【NAVAJO】ナバホのビンテージジュエリー、サンドキャストで成形された重厚なバンドをベースに、細かなライン模様が刻まれたアンティーク/ビンテージバングルです。
ソリッドなシルバーの質感に、細かくスタンプワークやファイルワークによるライン模様が刻まれる事で、古いナバホジュエリーの武骨な質感と共に独特のモダンでアーティな印象が与えられたハイエンドな作品となっています。
現在も受け継がれるサンドキャスト技法によって形作られたブレスレットですが、本作の様にスタンプワーク等の技術も複合的に使用した造形は、大変少なくなってしまいました。
ビンテージにおいても少数派であり、こちらの様なライン模様のみが刻まれたサンドキャスト成形の作品に限定すると、『U.S.NAVAJO 50』のホールマーク(作者や工房のサイン)が刻まれ、1930年代末頃~1943年までの間にAlbuquerque Indian School/アルバカーキインディアンスクールで制作された事が特定可能な作品や、UITA/United Indian Trader's Associationのホールマークが刻まれた作品において極少数が発見されていますが、大変珍しく貴重なアーカイブの一つです。
サンドキャスト(砂型鋳物)によるシルバーの成形は、ナバホジュエリーでも古典期と呼ばれる創成期からみられる技術の一つであり、長い歴史を持っています。そして、その当時から完成された技術/技法は現在に至るまで大きな変化なく受け継がれており、キャスト製法以外で作られた作品に比べて制作年代の判断が困難です。
不確かな判断材料としては、量産化/パターン化されたデザインであるか、内側の処理・仕上げ、シルバー自体の厚みや質などが目安となります。
本作では、重厚でエッジがしっかりとしたトライアングル型の断面に造形され、その頂点の部分等に規則的なライン模様や刻みが施されており、1930年代末頃~1960年代頃に制作された作品であることが判断可能です。
また、バンド内側の処理も大変丁寧にフラットに削り、磨かれています。このような処理も作者次第ではありますが、1970年代~1990年代のピースではサンドキャスト特有のざらついた肌をほとんどそのままで完成させています。
バンドのシェイプデザインも量産向けにパターン化されたものではなく、非常に厚くエッジのしっかりとした造形となっており、多く制作された『型』によるピースではなく作者のオリジナリティーと秀逸な創造性を感じさせる作品となっています。
上下左右対称にデザインされ、クラシックな印象も与えるバングルですが、フロント部分の円弧を描くアーチデザインや、未来的な雰囲気を持つライン模様によって、どこか神秘的な表情を帯びています。
またそれは、ホピ族のカチナやナバホ族のイェイ等を始めとする、儀式で使用した精霊を模して作られたマスクのようにも見えます。
【Indian Arts & Crafts Board】(IACB)は、【The United Indian Trader’s Association】(UITA)等と共にインディアンアートの普及やクオリティーの保全、職人の地位向上等のために現地トレーディングポストやトレーダーによって1937年に組織されました。
中でもIndian Arts & Crafts Boardは、『U.S.NAVAJO』のスタンプを使うことで、アメリカ政府の公認を表した公的な意味合いを重視した組織です。
国としての歴史が浅く、自国独自のカルチャーやアートに乏しいと考えたアメリカ政府が、インディアンアート/クラフトをアメリカの誇る固有のアートとして世界的に認知させることがIACB発足の目的の一つであったようです。
さらに、1930年代以降に隆盛した【BELL TRADING POST】や【Maisel's Indian Trading Post】、【Arrow Novelty】等の"Manufacturers"とされる量産化を推し進めたメーカーによるマスプロ品と、その製法や工程において正当なインディアンジュエリーであること等を差別化するために組織されました。
上記のような現在『フレッド・ハービースタイル』と呼ばれるメーカーでは、ジュエリー等の製作に分業化や機械化を進め、結果的にインディアンジュエリー作家の独立や生計を圧迫しました。 そのため、古くからインディアン達と密接に付き合い、インディアンアート/クラフトを扱うトレーディングポストやトレーダー、さらにはインディアンアーティスト自身たちによって、量産化を図るメーカーに対する対抗策が講じられました。
Indian Arts & Crafts Boardもその中の一つで、サンタフェの人類学研究所キュレーターである【Kenneth Chapman】ケネス・チャップマンと、フォートウィンゲート及びサンタフェインディアンスクールで彫金クラスを受け持つナバホの巨匠【Ambrose Roanhorse】アンブローズ・ローアンホース(1904-1982)の二人によって、その素材から製法・仕上げに至るまで『U.S.NAVAJO』の刻印を許可する厳しいガイドラインが設定されました。
前述の様に末尾のナンバーはそれぞれトレーディングポストや工房を表しています。
現在、判明しているナンバーは・・・
U.S.NAVAJO 1 = Gallup Mercantile
U.S.ZUNI 1 & U.S.NAVAJO 2 = C. G. Wallace Trading Post 等がありますが、末尾の数字が二桁のものはアメリカ中西部にいくつか点在している政府が運営するインディアンスクールの彫金クラスで制作されたピースになります。
『10』= Tuba City Indian School, AZ
『20』= Shiprock Indian School, NM
『30』= Crown Point Indian School, NM
『40』= Fort Wingate Indian School, NM
『50』= Albuquerque Indian School, NM
『60』= Santa Fe Indian School, NM
【Indian School】インディアンスクールは、アメリカ中西部のインディアンリザベーションで古くから運営されるインディアン向けの学校で、基礎教育から職業訓練まで幅広い活動を行っています。
1930年代には【Fred Peshlakai】フレッド・ぺシュラカイ(1896-1974)やAmbrose Roanhorseが彫金クラスで教員として技術を教えており、近代では【Perry Shorty】ペリー・ショーティーなども教員を務めています。
本作にはホールマークなどの刻印が無く、正確にその制作時期や背景を特定することは不可能です。
しかしながら、サンドキャストやスタンプワーク、ファイルワーク等のナバホジュエリーの基礎であり根幹を成す技術を駆使して制作された作品であり、教材として作られた可能性も推測されるバングルです。
そこに、作者の独創性のあるデザインや美意識が込められる事で、新しいクリエーションを含んだブレスレットとなっています。
また、石が付かずシルバーのみで仕上げられている為に高い汎用性を有し、性別やスタイルを問わず日常のコーディネイトに奥行を与えるアクセントに成りえるブレスレット。比較的幅(ワイズ)のある作品ですが、肌が透ける部分が多いデザインの為、手首に馴染みやすい印象です。
現代的な美しさを持っていますが、古い年代の作品であり非常にコレクタブルなキラーピースの一つとなっています。
◆着用サンプル画像はこちら◆
コンディションは、全体にシルバーのクスミや細かなキズ、ハンドメイド特有の制作上のムラが見られますが、ダメージやリペアの形跡などは見られず、とても良好な状態を保っています。