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【NAVAJO】ナバホのアンティークジュエリー、トライアングルワイヤー(竜骨型)をベースとしてフロント部分をフラットに成形し、そこに3つのターコイズをマウントした立体的でエッジーな印象の作品。サイド~ターミナル(両端)にかけては、『ファイルワーク』と呼ばれるヤスリによって削る技術を駆使し、非常に美しいバースト(放射状)デザインが刻み込まれたアンティーク/ビンテージバングルです。
本作にはホールマーク(作者やショップのサイン)が無く、作者や正確な背景を考察可能なスタンプ(鏨)ツール等のディテールもない為、作者や背景を明確に判断する事ができませんが、当時のカタログ資料や発見されているアーカイブからは、当時サンタフェに在った【SOUTHWEST ARTS&CRAFTS】=【Julius Gan's Southwestern Arts and Crafts】ユリウス・ガンズサウスウエスタンアーツアンドクラフツ(以下ガンズクラフト社)で制作された可能性が非常に高い事が判断できる作品。さらに、その作風や完成度からは、当時同店に作品を供給していた【Cochiti】コチティの大巨匠【Joe H. Quintana】ジョー・キンタナ(1915-1991)の作品が強く想起される高い完成度を有し、高い史料価値を誇るピースとなっています。
インゴットシルバー(銀塊)から成形された硬く重厚なトライアングルワイヤーをバンドに構成し、フェイスとなる部分をハンマーワークによってフラットに仕上げています。
そこに3つのオーバルカットターコイズが羅列されることで『ローワーク』と呼ばれる造形スタイルに仕上げられたブレスレットです。また、その石の間や左右には小さなシルバーボールが配されることで、連続性と立体的なトライアングルワイヤーと馴染むフォルムが与えられています。
さらにバンドのサイド~ターミナルには、深くエッジーな造作により上下左右対称にバースト(放射状)デザインが築かれ、それは本作を作り上げたシルバースミスの技巧の証であり、ターコイズを凌ぐ存在感を示しているように感じられます。
マウントされた3つの石は、年代に不相応な程に経年を感じさせないコンディションを保つターコイズです。後年にスワップ(交換)されている可能性もありますが、ベゼルに全くダメージや摩耗が見られない為、その可能性は低いと考えています。
本作の様にトライアングルワイヤーをベースに石をマウントしたブレスレットは、1920年代以前の作品でも見られ現在も制作されているトラディショナルな造形スタイルですが、1950年代~1990年代頃までの作品には、あまり発見できない希少な造形となっています。おそらく、制作上でサイズをコントロールする事が難しい為かと思われますが、その明確な理由は不明です。
本作については「UITA21」の刻印が刻まれた酷似品が発見されている事により、ガンズクラフト社の為に作られた事が推測されます。また、それにより1940年代~1960年代初頭頃までに作られたピースと考察可能となっています。
【Julius Gan's Southwestern Arts and Crafts】(以下SWAC)は、もともとは法律家だった【JULIUS GANS 】ユリウス・ガンズによって1915年、サンタフェプラザに小さなインディアンアート/アンティークショップとして創業し、その後、サンタフェでも最大級の店に成長していきます。1927年ごろからは独自にナバホ・プエブロのインディアンシルバースミスを雇い入れ、店頭にてその作業を見せるスタイルで運営されていました。 雇われていたアーティストは、非常に豪華で、その後有名作家として名を馳せる人物が多いのも特徴と言えます。 それは、【Ambrose Roanhorse】アンブローズ・ローアンホース、【David Taliman】デビッド・タリマン、【Mark Chee】マーク・チー、そして前述の【Joe H. Quintana】ジョー・キンタナ等、非常に優秀で後世にも多大な影響を与えた作家たちが所属していました。
そのため、当時からSWACの作品は大変評価が高くトラディッショナルなスタイルを守りながらも独自性のある作品も多く作られました。しかし、その歴史は平坦でなかったようです。
SWACでは、現在フレッド・ハービースタイルと呼ばれるBELLやMaisel's等のメーカーとは異なり、一人の作家がすべての工程を担い、材料の加工から仕上げまでを行っていましたが、いち早く既製のシルバーシート/ゲージ(銀板)材料の導入を行いました。そのため、政府(米国公正取引委員会)の介入を受けることになり、Maisel's等と同様に扱われることになってしまいます。そして1930年代中頃には、国立公園内での販売が出来なくなってしまいました。
