【NAVAJO】ナバホのアンティークジュエリー、【卍】Whirling Log/Nohokosの刻印されたサンダーバードがフェイスに構成された作品。クラシックで伝統的なアイテムながら、現在では非常に現存数の少ない貴重なアンティーク/ビンテージリングピースです。
本作にはホールマーク(作者や工房のサイン)がありませんが、当店が過去に取り扱った作品に使用されているスタンプとの類似点により【BELL TRADING POST】ベルトレーディングポストで作られた事が推測される作品となっています。
【Tourist Jewelry】ツーリストジュエリーや【Fred Harvey Style】フレッド・ハービースタイルとも呼ばれる、20世紀前半頃に観光客向けに作られたスーベニアアイテムの一つ。しかしながら、全ての工程がハンドメイドで仕上げられており、マシン工程が併用され量産化された同スタイルのピースと比べ、粗暴ながらも独特の完成度と質感を感じさせる作品です。
1930年代頃に作られたリングであり、シャンクは『スプリットシャンク』と呼ばれる伝統的な造形で2本に割り開かれていますが、サイド部分よりも内側に近い位置から大胆に長く割り開かれており、フロントに向けて少しづつ幅が広く造形されています。
フェイスは愛らしさのあるサンダーバードシェイプが構成され、アローモチーフを含む力強いスタンプワークによって顔や尾等の細部が描き出されています。
さらに両翼には逆卍のスタンプワークが刻まれ、シャンクの後部にもさり気なくスタンプワークが施されています。
そして、中央には小さなラウンドカットされたグリーンターコイズがセットされており、こちらの様なカットの石は、蛇の目に似た造形の為『スネークアイ』と呼ばれています。
また、その石を留めるベゼル(覆輪)も量産化された作品で使用されている『ベゼルカップ』と呼ばれる量産型のマシンメイドパーツではなく、ハンマーメイドされたベゼルが用いられています。
シンプルながらフロントのサンダーバードを強調した好デザインのリングとなっており、ビンテージインディアンジュエリーらしく素朴でエスニシティな印象に仕上げられています。
【Thunderbird】サンダーバード はインディアンジュエリーの伝統的なモチーフの一つで、伝説の怪鳥であり、雷や雲、ひいては雨とつながりが深く幸福を運んでくるラッキーシンボルでもあります。 ジュエリーでは『限界の無い幸福』を表すシンボルであり、ネイティブアメリカンの守り神的存在です。
実在しない為にその容姿は作者の意匠に委ねられており、イーグルの様な威厳のある姿から、小鳥の様な可愛いデザインまで幅広く表現されているのも魅力の一つとなっています。
【卍】鉤十字 (Swastika/スワスティカ)とは・・・
ネイティブアメリカンにおける卍モチーフは【Whirling Log】ワーリングログと呼ばれ、4つの【L】 『LOVE・LIFE・LUCK・LIGHT』 から生み出された幸福を象徴するラッキーシンボルとして長い歴史を持っています。
また世界的にも、サンスクリット語の「幸運」を意味する言葉に由来し、仏教、ヒンドゥー教、オーディン教、さらにキリスト教における十字の一種としても用いられ、神聖なシンボルとして古くから世界中で見られる記号・象徴の一つとなっています。
日本においても寺社を表す地図記号として現在も使用されており、家紋等にも見られる身近な図案や記号として用いられています。
しかしながら1933年のナチスドイツが出現し、1939年にはアメリカも第二次世界大戦に参戦すると、敵国ドイツ(ナチスドイツ)のシンボルであるハーケンクロイツと非常に類似した記号は不吉だとして使われなくなってしまいました。
1941年の新聞記事にも残っていますが、ネイティブアメリカンたちにも卍が入った作品の廃棄が求められ、政府機関による回収も行われました。
その後、大戦中にも多くの作品が廃棄されてしまった歴史があり、現存しているものは大変貴重となりました。
こちらはそのような受難を乗り越えて現存しているものです。
また、ネイティブアメリカンの工芸品においては、ジュエリーだけでなくラグやバスケット、ポッテリー等でも重用されていたモチーフですが、卍と逆卍の使い分けは意識されていなかったようで、比較的逆卍が多いようにも感じられますが、卍・逆卍共に区別なく用いられていたと思われます。
【Arrow/Arrowhead】アロー/アローヘッドは、『お守り』の意味合いを持ちインディアンジュエリー創成期からみられる最古のモチーフの一つです。
【BELL TRADING POST】ベルトレーディングポストは、ニューメキシコ州アルバカーキーで【Jack T Michelson】ジャック・ミケルソンとその妻により1932年頃に設立されました。また『BELL』の名前は妻である【Jack Mildred】ジャック・ミドルトンの旧姓から名づけられました。
ツーリストジュエリーをメインに非常に多くのアイテムを供給し、【Maisel's Indian Trading Post】マイセルズ インディアントレーディングポストと並ぶ有名メーカーとして知られていますが、創業からしばらくは、【Ganscraft/Julius Gans Southwestern Arts and Crafts】ガンズクラフト社と同じ姿勢を持ち、小規模で完全なハンドメイドによってジュエリーの制作を行っていました。
しかし、代表であるJack T Michelsonは機械化することを望み、1940年にニューヨークポストに広告を掲載、そこで求めに応じた人物がツーリストアイテムの歴史上、大変重要な人物である【M.J."Jerry"Chakerian】M.J.ジェリー・チャケリアンでした。チャケリアンはニューヨーク出身の敏腕ビジネスパーソンであり、ツーリストジュエリーの生産・流通に大きな影響を与えた人物です。
