【NAVAJO】ナバホのアンティークジュエリー、ファイルワークという原始的な技術によって立体的なバイアス模様が構成された非常にシンプルな作品。ミニマルなデザインながらプリミティブで大変な手間の掛る製法によって造形され、重厚に仕上げられたアンティーク/ビンテージバングルです。
また、ホールマーク(作者のサイン)等が刻印されていない為、正確に作者や背景を特定することは出来ませんが、バンドの独特なシェイプや造形スタイル等から【The Navajo Arts & Crafts Guild】 (NACG)=通称『ナバホギルド』で制作された物と推測される作品です。
The Navajo Arts & Crafts Guild/ナバホギルドは、ナバホの中でも多くの傑作を残している組織で、こちらの作品は同組織がナバホギルドの象徴である【Horned Moon】と呼ばれるホールマークを使用し始める1940年代後半までに作られた作品の可能性が高いブレスレットです。
第一印象では大きな特徴を持たないように見えますが、バンド(地金)のシェイプ自体が大変独特で特徴的な作品となっています。そのインゴットシルバー(銀塊)から成形されたバンドは、太く重厚なハーフラウンドワイヤー(半円型の断面)となっていますが、フロントが太く厚くなっており、ターミナル(両端)にかけて細く薄く造形されています。このようなシェイプの造形には、大変な手間と高い技術力が求められ、1890年代以前の『古典期』と呼ばれる時代の作品やナバホギルドの作品でのみ発見されている特殊性を持ったディテールとなっています。
そして、そのようなバンドに『ファイルワーク』と呼ばれるヤスリで削る原始的な技法によって立体的なバイアスラインが美しく構成されており、それは、正面部分だけでなく、上下のエッジ(厚み)部分にまで至っています。さらに、それはフラットな凸と曲面を持つドーム状の凸が交互に形成されており、独特のメリハリを持ったバイアスラインとなっています。また、非常に手の込んだシェイプの造形とラインを形作るディテールにより、シンプルながら繊細で、緻密でありながら手仕事の温もりを感じさせる仕上がりとなっています。
またこれらのディテールは、【NAVAJO GUILD】ナバホギルドらしい伝統的な製法やデザインを重視し制作されたピースであることを表しており、武骨でプリミティブな技術によって作り上げられていますが、シンプルでセンスを感じさせるクリーンなデザインにより、当時モダンスタイルと呼ばれた美しさを持っています。
また現在、こちらのようなオールドスタイルやアーリーナバホスタイルと呼ばれるアンティーク作品をデザインソースとしたアイテムは、ミッドセンチュリー期にはホピの【Lewis Lomay】ルイス・ロメイ(1913-1996)やナバホの【Mark Chee】マーク・チー(1914-1981)の作品でもみられます。さらに、現代においてはナバホの【Perry Shorty】ペリー・ショーティーやアングロ(白人)作家の【Jock Favor】ジョック・フェイバー、【Jesse Robbins】ジェシー・ロビンス等が当時の技術を継承し、本作と同じような理念を持ったリバイバル作品を制作しています。
【The Navajo Arts & Crafts Guild】(NACG)※以下ナバホギルドは【The United Indian Trader’s Association】(UITA)等と共にインディアンアートの普及やクオリティーの保全、職人の地位向上等のために現地トレーディングポストや作家たちの手によって組織されました。
中でもナバホギルドは、UITA等に比べナバホの職人主導で組織された団体で、大巨匠であるナバホのシルバースミス【Ambrose Roanhorse】アンブローズ・ローアンホース(1904-1982)が代表を務め、後進の育成や伝統的な技術の伝承、インディアンジュエリーのさらなる普及などを目的に1941年にギルドとして発足しました。
ナバホギルドによる作品のスタイルは特徴的で、Ambrose Roanhorseの意図が強く働いた影響のためか、インゴットから作られたベースに、クリーンで構築的なスタンプワークをメインとしたデザインと、昔ながらのキャストワークによるピースが多く、どちらも回顧主義的なオールドスタイルでありながら、洗練された美しい作品が多く制作されました。
