フロントが割り開かれた『スプリットシャンク』と呼ばれる伝統的な造形で3本に割り開かれており、オーセンティックで何気ないシルバーワークですが、その厚みや細部には作者の技術力が感じられます。
その様なシャンクをベースに長方形のフェイスが構成されており、ターコイズとオニキスのマルチストーンインレイによってシンボリックで愛らしいサンダーバードが描き出されています。
また、このサンダーバードのデザインにも強い独自性が現れており、黒い顔にターコイズインレイによる可愛い眼が表現され、身体部分は3本のラインによって構成されています。
このような縦ラインで身体を構成するデザインは、ホピの伝統的な工芸品であるカチナドールにおいて見られる特徴と共通しており、ナバホジュエリーに見られるサンダーバードデザインとは大きく異なった特徴です。
発色の美しいターコイズと黒いオニキスがインレイされることで、グラフィカルでモダンな印象も持った作品に仕上がっています。
【Thunderbird】サンダーバード はインディアンジュエリーの伝統的なモチーフの一つで、伝説の怪鳥であり、雷や雲、ひいては雨とつながりが深く幸福を運んでくるラッキーシンボルでもあります。
ジュエリーでは、限界の無い幸福を表すシンボルであり、ネイティブアメリカンの守り神的存在です。
【Inlay】インレイ/チャンネルインレイは、古くからズニ族が得意として発展させた技術であり、カットしたターコイズやシェルなどをシルバーにピッタリと嵌め込む螺鈿細工のような技術です。
ナバホのシルバー技術に次ぐ長い伝統のある技術であり、1920年代以降、現在に至るまで多く作られましたが、そのモチーフはサンダーバード、ナイフウイング、レインボーマン、サンフェイス等、とても多様なモチーフが見られます。
一部のビンテージ作品では、ナバホのシルバースミスがシルバーワークを担当し、そこにズニのシルバースミスがインレイワークを施した共作と思われるピースも発見されています。
また、現在ではインレイ技法で制作される多くのジュエリーがキャストによる量産品(量産されたシルバーに石をはめ込むだけ)となってしまいましたが、こちらはシルバー部分を含めてすべてがハンドメイドで成形されています。
【Overlay】オーバーレイと言う技法は、シルバーの板に描いたデザインを切り抜き、下地のシルバーの上に貼り付けることで立体的に絵柄を浮き出させる技法です。
本作の様にスタンプワークと組み合わされた作品も見られ、完成度を高められたオーバーレイ技法を用いた美しいホピのジュエリーは、現代に至るまでに多くの傑作を残しています。
1930年代に前述のPaul Saufkieによって生み出された技術ですが、その黎明期にはホピ以外のナバホ・プエブロのシルバースミスにも新しい表現方法として色々な作品が作られていました。
1940年代~1950年代にかけて【Harry Sakyesva】ハリー・サキイェスヴァ(1922-1969?)や同い年の作家【Allen Pooyouma】アレン・プーユウマ(1922-2014)、そして【Victor Coochwytewa】ヴィクター・クーチュワイテワ(1922-2011)等により、ホピの代表的なスタイルの一つとして定着させられました。
オーバーレイ技術の定着以前にも、オーバーレイと近い造形を生み出すような大きく大胆で細かな刻みを持たないスタンプ(鏨)がホピの作家によって制作されていました。
しかし、スタンプ(刻印)というデザインやサイズが固定されてしまう技術から解放し、もっと自由な図案を具現化できる技術・技法として生み出されたのではないかと考えられます。
本作においても、フェイス部分は2枚のシルバーを重ねる事で形作られており、上にのせるシルバーにはインレイワークのためのカッティングを施しています。
マルチストーンインレイによる独特のグラフィカルな印象とハンドクラフト品の素朴な魅力を感じることが出来る作品。無駄のないデザインは、ナバホ等の他部族による作品とも相性が良く、そのボリューム感やスクエアフェイスの構築的な表情はクラシックで程よい存在感を放ちます。
また、キャッチーな愛らしさのあるデザインとプエブロの美意識を宿す造形美は、多くのスタイルにおいて効果的なアクセントになってくれると思われ、さり気なくも日常のコーディネイトに違いをもたらしてくれるリングです。
素朴で可愛い印象を与えながら、ビンテージインディアンジュエリーのアーティな魅力を放つピースであり、プエブロジュエリー黎明期の特異性を含め、大変コレクタブルな作品の一つとなっています。
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コンディションは、全体にシルバーのクスミやハンドメイド特有の制作上のムラなどはありますが、特に目立ったダメージは無くとても良好なコンディションです。