【Cochiti】コチティの大巨匠【Joe H. Quintana】ジョー・キンタナ(1915-1991)の作品。伝統的なモチーフの一つであり、同作者の代表作ともいえるBow/リボンのシェイプのピンブローチ。Joe H. Quintanaらしく非常に質の高いシルバーワークをベースに、美しいナンバーエイトターコイズがマウントされたビンテージ作品です。
確証の無い情報ですが、内側に刻印された『JHQ』ホールマーク(作者のサイン)の書体や【H】の幅が細い字体は1950年代~1960年代に作られた作品とされており、本作ではターコイズの質なども含め、1960年代以前に作られたピースと推測されます。
インゴットシルバー(銀塊)からローラーを使用せずにハンマーワークによって成形されたリボンシェイプは、ずっしりとした重みを感じさせます。そのセンターにはジェムクオリティナンバーエイトターコイズがマウントされ、古い作品ながらミニマムで洗練された美しさを持ったピンブローチです。
その美しいターコイズを中心にして、左右にバースト/放射状の凹凸が施されています。それは『チェイシング/Chasing』と呼ばれる鏨(タガネ)を使いシルバーに立体的な角度を付ける(彫刻の様なイメージ)技術と『ファイルワーク』と呼ばれるヤスリによって削る技術を駆使し、左右対称にバーストデザインが生み出されており、それぞれ上下のエッジには力強いスタンプワークが刻まれています。それらの装飾が簡素ながらとても効果的に強いコントラストと、動きのある表情が与えているようです。
また、これらのシルバーワークはどれもプリミティブで伝統的な技術となっていますが、その仕上がりは不思議なほどにモダンで現代的な印象となっています。
マウントされたターコイズは、非常に美しいオールドナンバーエイトターコイズです。 宝石としての価値を有するジェムクオリティーターコイズで、ミドルグレード以上にグレーディングできる石です。濃いブルーではありませんが、ナンバーエイトらしいとても澄んだ水色にブラックウェブが入り、高い硬度を感じさせる透明感と、今なお艶と照りが見られる宝石としての価値を持ったナンバーエイトターコイズです。
大変質の高いオールドナンバーエイトのため、数十年を経過していながら変色せず、現在もナンバーエイト独特の魅力を湛えています。もちろん無添加ナチュラルのターコイズです。
【Number Eight Turquoise】ナンバーエイト鉱山は、ネバダ州の鉱山で1920年代中頃~1960年代頃まで採掘されていました。特に1930年代中頃に採掘された石は素晴らしいクオリティーを持っていたとされています。また、採掘されるターコイズの色味や質等のバリエーションが豊かな鉱山の一つですが、その多くは澄んだ水色を持ち、ハイグレードにグレーディングされるものは北米産ターコイズの中でも最も変色や劣化しにくいとされ、高い硬度を誇っています。
現在はその多くがコレクターや有力なトレーダーに収蔵され、市場に出ること自体が少なくなってしまいました。
【Joe H. Quintana】(Jose Higineo Quintana)の功績はこちらで語りつくせるものではありませんが、多くの賞を獲得しただけでなく、革新的な造形を生み出し、技術的にも頂点に達したインディアンジュエリーにおける最高のシルバー・スミスの一人です。 現在、トップアーティストとして活躍する作家【Cippy CrazyHorse】シピー・クレイジーホースの師であり、父親としても有名です。
1915年Cochiti Puebloに生まれ、1932年頃からシルバースミスのキャリアをスタートさせたようです。1930年代後半頃には【Julius Gan's Southwestern Arts and Crafts】(ユリウス・ガンズ サウスウエスト アーツアンドクラフト)に所属し、シルバースミスの一人としてジュエリーの制作に従事しました。Southwestern Arts and Craftsには、【Ambrose Roanhorse】アンブローズ・ローアンホース、【David Taliman】デビッド・タリマン、【Mark Chee】マーク・チーも在籍していた記録が残っており、優秀でクリエイティブな作家を生み育てるバックアップや技術の継承があったと推測されます。
第二次世界大戦中は造船の仕事に従事し、ブラック・スミス(金属(鉄)鍛冶)の技術を身に付け、戦後の1950年代頭頃にニューメキシコに戻り、ロスアラモスの【Turquoise Post】やアルバカーキに在った【Seligman's】、その他にもFrank Pataniaの経営する【Thunderbird Shop】やManny Goodmanの【Covered Wagon】等、多くのインディアンクラフトショップに所属していたと言われています。 その間、1960年代中頃までになんと22本ものアートショーにおけるアワード受賞リボンを獲得しました。