また、もう一つの特徴はその構成メンバーです。当時から有名で最高の技術を究めた作家が名を連ねています。【Kenneth Begay】ケネス・ビゲイ、【Mark Chee】マーク・チー、【Austin Wilson】オースティン・ウィルソン、【Allan Kee】アレン・キー、【Ivan Kee】アイバン・キー、【Jack Adakai】ジャック・アダカイ、【Billy Goodluck】ビリー・グッドラック等、さらに、Ambrose Roanhorseの教え子の一人であるホピ族の【Louis Lomay】ルイス・ロメイもナバホギルドのメンバーでした。
さらに特筆すべきは、これだけ有名作家が揃っていながら【NAVAJO GUILD】のジュエリーとして制作されるものは、個人の署名(ホールマーク)が認められていませんでした。そのため共通して、【NAVAJO】の文字と【Horned Moon】と呼ばれるホールマークが刻印されています。
ナバホギルドの代表を務めた【Ambrose Roanhorse】は後進の育成にも熱心な作家で、1930年代からサンタフェのインディアンスクールで彫金技術のクラスを受け持っており、多くの教え子を持っていました。 サードジェネレーションと呼ばれる第3世代の作家ですが、さらに古い年代の伝統を重んじた作品を多く残し、独特の造形美や完成された技術は次世代に絶大な影響を与えた人物です。
また、【The Navajo Arts & Crafts Guild】 (NACG)ナバホギルドのピースは、アメリカ国内では非常に高い知名度を誇っていますが、それに比例せず、現存数がとても少ないことも特徴です。 コレクターのもとには一定数があると思われますが市場に出る個体は少なく、現在発見するのが大変困難になっています。
【Ingot Silver】インゴットシルバー(銀塊)からの成形は、アンティークインディアンジュエリーにおいて非常に重要なファクターですが、銀含有率/品位などの素材とは関係なく、ジュエリーの製法技術を表します。
現在制作されている作品の多くは、材料として市販されているシルバープレート(銀板/ゲージ)を加工することでジュエリーとして成形されていますが、インゴットから成形する製法では一度溶かしたシルバーを、鍛冶仕事に近い方法であるハンマーやローラーで圧力をかけて伸ばすことでジュエリーとして成形していきます。最終的にはどちらもプレートやワイヤーの形態になるため、大きな差は無いように思われますが、インゴットから成形されたシルバーの肌は、硬くなめらかで鈍い光を持っています。それにより生み出されるプリミティブで武骨な作品の表情は、やはりアンティークインディアンジュエリーの大きな魅力です。
また、1930年代にはシルバープレートが登場しますが、当時シルバープレートを用いて制作されたジュエリーは政府によりインディアンクラフトとして認定されず、グランドキャニオンなどの国立公園内で販売できなくなった記録も残っています。
本作もある程度キャストで成形されたインゴットシルバーをベースに、ハンマーワークとファイルワークというナバホジュエリーの伝統的で基本的な技術によって形作られています。また、それらによってもたらされた滑らかなシルバーの肌は大変硬く滑らかで、腕にとても心地よい着用感をもたらしています。
また、古典期からの伝統を守るナバホジュエリーの根源的な作品でありながら、インディアンジュエリーではないようなクリーンで現代的な表情を持った作品となっています。シルバーのみで構成されたソリッドな質感は強い存在感を与えませんが、重く重厚な造りは武骨な印象を作り、繊細で緻密なシルバーワークは、洗練されたミニマムな完成度を与えており、多くのスタイルに馴染みやすく長くご愛用いただける普遍的な造形美を持つバングルです。
シンプルでクリーンな構成ながら、ビンテージインディアンジュエリー独特の素朴で武骨な魅力を持ち、非常に高い完成度を持つハイエンドなピース。また【The Navajo Arts & Crafts Guild/ナバホギルド】の特徴を集約したような作品であり、明確な背景を確認することは出来ませんが、モダンでずば抜けた造形センスを感じさせ、歴史的な資料価値も高く大変コレクタブルで貴重な作品の一つです。
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コンディションも大変良好です。シルバーのクスミや僅かな小傷、ハンドメイド作品特有の制作上のムラ等は見られますが、使用感は少なく特にダメージのない良い状態を保っています。