【NAVAJO】ナバホのビンテージジュエリー、サンドキャストで形作られた重厚で流麗な造形をベースにアンティーク作品らしいスタンプワークが施されたアンティーク/ビンテージピンブローチです。
同様の製法で成形された作品の中でも質の高いシルバーワークと丁寧で美しい仕上げが特徴的で、ナバホギルドで制作されたものと思われる作品となっています。
本作のようなサンドキャスト(砂型鋳物)によるシルバーの成形は、ナバホジュエリー創成期からみられる技術の一つであり、その完成された技術/技法は現在に至るまで大きな変化なく受け継がれている為、制作年代の判断が困難な造形スタイルとなっています。
ただし、本作の場合には過去に発見されている類似作品や、使用されているスタンプツール(鏨・刻印)、しっかりとエッジの効いたシェイプ等から【The Navajo Arts & Crafts Guild】 (NACG)=通称『ナバホギルド』で制作されたものと推測される個体です。
1940年代~1950年代頃に作られた作品と思われ、素朴でプリミティブな技術で形作られたピースながらNAVAJO GUILD/ナバホギルドらしく根源的な美しさや独特な上質感を持ち、洗練されたデザインはインディアンジュエリー創成期の作品を意識しながらもモダンにブラッシュアップされています。
また、本作のスペシャリティとなる個性や希少性を与えているのが、さり気なくも効果的に刻まれたスタンプワークです。
中央にナバホラグのパターンをモチーフとした様なダイヤ柄が施されており、僅か一種のスタンプツール(鏨・刻印)を用いてシンプルながら作品に奥行を与えるディテールとなっています。
このようなサンドキャスト成形のバンドにスタンプワークを組み合わせるというスタイルも1930年代頃までは多くみられ、1960年代以前の作品でも散見することができるディテールですが、1970年代以降の作品では非常に少なくなってしまった造形スタイルの一つです。
さらに現在、サンドキャストによる成形技術では、多くの作品が同一の『型』を使用した作品となってしまいました。本作は、量産向けにパターン化された『型』によるピースではなく、伝統的な造形を踏襲しながらも作者のオリジナリティーを感じさせます。
さらに、厚みがありエッジのしっかりとした造形に仕上げられており、裏面の美しい研磨工程等、細部のディテールによって多くのサンドキャスト作品と比べて特別な上質感が与えられているようです。
【The Navajo Arts & Crafts Guild】(NACG)※以下ナバホギルドはインディアンアートの普及やクオリティーの保全、職人の地位向上等、【The United Indian Trader’s Association】(UITA)とも近しい目的の為に、ナバホのシルバースミス達の手によって組織されました。
中でもナバホギルドは、UITA等に比べナバホの職人主導で組織された団体で、大巨匠であるナバホのシルバースミスAmbrose Roanhorseが代表を務め、後進の育成や伝統的な技術の伝承、インディアンジュエリーのさらなる普及などを目的に1941年にギルドとして発足しました。明確にはなっていませんが、U.S.NAVAJO/Indian Arts & Crafts Boardが1937年~1940年代の初め頃までしか見られないのも、第二次世界大戦の激化による影響だけではなく、どちらの組織においても重要な役割を担っていたAmbrose Roanhorseが、Navajo Guild/The Navajo Arts & Crafts Guildに注力したためではないかと考えられます。
ナバホギルドによる作品のスタイルは特徴的で、Ambrose Roanhorseの意図が強く働いた影響のためか、インゴットから作られたベースに、クリーンで構築的なスタンプワークをメインとしたデザインと、昔ながらのキャストワークによるピースが多く、どちらも回顧主義的なオールドスタイルでありながら、洗練された美しい作品が多く制作されました。
また、もう一つの特徴はその構成メンバーです。当時から有名で最高の技術を究めた作家が名を連ねています。
【Kenneth Begay】ケネス・ビゲイ、【Mark Chee】マーク・チー、【Austin Wilson】オースティン・ウィルソン、【Allan Kee】アレン・キー、【Ivan Kee】アイバン・キー、【Jack Adakai】ジャック・アダカイ、【Billy Goodluck】ビリー・グッドラック等、さらに、Ambrose Roanhorseの教え子の一人であるホピ族の【Louis Lomay】ルイス・ロメイもナバホギルドのメンバーだったようです。
さらに特筆すべきは、これだけ有名作家が揃っていながら【NAVAJO GUILD】のジュエリーとして制作されるものは、個人のホールマーク(署名/サイン)が認められていませんでした。そのため、1941年の発足から1940年代の半ばごろまでは、まったくホールマークなどが記載されていないか、1943年以前には『U.S.NAVAJO 70』が用いられています。
その後、1943年に【Horned Moon/ホーンドムーン】と呼ばれる空を司る精霊をモチーフとしたシンボルがナバホギルドの象徴として商標登録されており、諸説ありますが1940年代後半頃からホールマークとして作品に刻印されるようになったようです。1950年代以降になってからは『NAVAJO』の文字や、銀含有率92.5%の地金であることを示す『STERLING』の刻印が追加されていきます。
また、1940年代後半以降でもホールマークの刻印が刻まれていない個体も多く発見されています。
ナバホギルドの代表を務めた【Ambrose Roanhorse】は後進の育成にも熱心な作家で、1930年代からサンタフェのインディアンスクールで彫金技術のクラスを受け持っており、多くの教え子を持っていました。
サードジェネレーションと呼ばれる第3世代の作家ですが、さらに古い年代の伝統を重んじた作品を多く残し、独特の造形美や完成された技術は次世代に絶大な影響を与えた人物です。
また、【The Navajo Arts & Crafts Guild】 (NACG)ナバホギルドのピースは、アメリカ国内では非常に高い知名度を誇っていますが、それに比例せず、現存数がとても少ないことも特徴です。 コレクターのもとには一定数があると思われますが市場に出る個体は少なく、現在発見するのが大変困難になっています。
本作ではホールマーク(作者や工房のサイン)の刻印がなく、正確な作者や制作時期の特定が出来ませんが、ナバホギルドらしいシンプルで洗練された造形のピンブローチです。
当時、インディアンジュエリー創成期のリバイバル作品制作をメインとしたナバホギルドですが、やはりその完成度や古典を踏襲しながらも新しいクリエーションを含んだ作品群は、アンティークよりもクリーンで練り上げられた造形美を持っています。
さらにそれらは現在、インディアンジュエリーという枠に収まらず、多くのシルバージュエリーブランドにとってのデザインソース/アーカイブの一つとなっています。
また本作では、丁寧なシルバーワークと卓越した立体造形センスによって、完成された造形美を誇り、さり気なくも効果的なスタンプワークによって、素晴らしいオリジナリティも与えられた作品となっています。
さらに、シルバーのみで構成されたソリッドな印象やクラシックでオーセンティックなシェイプは、多くのアイテムにさり気なくフィットし、使いやすいピンブローチとなっています。ラペルやハット以外にも多くのアイテムに馴染みやすく、日常のスタイルにおいてとても良いアクセントになってくれるアイテムです。
奥行きのある重厚な造りと、クラシックながらエッジ―で洗練された印象を与えるデザイン/造形がとても魅力的なピース。大変コレクタブルなキラーピースの一つとなっています。
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コンディションも大変良好。シルバーのクスミやハンドメイド特有の制作上のムラ等が見られますが、使用感の少ない良好な状態を保っています。