1960年代後半には、【Irma Bailey】の経営する【Irma's Indian Arts & Pawn】等のために作品を制作、70年代にIrma's Indian Arts & Pawnが閉店するとコチティ族の家に戻ってシルバースミスとして活動を継続しました。
長いキャリアの中で、特に影響を感じさせるのが【Frank Patania Sr】フランク・パタニアです。1927年にサンタフェに【Thunderbird Shop】をオープンし、自身もアーティストとして評価の高いイタリア人作家のFrank Patania Srは【Joe H. Quintana】だけでなく、【Julian Lovato】ジュリアン・ロバト(1925-)や、【Louis Lomay】ルイス・ロメイ(1914-1996)にも技術やその美意識を教授した人物として知られています。
彼らは共通して高い独自性とインディアンジュエリーの伝統的で素朴な強さを持ちながら、新しい価値観や実験的な造形を生み出し、品位を感じさせる作品を多く残しました。 それぞれに強い個性を持っていますが、どこか共通する美意識を感じるのも特徴です。
ジョー・キンタナの作品はシンプルで洗練されたクリーンなデザインが特徴で、唯一無二のクオリティーを誇るシルバービーズや伝統的でプリミティブな技術を駆使し、非常に完成されたエレガントな作品を生み出すことを得意としています。
石の選別にも素晴らしい物があります。またそのシルバーワークは多岐にわたり、銀食器や花器など様々な作品を残していますが、やはりジュエリーのクオリティーや美しさは特別なものです。
70年代頭に制作したコンチョベルトはDOORSの【Jim Morrison】が愛用したことでも有名になりました。
【Ingot Silver】インゴットシルバー(銀塊)からの成形は、アンティークインディアンジュエリーにおいて非常に重要なファクターですが、銀含有率/品位などの素材とは関係なく、ジュエリーの製法技術を表します。
現在制作されている作品の多くは、材料として市販されているシルバープレート(銀板/ゲージ)を加工することでジュエリーとして成形されていますが、インゴットから成形する製法では一度溶かしたシルバーを、鍛冶仕事に近い方法であるハンマーやローラーで叩き伸ばすことでジュエリーとして成形していきます。最終的にはどちらもプレートやバーの形態になるため、大きな差は無いように思われますが、インゴットから成形されたシルバーの肌は、硬くなめらかで鈍い光を持っています。それにより生み出されるプリミティブで武骨な作品の表情は、やはりアンティークインディアンジュエリーの大きな魅力です。
また、1930年代にはシルバープレートが登場しますが、当時シルバープレートを用いて制作されたジュエリーは政府によりインディアンクラフトとして認定されず、グランドキャニオンなどの国立公園内で販売できなくなった記録も残っています。
本作においてもインゴットシルバー(銀塊)から成形された地金は硬くなめらかな質感を有し、シンプルな造形ながら独特の上質感を感じさせ、さらに作者の突出した造形センスが与えられることで伝統工芸品/アートピースとしての美しさも感じさせる作品です。
またシンプルなピンブローチであり、大作というような作品ではありませんが、こちらの様なリボンシェイプのピンは、Joe H. Quintanaの遺した名作として紹介される事が多い代表作の一つとなっています。インディアンジュエリーの伝統を踏襲しながら端正なシルバーワークやハイグレードなターコイズによって上質感や独自性が与えられた作品です。
程よいサイズ感やクラシックでクリーンな印象は、大変使いやすく多くのアイテムに馴染みの良い造形のピンブローチ。アウターのアクセントとしてだけでなく、蝶ネクタイとしての着用にも向いたジュエリー作品であり、ハットやバッグ等のワンポイント等にも使い勝手の良いピースです。
作品が市場に出にくい作家の一人であり、特にこちらの様なシンプルで美しいピンブローチはアメリカ国内を含め、探してもほとんど見つからなくなっています。
Joe H. Quintanaという巨匠のアイデンティティーを体感できる作品であり、資料価値も高い作品です。
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コンディションも良好です。全体に多少のクスミや僅かなキズ、制作上のムラ等が見られますが、ターコイズを含め良好な状態を保っています。
ターコイズのマトリックス部分に凹凸が見られますが、それらはカットされた時からの天然石が持つ特徴となっています。