【NAVAJO】ナバホのビンテージジュエリー、サンドキャストによって成形された作品で、『角の生えた月/ホーンドムーン』をモチーフとした仕上げのとても綺麗なビンテージ/アンティークピンブローチです。
ホールマーク(作者のサイン)等が刻印されていない為、正確に作者や背景を特定することは出来ませんが、そのモチーフと丁寧なキャストの仕上げ等からは、【The Navajo Arts & Crafts Guild】 (NACG)=通称『ナバホギルド』で制作された作品が想起されます。
The Navajo Arts & Crafts Guild/ナバホギルドは、ナバホの中でも多くの傑作を残している組織で、こちらの作品は同組織がナバホギルドの象徴である【Horned Moon】と呼ばれるホールマーク(作者やショップなどのサイン)が刻印されていませんが、モチーフそのものとなっています。
1950年代末頃~1960年代に作られた作品と思われ、シンプルな造形はサンドキャストによる成形で、素朴でプリミティブなピースながら【NAVAJO GUILD】ナバホギルドらしく手作業による丁寧な仕上げが施され、どこかクリーンでモダンな表情が与えられています。また、本作の様なサンドキャストによる成形技術は、ナバホジュエリーの古典期から現在に至るまで大きく変わっておらず、その製法やデザインスタイルも長く受け継がれています。しかしながら、現在では多くが同一の『型』を使用した作品となってしまいました。本作は、量産向けにパターン化された『型』によるピースではなく、作者のオリジナリティーと高い技術を感じさせ、裏面の研磨等の仕上げ工程や、厚みがありエッジのしっかりとした造り等、細部のディテールに1960年代以前のサンドキャスト作品に多くみられる上質感を持っています。
また現在、こちらのようなイェイやホーンドムーン等、ホピ族やズニ族の精霊カチナとは異なるナバホ族独特の精霊をモチーフとしてサンドキャストで成形されたピースは現代にも受け継がれています。中でも【Francis Jones】フランシス・ジョーンズや【Wilson Begay】ウィルソン・ビゲイ等が本作に類似した作品を制作しています。
裏側に刻まれている『STERLING』の刻印については、銀含有率92.5%の地金であることを示す表記であり、1930年代中頃には登場していた刻印です。ただし、ショップやトレーディングポストにおいて多用されるようになったのは戦後である1940年代末以降のようです。1940年代以前に作られたツーリストジュエリーでも散見されますが、第二次世界大戦中の銀の不足が影響したと推測され、1940年代末以降の作品で非常に多くみられるようになりました。『925』の表記も同じ意味を持っていますが、925の刻印はインディアンジュエリーにおいては非常に新しく採用された刻印であり、そのほとんどが1990年代以降の作品に刻印されています。
Sterling Silver/スターリングシルバー=925シルバーは、熱処理によって時効硬化性をもち、細かな細工や加工に向いている為、現在においても食器や宝飾品等様々な物に利用されています。
【The Navajo Arts & Crafts Guild】(NACG)※以下ナバホギルドは【The United Indian Trader’s Association】(UITA)等と共にインディアンアートの普及やクオリティーの保全、職人の地位向上等のために現地トレーディングポストや作家たちの手によって組織されました。
中でもナバホギルドは、UITA等に比べナバホの職人主導で組織された団体で、大巨匠であるナバホのシルバースミスであるAmbrose Roanhorseが代表を務め、後進の育成や伝統的な技術の伝承、インディアンジュエリーのさらなる普及などを目的に1941年にギルドとして発足しました。
ナバホギルドによる作品のスタイルは特徴的で、Ambrose Roanhorseの意図が強く働いた影響のためか、インゴットから作られたベースに、クリーンで構築的なスタンプワークをメインとしたデザインと、昔ながらのキャストワークによるピースが多く、どちらも回顧主義的なオールドスタイルでありながら、洗練された美しい作品が多く制作されました。
また、もう一つの特徴はその構成メンバーです。当時から有名で最高の技術を究めた作家が名を連ねています。前述のKenneth Begay、【Mark Chee】マーク・チー、【Austin Wilson】オースティン・ウィルソン、【Allan Kee】アレン・キー、【Ivan Kee】アイバン・キー、【Jack Adakai】ジャック・アダカイ、【Billy Goodluck】ビリー・グッドラック等、さらに、Ambrose Roanhorseの教え子の一人であるホピ族の【Louis Lomay】ルイス・ロメイもナバホギルドのメンバーでした。
さらに特筆すべきは、これだけ有名作家が揃っていながら【NAVAJO GUILD】のジュエリーとして制作されるものは、個人の署名(ホールマーク)が認められていませんでした。そのため共通して、【NAVAJO】の文字と【Horned Moon】と呼ばれるホールマークが刻印されています。
また、【The Navajo Arts & Crafts Guild】 (NACG)ナバホギルドのピースは、アメリカ国内では非常に高い知名度を誇っていますが、それに比例せず、現存数がとても少ないことも特徴です。 コレクターのもとには一定数があると思われますが市場に出る個体は少なく、現在発見するのが大変困難になっています。
当時、インディアンジュエリー創成期のリバイバル作品制作をメインとしたナバホギルドですが、やはりその完成度や古典を踏襲しながら新しいクリエーションを含んだ作品群は、アンティークよりもクリーンで練り上げられた造形美を持っています。
そして、それらナバホギルドの残した作品群は、長く受け継がれるスタンダードなアイテムともなっています。
本作もナバホギルドらしいデザインと美しく仕上げたサンドキャスト成形が特徴的な作品であり、どこか可愛い雰囲気を持つホーンドムーンモチーフのピンブローチ。キャッチーで可愛い印象とナバホジュエリーの武骨でエスニシティな表情を持ち、ラペルやハット以外にも多くのアイテムに馴染みの良いシンプルな作品です。
また、アイコニックなモチーフは、男性向けのアクセサリーには重要な要素である『ギャップ』と『遊び心』を与えてくれるアイテムであり、さり気なくスタイルに奥行きをもたらすことが出来るビンテージピンです。
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コンディションも大変良好です。シルバーのクスミは見られますが、使用感やダメージのない良好な状態を保っています。