【PUEBLO】プエブロ・【NAVAJO】ナバホの作家が在籍したインディアンクラフトショップ【GARDEN OF THE GODS TRADING POST】ガーデンオブザゴッズトレーディングポストで作られた作品。素晴らしいクオリティとオリジナリティを持つ作品を残した同工房の中でも、突出した創造性とスペシャリティを持つ個体となっており、インゴットコインシルバー(銀塊)から成形された重厚なバンドをベースとして、力強いスタンプワークやシェルコンチョのリポウズ/バンプアウトが施されたアンティーク/ビンテージバングルです。
本作にはホールマーク(作者やショップのサイン)の刻印がありませんが、使用されているスタンプツール(デザインを刻む刻印)から、間違いなくガーデンオブザゴッズで作られた作品と特定することが可能です。
全く同じスタンプ(鏨)ツールが使用された作品につきましては、下記リンクの作品をご参照ください。
『JBO015176』『JBO013431』
同トレーディングポストでは、古くからハンドメイドのスタンプツールとコマーシャルスタンプと呼ばれる既製(工業製品)のツールが同時に使用されていましたが、本作に見られるようなサンダーバードのデザインは、同トレーディングポスト以外では発見されていないスタンプ/刻印となっています。
上記の様なディテールによって制作元の工房が特定され、1920年代後半~1940年代初頭までに作られた作品と推測できます。また、当時作られた同工房の銀製品は全てコインシルバーとされており、本作もコインシルバー(品位900=90.0%の純度)で作られています。
また、本作は【Tourist Jewelry】ツーリストジュエリーや【Fred Harvey Style】フレッド・ハービースタイルと呼ばれる、20世紀前半のサウスウエスト観光産業の隆盛に合わせて作られたスーベニアアイテムの一つですが、全ての工程が一人のインディアンシルバースミスの手によってハンドメイドで仕上げられています。その為、生産に機械化や分業化が導入されたスーベニアジュエリーとは一線を画し、ワイルドで力強い作品となっています。
インゴットコインシルバー(銀塊)から成形されたバンド/地金は、心地よい重量感を持ち比較的ワイドな幅に仕上げられています。そして、センターと両サイド付近の3か所にはシェルコンチョのリポウズ/バンプアウトが施されています。このような菊花紋章の様なデザインは、元々はシェル/貝殻を起源としたデザインであり、インディアンジュエリーの最も古いモチーフの一つとなっています。古くから現代まで受け継がれ、多くの場合には本作の両サイドと同様に鏨(鉄製の金型ツール)の凸と凹を用いてシルバーを挟み、叩きだすことで立体的なシェルデザインを浮き上がらせますが、本作の中央に施された菱形のリポウズについては、木(丸太)やレッド(鉛の塊)に施された凹みに、地金となるシルバーをハンマーで叩き沿わせることによってドーム状の膨らみを作り上げており、さらにそこに『チェイシング/Chasing』と呼ばれる鏨を使いシルバーに立体的な角度を付ける(彫刻の様なイメージ)技術とスタンプワークを用いた高度なシルバーワークによって形作られています。
そして、それらのデザインに合わせ、円弧を連続させたシェイプが形作られており、力強い造形の中に優美で有機的な表情が生み出されているようです。また、全体に隙間なくスタンプワークが配され、アローやサンダーバード等のスタンプも秀逸でGARDEN OF THE GODSの独自性や様式美も感じさせるブレスレットとなっています。
GARDEN OF THE GODSで制作された作品群の多くとは、全く違ったクオリティとデザイン・造形を持つ作品となっていますが、稀に同工房に所属した有名作家の作品においては、例外的なオリジナリティと質を持ったピースが残されており、本作もそんな貴重な作品の一つです。
【GARDEN OF THE GODS TRADING POST】ガーデンオブザゴッズトレーディングポストは、もともとFred Harvey Companyで働いていた【Charles E. Strausenback】チャールズ・E・ストローセンバックが、1920年にコロラド州Pike's Peakの国立公園『ガーデンオブザゴッズ』で始めた観光客向けのインディアンアートショップです。
多くの優秀なプエブロインディアン作家を擁し、ナバホのオールドスタイルをベースにしながらも、プエブロスタイルを積極的に取り入れたミックススタイルが特徴的な工房です。所属していたのは、インディアンジュエリー創成期の最もクリエイティブな作家の一人として知られるサン・イルデフォンソの【Awa Tsireh】アワ・シーディー(1898-1955)をはじめ、ナバホの【David Taliman】デビッド・タリマン(1902or1901-1967)、他にも【Epifanio Tafoya】【William Goodluck】【John Etsitty】等、プエブロ・ナバホの中でも、後に偉大なアーティストとして知られる多くの作家達であり、それぞれが独創的なスタイルを生み出し、沢山の傑作を送り出したインディアンアートショップです。
GARDEN OF THE GODSも1900年代以降のサウスウエスト観光産業の隆盛により創業された「スーベニア(記念品)ビジネス」と言う意味では、【Fred Harvey Style】フレッド・ハービースタイルと呼ばれるジャンルにカテゴライズされている【BELL TRADING POST】や【Maisel's Indian Trading Post】、【Arrow Novelty】等の分業化や機械化を進めインディアンクラフトの量産化を図ったメーカー/Manufacturersと同じスタートを切っていますが、インディアンアートショップとして古い伝統技術や製法を守り、独自性を持ちながら工芸品/アートピースとしての制作が行われており、上記の様なフレッド・ハービースタイルのマスプロダクト製品とは一線を画す存在です。