そこで、復権のために導入されたのが『S』の刻印を持つ【Slug Silver】です。 Slug Silverは、それまでのインゴットに比べると小さなコインシルバーの塊で、大きく扱いにくいインゴットよりも効率がよく、少し制作しやすかったようです。前述の【Joe H. Quintana】ジョー・キンタナもSWCA在籍時にはこの『S』の刻印を使用していたと証言しています。
現在、【Fred Harvey Style】は明確な定義がなく、Fred Harvey Companyもレストランやホテル等の観光施設経営でだけでなく、もともとはインディアンアートトレーダーとしての側面を持っていました。 そのため、こちらのSWACやSeligman's、GARDEN OF THE GODS TRADING POST等も旅行者に向けた「スーベニアビジネス」・「ツーリストジュエリー」と言う意味では量産化した工房のBELLやMaisel'sと同様です。
ただし、現代において多くのフレッド・ハービースタイルと呼ばれる作品の多くが、Arrow NoveltyやBELL、Maisel's、Silver Arrowの分業化や量産化を推し進めたメーカーのピースであることを踏まえると、こちらの様に全行程を一人の作家が担当し、ベンチメイドによりすべて手作業で仕上げられている作品はフレッド・ハービースタイルの作品群(マスプロ)とは一線を画しています。
また、もう一つのSWACの特徴としては半数以上の職人が在宅で仕事をし、定期的に作品を収めるスタイルをとっていたことです。そのため、SWACが供給する独特のコマーシャルスタンプ(量産化された鏨)も使用しながら、上質なターコイズや安定した質のコインシルバー(Slug Silver)も供給されたことで、それぞれがハイクオリティーで個性的な作品を残すことになったようです。
さらに、現代においてもチマヨ織物を用いたジャケット等で知名度を持つ【Ganscraft】ガンズクラフト社と同じカンパニーであり、パースと呼ばれるチマヨ織のポーチを最初に制作・販売した工房としても有名です。現在では日本の老舗アパレルである東洋エンタープライズ社が実名復刻をされておられます。
【Ingot Silver】インゴットシルバー(銀塊)からの成形は、アンティークインディアンジュエリーにおいて非常に重要なファクターですが、銀含有率/品位などの素材とは関係なく、ジュエリーの製法技術を表します。
現在制作されている作品の多くは、材料として市販されているシルバープレート(銀板/ゲージ)を加工することでジュエリーとして成形されていますが、インゴットから成形する製法では一度溶かしたシルバーを、鍛冶仕事に近い方法であるハンマーやローラーで圧力をかけて伸ばすことでジュエリーとして成形していきます。最終的にはどちらもプレートやワイヤーの形態になるため、大きな差は無いように思われますが、インゴットから成形されたシルバーの肌は、硬くなめらかで鈍い光を持っています。それにより生み出されるプリミティブで武骨な作品の表情は、やはりアンティークインディアンジュエリーの大きな魅力です。
また、1930年代にはシルバープレートが登場しますが、当時シルバープレートを用いて制作されたジュエリーは政府によりインディアンクラフトとして認定されず、グランドキャニオンなどの国立公園内で販売できなくなった記録も残っています。
本作も古い製法を守り、古典期から続く伝統を継承する作品でありながら、クリーンでエッジーなデザインや完成度の高いシルバーワークにより、独創性とジュエリーとしての上質感も与えられています。
また、程よい幅となじみの良い質感は重ね付けにも向いたバングルですが、こちらの様な太さのトライアングルワイヤーは単独でもしっかりとした存在感を放ちます。さらに、エッジーで厳かな印象もあり、多くのスタイルに馴染んでくれるバングル。重厚で繊細なシルバーワークと、無駄のない造形美は長年にわたってご愛用いただけるハイエンドな作品です。
また、インディアンジュエリー史の中でも重要な役割を担【Julius Gan's Southwestern Arts and Crafts】ユリウス・ガンズサウスウエスタンアーツアンドクラフツ、さらには新しいデザインや技術を多く生み出したパイオニアでもある巨匠【Joe H. Quintana】ジョー・キンタナを想起させる質と造形により、当時の作品群の歴史を紐解く上で史料価値の高いコレクタブルなアンティークジュエリーとなっています。
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コンディションも大変良好です。シルバーの僅かなクスミやハンドメイド独特の制作上のムラは見られますが、全くダメージの無い非常に良い状態を保っています。
ターコイズも中央の石に僅かな色味の違いが確認できますが、変色によるものかは不明となっており、使用感を感じさせないコンディションとなっています。