【ZUNI】ズ二のビンテージジュエリーの中でも、アメリカ政府のバックアップを受けて誕生した【Indian Arts & Crafts Board】(IACB)の認証済みである事を表し、そのクオリティーを保証する稀有なホールマーク『U.S. ZUNI』が刻印されたピースで、1938年~1943年の間に制作された個体と特定可能となる大変ヒストリックでミュージアムクオリティを誇るアンティーク/ビンテージバングルです。
末尾に記されたトレーディングポスト等の制作元を表すナンバーは『1』。つまり【C. G. Wallace Trading Post】C.G.ウォレスインディアントレーディングポストで制作された事を示します。
同トレーディングポストを示す『U.S.ZUNI 1』と『U.S. NAVAJO 2』の刻印を合わせても、その刻印が刻まれた総数は僅か727ピースとされ、さらにそのほとんどがU.S.NAVAJO 2であり、本作の様にズニのシルバースミスによって制作され、U.S.ZUNI 1の刻印されたピースは、現時点で数点しか発見されていません。
その様な希少性やヒストリックな資料価値により、本来はミュージアムに収蔵されているべき作品の一つであり、日常的な着用ではなく展示・収蔵されるべきコレクター向けの作品となります。
上記ホールマークは、1938年~1943年頃までの短期間のみ使用された記録が残っている為、本作も上記の期間内に作られたものと判断することが可能です。
インゴットシルバー(銀塊)よりハンマーワークによって成形されたバンド(地金)が上下2連に構成され、同スタイルのズニジュエリーとしてはかなり重厚な30gを超えるバングルとなっています。
その様なバンドをベースに、28個もの小さなラウンドカットターコイズが羅列され『Row Work/ローワーク』と呼ばれる伝統的な造形を基本としています。
さらに、それら2連のバンドの間と上下の厚み部分には、ターコイズと呼応したシルバーボール/ドロップが配されており、その一つずつハンドメイドされた小さなシルバーボール/ドロップにより、立体感と奥行きのある造形に仕上げられています。
そして、バンドのサイド~ターミナル(両端)部分には素朴なスタンプワークが刻まれており、ビンテージインディアンジュエリー独特の武骨な表情も与えられています。
またターミナル部分には、ワイヤー断面に対して垂直方向に小さなシルバーパーツが備えられています。
このようなディテールは、【Indian Arts & Crafts Board】の創始者の一人であり、作品の審査を担当した【Ambrose Roanhorse】アンブローズ・ローアンホースによって完成された技術とされ、バングルの摩耗を防ぐ質実剛健なディテールであり、細部まで美意識を感じさせる造りとなっています。
ズニジュエリーの大変オーセンティックな造形スタイルの作品ながら、そのシルバーワークのクオリティや重厚感、マウントされたターコイズの質にはアンティーク特有の丁寧な仕事と、有名トレーディングポストにおいて政府の認定を受けた作品である事が納得できる特別な上質感を感じ取ることが出来ます。
マウントされたターコイズは、産出した鉱山は不明ながら透明感や素晴らしい発色から高い硬度を感じさせる上質なジェムクオリティターコイズです。
無添加ナチュラルな天然石である為、極僅かに変色があるかも知れませんが、長い時間を経ていながら現在も殆ど変質せず美しい透明感を保っています。
部分的に強い黒のマトリックスが入り、作品の持つ複雑な表情とナチュラルな質感と奥行きを生み出しているようです。
本作のような造形スタイルは、『Petit Point/プチポイント』や『Needle Point/ニードルポイント』と呼ばれるズニのトラディショナルな造形スタイルの一つとなっています。
『スネークアイ』とも呼ばれるラウンドカットターコイズが特徴的で、このような小さなターコイズのカットやそれらをセットする造形は、非常に繊細な仕事が必要であり、ナバホジュエリーとは違った印象を持っていますが、伝統的なインディアンジュエリーらしい表情も感じられる造形スタイルです。
1930年代以前においては、ナバホ・ズニ共に差異の少ないデザインの作品を制作していましたが、1930年代~1950年代にかけてこちらのような繊細なターコイズの構成やニードルポイントと呼ばれる造形、さらにチャンネルインレイなどの技術は、細かな石のカットを得意とするズニの特徴的なスタイルとして確立されていきました。
