【NAVAJO】ナバホのビンテージジュエリー、【Packards Indian Trading Company/Packards' Chaparral Trading Post】パッカーズインディアントレーディングカンパニーで販売された作品で、ショップ名の刻印と共に作者のホールマーク『J.SUINA』の文字も刻まれていますが、現時点では作者個人は不明となっているビンテージ/アンティークワイドバングルです。
丁寧なシルバーワークによってバンディット/ボーダー(帯状)の紋様を刻んだ非常にシンプルで根源的な造形の美しさを持つ作品です。
同店がショップ名の刻印を施していた時期や造形スタイル等から、1950年代~1970年代初頭頃に作られたものと推測されます。全てがハンドメイドで仕上げられた作品であり、おそらくインゴットシルバー(銀塊)から成形されたバンドをベースとしている為、硬く滑らかな肌も特徴的なブレスレットです。
ワイヤーが5連になったようなデザインですが、5本のワイヤーを重ねて造形されたのではなく、ファイルワークと云う削り出す技術、そしてスタンプワーク等のハンマーワークによって成形されています。シンプルなデザインですが、非常に手間の掛かるシルバーワークによって形作られており、ハンドメイド独特の野性味と無機質な上質感の相反する要素共に備えているようです。さらに、心地よい重量感を有し、手首へのフィット感やなめらかなシルバーの肌は優美な印象さえ帯び、高い完成度を誇っています。
また、同様のバンデットスタイルのバングルは、古典期から作られていたスタイルの一つであり、多くの類似したピースが発見されています。ホピの【Grant Jenkins】グラント・ジェンキンス(1909-1933)の作品や、【Indian Arts & Crafts Board】の中でも【U.S.NAVAJO 2】= 【C. G. Wallace Indian Trader】、同じく【U.S.NAVAJO 40】=【Fort Wingate Indian School】で制作されたピース、そして【The Navajo Arts & Crafts Guild】通称ナバホギルド、その代表を務めた【Ambrose Roanhorse】による作品にも残されていますし、サンタフェに在ったインディアンクラフトショップ【SOUTHWEST ARTS&CRAFTS/Ganscraft】でも類似したバングルが制作されていました。さらに、【Thunderbird Shop】の創業者である【Frank Patania Sr.】フランク・パタニア(1899-1964)又の作品にも同じ造形スタイルの作品が存在し、画家の【Georgia O'Keeffe】ジョージア・オキーフ(1887-1986)が身に付けていた記録が残っています。
そして、それらの作品を模倣/サンプリングしたピースが1940年代~1950年代のツーリストジュエリーにおいても散見され、おそらく【Maisel's Indian Trading Post】マイセルズインディアントレーディングポストや【BELL TRADING POST】ベルトレーディングポストによって作られています。こちらの作品も、それらの【Fred Harvey Style】フレッド・ハービースタイルと呼ばれるツーリストアイテムとして量産されたバングルのデザインソースになった作品の一つであると推測されます。
また、もう少し新しい年代のメキシカンシルバージュエリーでも類似したスタイルを見つけることができ、【TIFFANY & CO】ティファニーでも制作されたデザインです。インディアンジュエリーに限らず、伝統的で長く受け継がれていたスタイルの為、その発祥は未確認ですが、1900年代以前のインディアンジュエリー初期には生まれていた造形/デザインの1つとなっています。
【Packards Indian Trading Company/Packards' Chaparral Trading Post】パッカーズインディアントレーディングカンパニーは、1920年代にFrank Packardがオクラホマで創業したトレーディングポストを起源とし、1944年には息子であるAl Packardと共にサンタフェの中心であるサンタフェプラザにショップをオープンさせています。その後、オーナーが変わりながらも近年まで存続していましたが、20013年に惜しまれながらも閉店しています。
本作が作られた古い時代では、ナバホの巨匠【Mark Chee】マーク・チー(1914-1981)や【Kewa】キワ(サントドミンゴ)の大巨匠【Julian Lovato】ジュリアン・ロバト(1925-2018)等、多くの作家を見出しサポートしたことでも知られており、ナバホ以外の作家の作品も多く取り扱い、上質なジュエリーのみを紹介する高級店でした。
店名である『PACKARDS』の刻印と共に刻まれている『J.SUINA』という作者については、ナバホのシルバースミスであろうと推測されますが、その人物は特定できていません。同じホールマークの刻印された作品も僅かな数しか発見されておらず、ナバホジュエリー古典期の作品を意識した回顧主義的な作品やクリーンでシンプル、構築的な印象を持った作品等が発見されています。当時から高名な作家をバックアップし、ハイエンドなジュエリーを取り扱っていたPackardsに在籍していたことだけでも、その技術力やジュエラーとしての資質は確かなものであった事が判ります。
『STERLING』の刻印については、銀含有率92.5%の地金であることを示す表記であり、1930年代中頃には登場していた刻印です。ただし、ショップやトレーディングポストにおいて多用されるようになったのは戦後である1940年代末以降のようです。1940年代以前に作られたツーリストジュエリーでも散見されますが、第二次世界大戦中の銀の不足が影響したと推測され、1940年代末以降の作品で非常に多くみられるようになりました。『925』の表記も同じ意味を持っていますが、925の刻印はインディアンジュエリーにおいては非常に新しく採用された刻印であり、そのほとんどが1990年代以降の作品に刻印されています。
Sterling Silver/スターリングシルバー=925シルバーは、熱処理によって時効硬化性をもち、細かな細工や加工に向いている為、現在においても食器や宝飾品等様々な物に利用されています。
本作のバンデッド/ボーダーのパターンは、非常にシンプルでクリーンなデザインながら、古い技術を重視して作られており、ビンテージインディアンジュエリー独特の男っぽく骨太な印象も持ったブレスレットです。
このようなプレーンなシルバーの質感と美しさを際立たせた作品は、着ている服の色や天気・環境、そして周辺の景色を映し出します。その為、ワイドな幅を持ったバングルですが、色々なスタイルやあらゆるシーンに溶け込みながら、個性を主張できるジュエリーとなっています。
そしてミニマムなデザインは、ビンテージジュエリーながら現在も色褪せることのない普遍的な造形美を持ち、時代を超越した魅力を感じさせます。またそれは、非常に多くのスタイルにさり気なくフィットさせる事が可能であり、長年にわたってご愛用いただけるバングルかと思われます。
『Packards』という取り扱い店を確認することが可能でありながら、『J.SUINA』という詳細不明の作者による作品であり、高い史料価値も持ったビンテージジュエリー。コレクションとしても十分にその価値を感じ、高い完成度を含めハイエンドな作品です。
◆着用サンプル画像(10枚)はこちら◆
コンディションはシルバーにクスミや細かなキズ、ハンドメイド作品特有の制作上のムラ等は見られますが、特にダメージは無く良好なコンディションとなっています。