【Kewa】キワ/【Santo Domingo】サントドミンゴの巨匠【Vidal Aragon】 ビダル・アラゴン(1923-2014)の作品で、同作者が生み出した造形スタイルである『ストーリーテラー』と呼ばれる造形のオールド/ビンテージバングル。本作も同作者による同スタイルの作品の中でも特に優れた完成度とデザインを誇る個体です。
大胆なカッティングワークにより、繊細なデザインが表現されたアーティーな作品であり、キワの伝承や自然の営みを物語として紡ぎだすオーバーレイには、ハンドメイドの温もりと共にパイオニアである作者ならではの洗練された完成度を感じさせます。
1980年代~2000年代初頭頃のピースと思われ、オーバーレイ技法をメインにVidal Aragonを代表する『ストーリーテラー』のデザインが築かれていますが、サイド~ターミナル(両端)に施されたスタンプワークや、様々な技術を駆使する事で生み出したブレスレット全体のシルバーワークも素晴らしい作品です。
描き出されているストーリは、シルバーに下書きをせずにスケッチをそのままフリーハンドで切り出していく独自の手法を用いている為、ホピジュエリーとは違った味わいを持っており、細かなカッティングワークは繊細で自由、そして卓越したシルバーワークによって作り上げられ、作品に素晴らしい奥行きと他に類を見ない柔らかな質感をもたらしているようです。
本作もVidal Aragonらしい優しいタッチでストーリーが描き出されており、昼夜の2タイプが存在する同作者のストーリーテラースタイルですが、こちらのように月が存在する物語は夜を舞台にしています。
アドビ建築のプエブロの住居がメインに描き出され、雲の切れ間からは美しい月が見えます。そのデザインされた景色からは夜の静寂や豊かな人の営みさえ感じられ、細かく観察すると不思議な感覚を覚えます。
手のひらに収まるサイズのブレスレットの中に壮大なサントドミンゴの生活や歴史が描かれ、神秘的で幻想的な世界が広がり、どこか懐かしさも覚える「物語」が描かれています。
さらにそれは作者の価値観や人生観を語り、見るものにそれらの文化や思想を訴えかけてくるようです。
また、全てのオーバーレイのカッティングが切れ目なく一繋ぎとなっているのは
『全ての事象は繋がっている、まるで人生のように』 という意味が込められています。
前述のように月の部分にはゴールドが施され、細かくスタンプを刻む事でとても描写的で立体感のある月が描かれており、ゴールドのカラーも効果的でさり気なくも良いアクセントとなっています。
このような一部にゴールドを用いた表現もVidal Aragonの作品では多く見られるディテールの一つです。さらに、雲の質感を表す細かなテクスチャーにはスタンプワークが駆使され、それらの描写的な表現も世界を広げる助けになっているようです。
土台となっているシルバーワークも非常に卓越した技巧によって形作られており、『Chasing/チェイシング』と呼ばれる鏨を使いシルバーに立体的な角度を付ける(彫刻の様なイメージ)技術、さらに『ファイルワーク』というヤスリで削る原始的な技法を駆使することで、オーバーレイで表現された上下に立体的な凹凸のボーダーラインが形成されています。
特に上下のエッジ部分に作られたライン状の凹凸は、ハーフラウンドワイヤーを張り付けたかのような美しい曲面に造形されており、作者の素晴らしい技術力を垣間見ることが出来ます。
その下の凸ライン上には素朴なスタンプワークが連続して刻まれ、古典期のナバホジュエリーを踏襲したディテールが施されています。
またターミナル部分にも、上記の様な細部まで拘ったシルバーワークが施されており、細部まで行き届いた意識とシルバースミスとしての強い拘りが感じられます。
さらに厚いバンド(地金)全体に、ハンマーワークによる柔らかなドーム状のアールが施されています。この柔らかな曲面は目立たないディテールですが、さり気なくも効果的に上質感や立体的な迫力を与えています。
これは、木(丸太)やレッド(鉛の塊)に施された凹みに、地金となるシルバーをハンマーで叩き沿わせることによってドーム状の膨らみを作り上げており、非常に細かく何度もタガネで叩き沿わせる高度なハンマーワークで成形されています。
【Vidal Aragon】 ビダル・アラゴンは、1923年に【Kewa】キワ/【Santo Domingo】サントドミンゴに生まれ、1930年代にはサンタフェインディアンスクールで彫金を学びました。
それは、オーバーレイ技法のみでなく、トゥーファキャストをはじめとするナバホのオールドスタイルを含み、多岐にわたるジュエリー制作の技術を身に付けました。
その後、現在でも有名ギャラリーがひしめく街であるアリゾナ州スコッツデールでキャリアを積み重ね、1941年にはニューヨーク近代美術館でその作品群が紹介されています。