現在ではズニの代表的なスタイルとして広く認知されています。
【Ingot Silver】インゴットシルバー(銀塊)からの成形は、アンティークインディアンジュエリーにおいて非常に重要なファクターですが、銀含有率/品位とは関係なく、ジュエリーの製法技術を表します。
現在制作されている作品の多くは、材料として市販されているシルバープレート(銀板/ゲージ)を加工することでジュエリーとして成形されていますが、インゴットから成形する製法では一度溶かしたシルバーを、鍛冶仕事に近い方法であるハンマーやローラーで叩き伸ばすことでジュエリーとして成形していきます。最終的にはどちらもプレートやバーの形態になるため、大きな差は無いように思われますが、インゴットから成形されたシルバーの肌は、硬くなめらかで鈍い光を持っています。それにより生み出されるプリミティブで武骨な作品の表情は、やはりアンティークインディアンジュエリーの大きな魅力です。
本作において内側の一部等に見られるようなシルバーの重なったような部分は、ハンマーワークによるインゴット成形作品の特徴です。
この様な特徴は、インゴットシルバーの『マーク』と呼ばれ、制作上のムラではありますが、コレクターに好まれる特徴の一つであり、逆に価値を高めるディテールとなっています。
また、1930年代にはシルバープレートが登場しますが、当時シルバープレートを用いて制作されたジュエリーは政府によりインディアンクラフトとして認定されず、グランドキャニオンなどの国立公園内で販売できなくなった記録も残っています。
本作の内側に刻まれているホールマーク『U.S. ZUNI』が表している【Indian Arts & Crafts Board】(IACB)は、【The United Indian Trader’s Association】(UITA)等と共にインディアンアートの普及やクオリティーの保全、職人の地位向上等のために現地トレーディングポストやトレーダーによって1937年に組織されました。
『U.S.NAVAJO』『U.S. ZUNI』『U.S. HOPI』のスタンプを使うことで、アメリカ政府の公認を表した公的な意味合いを重視した組織です。
国としての歴史が浅くカルチャーやアートに乏しいと考えたアメリカ政府が、インディアンアート/クラフトをアメリカの誇る独自のアートとして世界的に認知させることがIACB発足の目的の一つであったようです。
さらに、1930年代以降に隆盛した【BELL TRADING POST】や【Maisel's Indian Trading Post】、【Arrow Novelty】等の"Manufacturers"とされる量産化を推し進めたメーカーによるマスプロ品と、その製法や工程において正当なインディアンジュエリーであること等を差別化するために組織されました。
上記のような現在『フレッド・ハービースタイル』と呼ばれるメーカーでは、ジュエリー等の製作に分業化や機械化を進め、結果的にインディアンジュエリー作家の独立や生計を圧迫しました。
そのため、古くからインディアン達と密接に付き合い、インディアンアート/クラフトを扱うトレーディングポストやトレーダー、さらにはインディアンアーティスト自身たちによって、量産化を図るメーカーに対する対抗策が講じられました。
Indian Arts & Crafts Boardもその中の一つで、サンタフェの人類学研究所キュレーターである【Kenneth Chapman】ケネス・チャップマンと、フォートウィンゲート及びサンタフェインディアンスクールで彫金クラスを受け持つナバホの巨匠【Ambrose Roanhorse】アンブローズ・ローアンホース(1904-1982)の二人によって、その素材から製法・仕上げに至るまで『U.S.NAVAJO』の刻印を許可する厳しいガイドラインが設定されました。
前述の様に末尾のナンバーはそれぞれトレーディングポストや工房を表しています。
現在、判明しているナンバーは・・・
U.S.NAVAJO 1 = Gallup Mercantile
U.S.ZUNI 1 & U.S.NAVAJO 2 = 本作の制作された、C. G. Wallace Trading Post 等があります。
また、末尾の数字が二桁(20~60、70はナバホギルド)のものはアメリカ中西部に点在している政府が運営するインディアンスクールの彫金クラスで制作されたピースになります。