そして、彼のコンサルティングにより、すでに機械化に成功していた【Maisel's】マイセルズの生産工程/ビジネスモデルをベースにした機械化とその飛躍に成功しました。
しかしながら、チャケリアンは1956年までBELL社で働いたあと、その後はデンバーの【Harry Heye Tammen】H.H.タンメン社に短期間所属し、そこでは機械生産を止めさせて、伝統的なナバホジュエリー制作への回帰という、BELL社での施策とはまったく逆のことをしており、「伝統的な方法で作られたジュエリーはマシーンメイドのジュエリーとの競争に苦しむべきではない」との自論を持っていたそうです。
当時のタンメン社は業績が酷く悪化していましたが機械化等を行わず、新たにナバホのシルバースミスを雇い入れました。さらに、一部の機械工程にもナバホの職人を雇うことで、「インディアンメイド」の標記を守らせたようです。
チャケリアンの手腕により機械化・量産化に成功したBELL社では、ホールマークが入らないOEM生産も多く行っていたようで、フレッド・ハービーのお店等、サウスウエスト観光各地で取り扱われていました。
また、ナバホスタイルのデザインを多く生産していますが、ズニやプエブロのインディアン達も多く所属し、同じように制作していたようです。
残念ながら1972年には買収され、現存していないカンパニーですが現在でも知名度が高く、ベルトレーディングポストのインディアンジュエリーはアメリカ国内でも大変人気があります。
【Coin Silver】コインシルバーとは、インディアンジュエリーにおいては銀含有率90.0%の地金を表します。
また、アメリカの古い硬貨における銀含有率は900ですが、日本では800~900や古い100円硬貨では600、メキシカンコインは950であり、900シルバーが最も多く使われていますが世界中で共通した純度ではありません。
同様に【Sterling Silver】スターリングシルバー=【925シルバー】は、銀含有率92.5%の地金であり、こちらは世界中で共通の基準となっています。
また『割金』と呼ばれる残りシルバー以外の7.5%には、銅やアルミニウム等が含まれています。(現在では、スターリングシルバーの割金は7.5%全てが銅と決められています)
主にイギリスの影響を受けた国において『STERLING』、それ以外の国において『925』の表記・刻印が使用されています。
925シルバーは熱処理によって時効硬化性をもち、細かな細工や加工に向いていたため食器や宝飾品等様々な物に利用されていますが、インディアンジュエリーにおいては、その初期に身近にあった銀製品、特にシルバー製のコインを溶かすことで、材料(地金)を得ていた背景があるため、現代でも限られた作家によりコインシルバーを用いる伝統が残されています。
インディアンジュエリーの歴史では、1900年代初頭にH.H.タンメン社が『800-Fine Silver』(シルバー含有率80.0%)を採用し、1910年代~1940年代初頭までに作られたツーリストジュエリーにおいては、Coin Silver 900が多く採用されました。
シルバーの色味や質感は、『割金』や製法にも左右され、コインシルバー900とスターリングシルバー925の差異は純度2.5%の違いしかない為、見た目で判断するのは困難ですが、やはりコインシルバーは少し硬く、着用によってシルバー本来の肌が現れた時に、スターリングシルバーよりも深く沈んだ色味が感じられると思います。
さらに古い1800年代後半頃の作品では、メキシカンコインが多く含まれていたためか、そのシルバーの純度は95.0%に近くなっているようですが、身近な銀製品を混ぜて溶かしていた歴史を考えると純度に対してそれほど強い拘りはなかったことが推測されます。
本作は、BELL社創業初期の作品と思われ、それによりコインシルバー製である事も推定可能となっています。
プリミティブな技術やクラシックなシェイプ、荒々しいスタンプ/刻印によってアンティークインディアンジュエリーらしい重厚な表情を持ちながら、ツーリストジュエリーらしいアイコニックでキャッチーなモチーフによって独特の可愛さも併せ持った作品です。
どこか愛らしさもあるサンダーバードシェイプのシェイプは、シャンクに対して立体的に構成される事で独特な存在感を示し、ツーリストジュエリー特有のキャッチーな印象を際立たせています。
さらに、アンティーク独特の味わい深い質感は重厚な雰囲気も醸し、大人向けのアイテムに昇華されている様に感じられます。
また、女性に向いた小さいサイズとなっておりいますが、男性のピンキーリング向けとしても『遊び心』あるピースです。スタイルに『ギャップ』を与えてくれるアイテムであり、さり気なくスタイルに奥行きをもたらすことが出来るビンテージリングです。
アンティークジュエリーの中でもリング/指輪は使用による摩耗や紛失などにより消費され、現存数が少なく大変希少なピース。特に本作の様に石のマウントされないアンティークリングは、非常に貴重な存在となっています。
◆着用サンプル画像はこちら◆
コンディションもアンティークピースとしては大変良好です。
シルバーのクスミやベゼル部分のキズ、ハンドメイド作品特有の制作上のムラ等は見られますが、ダメージの無い良好な状態を保っています。
【卍】の入るピースは戦後もほとんど着用されずに保管されていることが多く、現存数は少ないですが、コンディションの良い個体が多いことも特徴の一つです。