【ZUNI】ズニの偉大な作家【Juan De Dios】ファン・デ・ディオス(1882~190??)の作品で、センターにダイヤモンドシェイプ/菱形にカットされた美しいターコイズがセットされ、その両サイドにはカウヘッドのアップリケが施されたアンティーク/ビンテージバングルです。
ホールマークが入らない作品ですが、こちらの特徴的なデザイン/造形やそのディテール、スタンプ(鏨)等から、同作者の作品であることが判断でき、その作品の独自性や後世の作家に与えた影響力、現存数の少なさによって、非常に史料価値の高いミュージアムクオリティーのピースになります。
また、1975年に長い歴史を持ちズニの作家たちを支え続けた【C. G. Wallace Trading Post】C.G.ウォレス トレーディングポストの経営者である【Charles Garrett Wallace】チャールズ・ガレット・ウォレス(1898-1993) が、その個人コレクションの約半数をアリゾナ州フェニックスのバードミュージアムに寄贈し、残りの一部をSotheby Parke Bernet社のオークションに出品しました。その時のオークションカタログは現在でも多くの研究者やコレクターにとっての第一級の資料となっており、その中のLot.1123(P188)が1927年のJuan Dideos/Juan De Diosの作品として掲載されており、こちらのピースに酷似したカウヘッドのディテールを見ることができます。
Juan De Diosはズニにおいて記録が残る作家として最初期の一人と言われ、1910年代以前から活躍した作家ですが、こちらの作品はおそらくブルーダイヤモンドターコイズがセットされており、その産出時期から1930年代以降の作品と思われます。
インゴットシルバー(銀塊)から成形されたバンド/地金は非常に硬く重厚で、フロントが2本に割り開かれた『スプリットバンド』と呼ばれるトラディショナルなスタイルに造形されています。それによってセンターに幅とボリュームを持たせており、センターには大きくカットされたターコイズがセットされています。そして、そのベゼルにはとても細かなコンチョが精密に並べられた繊細なシルバーワークで構成されています。そして、石の両サイドにはキャストで成形され、目の部分にターコイズがインレイされた特徴的なカウヘッドのアップリケが配されています。このような少し可愛いカウヘッド/ステアヘッド(牛)のデザインは、同作者や、同じくズニの巨匠【Leekya Deyuse】(1889-1966)のフェティッシュ(ストーンカービング/彫刻)においてみられる独特なデザイン/造形です。その正確な発祥は不明ですが、おそらくJuan De DiosかLeekya Deyuseと推測されています。
サイドからターミナル(両端)にかけては徐々に細くなるように成形され、力強く素朴なスタンプワークが施されています。ナバホジュエリーの伝統的な造形スタイルを踏襲しながらも、アニマルモチーフやスタンプ(鏨)のデザインによってアンティークのナバホジュエリーにはあまり見られない有機的な印象を持っています。
また、インゴットシルバーから成形した硬くなめらかなシルバーの肌と、質の高いターコイズによって特別な上質感が生み出されており、非常に高い完成度を誇るバングルに仕上げられています。
セットされたターコイズは、古い作品の為、断定することがができませんが前述のように【Blue Diamond Turquoise】ブルーダイヤモンドターコイズと思われ、澄んだ水色をベースに独特のマーブル状のウェブや黒いチャートのマトリックスが入ります。とても複雑な景色を形成する独特な表情が印象的で、同鉱山の中でもジェムクオリティーを持った石です。
類似した特徴を持つ鉱山としては、【Zuni Turquoise】や【Carlin Turquoise】【Carico Lake Turquoise】【Tyrone Turquoise】等があります。
【Blue Diamond Turquoise】ブルーダイヤモンドターコイズは、ネバダ州オースティンの南にあり、1950年代~1980年頃に多く流通した鉱山ですが、1925年には石膏/セメントの鉱山として採掘が開始されており、1940年代にはターコイズの流通が始まっていたようです。知名度は大変高い鉱山ですが産出量はとても少ない石です。
硬度が高く、緑味のない薄い青色から濃い青色の塊状の原石が産出し、鮮やかなブルーにインクを落としたようなマーブル柄の模様が特徴で、美しい青にくっきりとした黒が美しいターコイズです。
【Juan De Dios】(Juan Dedios、Kwan Antonio、Juan Anthony)ファン・デ・ディオスは、1882年にニューメキシコ州ズニプエブロに生まれ、「作家」として活動した最初期のシルバースミスの一人とされています。ただし、その経歴ははっきりとしていない部分が多く、正確な氏名さえも明確ではなく、ファミリーネームは、DediosやDideos、Deleosaなど文献や資料によって様々なスペルで紹介されてきました。前述のオークションカタログでは、Juan Dediosと記載されています。1928年の国勢調査において、初めてその名前が「Juan De Dios」と記載されているのが確認されました。