それらのホールマーク刻印は、ティファニー社に制作をオーダーしたとされており、通常はジュエリー制作の初期段階で刻むのがホールマークや素材表記の刻印ですが、ジュエリーの製法や素材に対する厳正な審査を受けた事を証明する為の刻印であるU.S.NAVAJO/U.S. ZUNI/U.S. HOPIの刻印は、作品完成後に刻印され、本作の様に中央ではなくサイドやターミナルに近い場所に刻印されている事が多いのも特徴です。
その認証システムは、伝統的な作品を扱うトレーダーにとって非常に重要であり高い需要があったようですが、その審査を担当した彫金の教員経験を持つシルバースミスは僅か数人であり、アメリカ中西部の広い範囲に分布したトレーディングポストを回って審査・認証していくという供給が全く追い付かず、その為にシステム自体が短命に終わってしまったようです。
【C. G. Wallace INDIAN TRADER/C. G. Wallace Trading Post】C.G.ウォレスインディアントレーダーは、【Charles Garrett Wallace】チャールズ・ガレット・ウォレスが、1928年にZUNI /ズ二のジュエリーを専門に扱うトレーダーとしてズニの町で創業し、非常に多くのズニジュエリー作家を支援しました。
創業後すぐに、ナバホのシルバー彫金技術を必要として【Ike Wilson】アイク・ウィルソン(1901-1942)とその兄である【Austin Wilson】オースティン・ウィルソン(1901-1976)、他にも【Billy Hoxie】ビリー・ホクシー、【Charles Begay】チャールズ・ビゲイ(1912-1998)等の一説には二十数人と言われるナバホ出身のシルバースミスが在籍していたと云われており、こちらの作者もその中の一人による作品だと思われます。
また、彼らの様にズニの町でシルバースミスをしていたナバホの職人は、技術的にはナバホの伝統的な彫金技術を重視していたようですが、植物のようなスタンプワークのデザインや表現等、そのデザインスタイルやディテールには、ナバホジュエリーにはあまり見られないズニ/プエブロの影響を受けていると考えられる作品が多く残されています。
そんな少し特殊な環境や優秀な職人による伝統の継承、さらに経営者であるCharles Garrett Wallaceの献身的なインディアンアーティストへのバックアップにより大変多くの傑作を生み出し、後世に残したトレーディングポストです。
それら残された作品群の一部であるCharles Garrett Wallaceの個人コレクションの約半数は、1975年にアリゾナ州フェニックスのバードミュージアムに寄贈されました。
また、残りの一部はSotheby Parke Bernet社のオークションに出品され、そのオークションカタログは現在でも多くの研究者やコレクターにとっての第一級の資料となっています。
本作もC. G. Wallace Trading Postに所属したズニ族のシルバースミスによって制作されたブレスレットであり、おそらく現在ではトラディショナルなスタイルとなっている、小さなターコイズを羅列した造形スタイルの初期作品と推測されます。
小さくラウンドカットされたターコイズの28個にも及ぶ羅列は、その連続性によってもターコイズの存在感を際立たせているようです。
また、ズニジュエリーの繊細で美しい表情は女性に向いた印象を持っていますが、ビンテージインディアンジュエリー独特の武骨な質感やクラッシュ ドゥ カルティエの様な構築的な造形は、エッジーで男性的な雰囲気を生み出しており、男性にもフィットするブレスレットとなっています。
ビンテージインディアンジュエリーの見識や予備知識を必要とするコレクター向けの作品となりますが、比肩する資料価値を持った作品が殆ど市場に出ることの無いピースであり、将来的にはミュージアムに収蔵される事が望まれる作品です。
◆着用サンプル画像はこちら◆
コンディションは、シルバーのクスミや僅かな摩耗、ハンドメイド特有の制作上のムラ等が見られますが、特にダメージの無い状態を保っています。
また、内側の一部にインゴット製法独特のシルバーの重なった部分がみられますが、これらは制作中にできるもので、ご着用にあたって破損につながる事ははありません。
ターコイズも良好な状態です。母岩/マトリックス部分には凹凸が見られますが、それらは天然石由来の凹凸であり、現在も美しい艶と透明感を保っています。