【NAVAJO】ナバホの有名作家【Tommy/Thomas Singer】トミー・シンガー(1938‐2014)による作品。重厚なシルバーワークをベースに『チップインレイ』と呼ばれる破砕した石を樹脂と共にインレイする技術によって構成されたビンテージリングです。
1970年代頃の作品と思われますが、レクタングラーシェイプのフェイスやオーセンティックなシルバーワークによってクラシックな印象に仕上げられており、派手な造形や大きなボリューム感が好まれた時代の作品ながら、落ち着いた雰囲気を帯びた作品となっています。
シャンクはフロントが割り開かれた『スプリットシャンク』と呼ばれる伝統的な造形がベースとなっていますが、その上からプレーンなシルバーがアップリケされ、さらにシャンクの土台と一体化させられており、表面的には見えないディテールですがとても手の込んだ造形によって形作られています。
フェイスは独特な幾何学模様がオーバーレイ技法によって描き出され、そのオーバーレイの凹部分にターコイズチップインレイが施されています。
また、部分的にスタンプワークが組み合わされることで、強い陰影やアクセントが与えられており、ナバホジュエリーらしい表情とエスニシティなデザインが魅力的なリングです。
【Tommy/Thomas Singer】トミー・シンガー(本名はトーマス)は、1938年にアリゾナ州ウィンズローで生まれ、なんと7歳の頃には父親から彫金を学び始めていました。
1960年代初期には、シルバースミスとしての独立したキャリアをスタートさせており、キャリア初期からオーバーレイ技術をメインとしたジュエリーを制作していたようです。
そして、Tommy Singerの名声を一気に高めたのが、チップインレイ技法を用いた作品群です。
ナバホジュエリーにおいても普及の進んでいたオーバーレイ技法をベースに、そのカットアウト部分にサントドミンゴ族のアンティークジュエリーでも見られる『チップインレイ』を施すことで新しいスタイルを築き上げました。
それらは、ターコイズやコーラルなどを用いて独特な奥行きと複雑な表情を生み出しました。
当時、ターコイズジュエリーの爆発的な流行により上質なターコイズが枯渇したことや、チップインレイの目新しい表情によって多くの作品が制作されました。そして、1970年代にはナバホのシルバースミスの多くが追随して大流行する事となります。
その様なシルバーワークとチップインレイ技法を組み合わせたパイオニアがTommy Singerであり、数々のアワードを受賞し多くのミュージアムに同作者の作品が収蔵されています。
作品のデザインは、伝統的なナバホのシンボル、動物、風景の要素を特徴としており、後年はチップインレイではなく複雑なオーバーレイやスタンプワークによるジュエリーを多く制作しました。
残念ながら2014年に亡くなっていますが、大変多くの後進に大きな影響を与えた近代の高名作家の一人です。
【Chip Inlay/チップインレイ技法】は、破砕タイルの様に細かく砕いたターコイズ等のチップ/欠片を樹脂を使ってシルバーにピッタリとはめ込む象嵌細工に属する技術です。
インディアンジュエリーにおいては、1930年代以前のからみられるもので、古くはサントドミンゴのバッテリーバードネックレスなどに用いられています。
破砕タイルのように細かくランダムに破砕された石がはめ込まれることにより、複雑で奥行きのある表情を作り上げています。
ただし、ナバホやズニのシルバースミスが取り入れるようになったのは、本作の作者であるTommy Singerの影響が大きく、そのほとんどが1970年代以降に作られた作品です。当店では多く扱っていませんが現在では伝統的な技術の一つとして定着しています。
【Overlay】オーバーレイと言う技法は、シルバーの板に描いたデザインを切り抜き、下地のシルバーの上に貼り付けることで立体的に絵柄を浮き出させる技法です。
本作の様にスタンプワークと組み合わされた作品も見られ、完成度を高められたオーバーレイ技法を用いた美しいホピのジュエリーは、現代に至るまでに多くの傑作を残しています。
1930年代にホピの大家【Paul Saufkie】ポール・スフキー(1904-1998)によって生み出された技術ですが、その黎明期にはホピ以外のナバホ・プエブロのシルバースミスにも新しい表現方法として色々な作品が作られていました。
1940年代~1950年代にかけて【Harry Sakyesva】ハリー・サキイェスヴァ(1922-1969?)や同い年の作家【Allen Pooyouma】アレン・プーユウマ(1922-2014)、そして【Victor Coochwytewa】ヴィクター・クーチュワイテワ(1922-2011)等により、ホピの代表的なスタイルの一つとして定着させられました。
オーバーレイ技術の定着以前にも、オーバーレイと近い造形を生み出すような大きく大胆で細かな刻みを持たないスタンプ(鏨)がホピの作家によって制作されていました。
しかし、スタンプ(刻印)というデザインやサイズが固定されてしまう技術から解放し、もっと自由な図案を具現化できる技術・技法として生み出されたのではないかと考えられます。
本作はナバホジュエリーにおいてもオーバーレイ技法が定着して、さらにそれを発展させたともいえるチップインレイ技法が取り入れられた当時の作品であり、ナバホジュエリーのトラディショナルなシルバーワークと、オーバーレイによる独特な幾何学模様、そしてチップインレイによる複雑な表情が強い個性を生み出しています。
また、ビンテージ特有の質感やターコイズチップインレイの作る印象は、ホピジュエリーやズニジュエリーとも相性が良く、性別やコーディネイトを問わず取り入れて頂きやすい印象です。
1970年代~1980年代初頭には同様の技法が流行したことで多くのチップインレイ作品が制作されましたが、本作はそれらの源流/ソースとなったオリジナル作品であり、世界的にもコレクターが多く存在するTommy Singerの遺したコレクタブルな作品となっています。
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コンディションも大変良好です。シルバーのクスミや細かなキズ、ハンドメイド特有の制作上のムラが見られますが、ダメージはなくとても良好な状態を保っています。