トレーダーである【John D Kennedy】ジョン・D・ケネディの著書『A Good Trade』によれば、Juan De Diosは病によって身体的なハンディキャップを背負い、ワークベンチで多くの時間を過ごすことになったと回想されています。また、1937年に姪である【Ruth Simplicio】とその夫【Frank Calavaza】と同居するまで一人暮らしをしていたようです。
1940年の国勢調査の時点ではまだズニプエブロでシルバースミスとして働いていた記録が残っており、1944年までは活動していたとされていますが、その後いつ亡くなったかは定かではありません。
C. G. Wallaceの証言によれば、1918年の時点でズニの優秀なシルバースミスとして五指に入ったとされ、1939年にはギャラップのアートアワードでブルーリボンを受賞しています。また、ズニプエブロにおける複数のトレーダーに作品を供給していたようで、同時期に活躍したLeekya Deyuseや【Horace Iule (Aiuli)】ホレス・イウレ(1899~1901?-1978)等とはお互いに影響を受けあっていたことが推測されます。
そして、甥にはこちらも巨匠である作家【Dan Simplicio】ダン・シンプリシオ(1917-1969)を持ち、シルバーワークを教えていたようです。
またJuan De Diosは、ズニのシルバースミスの中でも最も古くからホールマークを使用した作家であり、1920年代初頭から自身のイニシャルである『JD』の刻印を用いています。1930年代末~1940年代初頭の一時期にC. G. Wallace Trading Postに供給した作品群ではアメリカ政府によるシルバースミスプログラムである【Indian Arts & Crafts Board】(IACB)のホールマーク『ZUNI 1』の刻印を使用していたようです。
そのシルバーワークは、トラディショナルな技術をベースとしていますが、非常に豊富な知識や技術を持っていたとされ、残されている作品のスタイルも多岐にわたりますが、中でもブレスレットやコンチョベルト、ナイフウイングをモチーフとしたピンが有名です。また、ミッドセンチュリー以降のズニジュエリーでは見られなくなったキャスト(鋳物)の技術も習得しており、自身の得意なスタイルとしてオリジナリティーも確立しました。
【Ingot Silver】インゴットシルバー(銀塊)からの成形は、アンティークインディアンジュエリーにおいて非常に重要なファクターですが、銀含有率/品位などの素材とは関係なく、ジュエリーの製法技術を表します。
現在制作されている作品の多くは、材料として市販されているシルバープレート(銀板/ゲージ)を加工することでジュエリーとして成形されていますが、インゴットから成形する製法では一度溶かしたシルバーを、鍛冶仕事に近い方法であるハンマーやローラーで叩き伸ばすことでジュエリーとして成形していきます。最終的にはどちらもプレートやバーの形態になるため、大きな差は無いように思われますが、インゴットから成形されたシルバーの肌は、硬くなめらかで鈍い光を持っています。それにより生み出されるプリミティブで武骨な作品の表情は、やはりアンティークインディアンジュエリーの大きな魅力です。
また、1930年代にはシルバープレートが登場しますが、当時シルバープレートを用いて制作されたジュエリーは政府によりインディアンクラフトとして認定されず、グランドキャニオンなどの国立公園内で販売できなくなった記録も残っています。
こちらの作品もインゴットシルバー特有の質感を持ったバンドがベースとなっており、Juan De Diosの独自性とデザインセンスを強く感じさせる貴重な作品です。
ワイドな幅とターコイズのボリューム感によって強い存在感を持っていますが、カウヘッドの可愛い表情やビンテージジュエリーの醸し出す味わいによって手首に馴染みやすいナチュラル印象を持ったバングル。クオリティーが高く美しいターコイズもスタイルの効果的なアクセントとになると思われます。
Juan De Dios作品の中でも秀逸な造形を持った貴重なオリジナルピースであり、その独創性とアンティークながら完成されたシルバーワークは、アートピースとしても高く評価される作品です。
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全体に多少のクスミや摩耗等が見られ、ターコイズに極僅かな動きがありますが、着用にあたって不安のあるダメージはなく良好なコンディションを保っています。
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