しかしながら、当時とても新しいかったポップなスタイルを持つAwa Tsirehの作品が、お手本として【BELL TRADING POST】をはじめとする量産メーカーに模倣されたことや【Fred Peshlakai】の作品、【C. G. Wallace】で作られたデザイン/造形が上記のようなメーカーのデザインソースとなったことによりGARDEN OF THE GODS TRADING POSTやFred Wilson's Indian Trading Post、Southwestern Arts and Crafts等の分業や量産化を図っていない工房の作品も量産メーカーによるフレッド・ハービースタイルと混同されることになってしまいました。
1940年代には、コロラド州ガーデンオブゴッドとコロラドスプリングス、そしてアリゾナ州フェニックスにも店舗を展開しますが、1956年頃にCharles E. Strausenbackが亡くなっており、その後は妻がビジネスを引き継いでいたようですが、1979年にはビジネス自体が買収されました。そのため、ジュエリー等の制作は1950年代頃までだったと思われます。
また、同店はコロラド州にある神々の庭/Garden of the Godsにて、現在もヒストリックなトレーディングポストとして当時の姿を残して土産物店・カフェとして運営されています。
【Coin Silver】コインシルバーとは、インディアンジュエリーにおいては銀含有率90.0%の地金を表します。 また、アメリカの古い硬貨における銀含有率は900ですが、日本では800~900や古い100円硬貨では600、メキシカンコインは950であり、900シルバーが最も多く使われていますが世界中で共通した純度ではありません。
同様に【Sterling Silver】スターリングシルバー=【925シルバー】は、銀含有率92.5%の地金であり、こちらは世界中で共通の基準となっています。また『割金』と呼ばれる残りシルバー以外の7.5%には、銅やアルミニウム等が含まれています。(現在では、スターリングシルバーの割金は7.5%全てが銅と決められています) 925シルバーは熱処理によって時効硬化性をもち、細かな細工や加工に向いていたため食器や宝飾品等様々な物に利用されていますが、インディアンジュエリーにおいては、その初期に身近にあった銀製品、特にシルバーコインを溶かすことで、材料を得ていた背景があるため、現代でも限られた作家によりコインシルバーを用いる伝統が残されています。
シルバーの色味や質感は、『割金』や製法にも左右され、コインシルバー900とスターリングシルバー925の差異は純度2.5%の違いしかない為、見た目で判断するのは困難ですが、やはりコインシルバーは少し硬く、着用によってシルバー本来の肌が現れた時に、スターリングシルバーよりも深く沈んだ色味が感じられると思います。
さらに古い1800年代後半頃の作品では、メキシカンコインが多く含まれていたためか、そのシルバーの純度は95.0%に近くなっているようですが、身近な銀製品を混ぜて溶かしていた歴史を考えると純度に対してそれほど強い拘りはなかったことが推測されます。
【Ingot Silver】インゴットシルバー(銀塊)からの成形は、アンティークインディアンジュエリーにおいて非常に重要なファクターですが、銀含有率/品位などの素材とは関係なく、ジュエリーの製法技術を表します。
現在制作されている作品の多くは、材料として市販されているシルバープレート(銀板/ゲージ)を加工することでジュエリーとして成形されていますが、インゴットから成形する製法では、一度溶かしたシルバーをハンマーやローラーで圧力をかけて伸ばす、鍛冶仕事に近い方法によってジュエリーとして成形していきます。最終的にはどちらもプレートやワイヤーの形態になるため、大きな差は無いように思われますが、インゴットから成形されたシルバーの肌は、硬くなめらかで鈍い光を持っています。それにより生み出されるプリミティブで武骨な作品の表情は、やはりアンティークインディアンジュエリーの大きな魅力となっています。
また、1930年代にはシルバープレートが登場しますが、当時シルバープレートを用いて制作されたジュエリーは政府によりインディアンクラフトとして認定されず、グランドキャニオンなどの国立公園内で販売できなくなった記録も残っています。
【Arrowhead/Arrow】アローヘッド/アローは、『お守り』の意味合いを持ちインディアンジュエリー創成期からみられる最古のモチーフの一つです。
【Thunderbird】サンダーバード はインディアンジュエリーの伝統的なモチーフの一つで、伝説の怪鳥であり、雷や雲、ひいては雨とつながりが深く幸福を運んでくるラッキーシンボルでもあります。
ジュエリーでは、限界の無い幸福を表すシンボルであり、ネイティブアメリカンの守り神的存在です。
アローやサンダーバードをモチーフとした細かなスタンプワーク等により、ビンテージインディアンジュエリー独特な表情とラフで奥行きのある表情がもたらされていますが、360度どの角度から見ても素晴らしい造形美には、作者の信念や美意識が宿っているようにも感じられます。
非常に手間のかかるディテールが惜しげなく盛り込まれ、プリミティブな製法ながら時間と技量が注がれたシルバーワークにより、武骨ながらどこかエレガントで工芸品としてだけではなくジュエリーとしての品位が与えられたブレスレットとなっています。
迫力のあるボリューム感と野性味さえ感じさせる造形ですが、柔らかなフォルムや緻密なシルバーワークにより、女性にフィットする印象も有し、多くのスタイルに溶け込む素朴でタイムレスな魅力も備えたアンティークジュエリーです。
GARDEN OF THE GODS TRADING POST/ガーデンオブザゴッズトレーディングポストの個体は、ツーリストジュエリーとして作られた作品ながらアンティーク工芸品としても評価されていますが、中でも本作の様なスペシャリティを持った個体はヒストリックであり、ミュージアムクオリティを誇る作品の一つとなります。
◆着用サンプル画像(10枚)はこちら◆
コンディションも非常に良好で、僅かなキズやハンドメイド作品特有の制作上のムラ等は見られますが、未使用かと思われるとても良好な状態を保っています。