また、その頃にはすでに古典技術を駆使して新しくモダンなジュエリーを生み出すアーティストとして、ナバホの巨匠【Ambrose Roanhorse】アンブローズ・ローアンホース(1904-1982)や【Tom Burnsides】トム・バーンサイドと並び称される程の評価と知名度を得ていたようです。
そして、キャリア初期にはナバホの伝統的な技術を用いて制作するジュエリーにプエブロの独特な感性やモチーフを取り入れた作品を制作していましたが、その当時にはすでに同作者が第一人者である『Storyteller/ストーリーテラー』のスタイルも確立されようとしていました。
この全く新しい価値観と楽しく素朴な表情を持った作品群は、Vidal Aragonを世界的に有名なアーティストに押し上げます。
後進の作家にも大きな影響力を持った作家であり、甥である【Ed Wayne Aragon】エド・ウェイン・アラゴン等の作家がその技術やスタイルを受け継いでおり、ストーリーテラーという同作者の造形スタイルはインディアンジュエリーの一つのジャンルとして確立され、現在も多くのシルバースミスが制作しています。
【Storyteller】ストーリーテラーは、本作の作者であるVidal Aragonが生み出した造形スタイルであり、図案や紋様を用いてインディアン達の豊かな生活や歴史、その伝統を物語として伝えるジュエリーです。
それは、元々文字を持たず、口伝によって知識や伝統を後世に伝えてきたインディアンの知恵とも考えられ、コチティのポッテリーで作られたストーリーテラードール(こちらは物語を表現する人形ではなく、語り手をモチーフとした人形)などもインディアンアートとしてとても高い知名度を誇っています。
Vidal Aragonの作品では、同氏が長く暮らしたニューメキシコ州サンタフェの北に位置するサントドミンゴプエブロの自然に密着し、素朴で豊かな生活をオーバーレイ技法やスタンプワークによってジュエリーに落としこんでいます。
【Overlay】オーバーレイと言う技法は、シルバーの板に描いたデザインを切り抜き、下地のシルバーの上に貼り付けることで立体的に絵柄を浮き出させる技法です。
本作の様にスタンプワークと組み合わされた作品も見られ、完成度を高められたオーバーレイ技法を用いた美しいホピのジュエリーは、現代に至るまでに多くの傑作を残しています。
1930年代にホピの大家【Paul Saufkie】ポール・スフキー(1904-1998)によって生み出された技術ですが、その黎明期にはホピ以外のナバホ・プエブロのシルバースミスにも新しい表現方法として色々な作品が作られていました。
1940年代~1950年代にかけて【Harry Sakyesva】ハリー・サキイェスヴァ(1922-1969?)や同い年の作家【Allen Pooyouma】アレン・プーユウマ(1922-2014)、そして【Victor Coochwytewa】ヴィクター・クーチュワイテワ(1922-2011)等により、ホピの代表的なスタイルの一つとして定着させられました。
オーバーレイ技術の定着以前にも、オーバーレイと近い造形を生み出すような大きく大胆で細かな刻みを持たないスタンプ(鏨)がホピの作家によって制作されていました。
しかし、スタンプ(刻印)というデザインやサイズが固定されてしまう技術から解放し、もっと自由な図案を具現化できる技術・技法として生み出されたのではないかと考えられます。
本作では、ナバホジュエリーの伝統的な技術とディテールを取り込みながらもプエブロらしいナチュラルでアーシーな表情とどこか可愛げな印象を持ち、作者の特別なオリジナリティが宿る作品。
それはVidal Aragonが、こちらの様なスタイルのパイオニアであり、突出した独自性と造形センス、さらにそれらをバックアップする確かな技術を有していた事によるものと思われます。
現在多く作られているオーバーレイジュエリーとは少し異なった表情を持ちながらも普遍的な造形美とジュエリーとしての完成度を有し、性別を問わず多くのスタイルにおいて素晴らしいアクセントになり得る高い汎用性を持っています。
アーシーなリラックス感とジュエリーとしての気品を兼ね備えた稀有な作品であり、さり気なくも日常のコーディネイトに違いをもたらしてくれるアイテムです。
さらに、アートピースとしても素晴らしい存在感と価値を有するジュエリーであり、ウエラブルアートとして着用者に特別な高揚感を与える力のあるブレスレットとなっています。
世界的に高い評価を得ている偉大なアーティスト【Vidal Aragon】 ビダル・アラゴン作品の中でも素晴らしい完成度を誇るブレスレットであり、非常にコレクタブルで貴重な作品です。
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コンディションも非常に良好です。
全体に僅かなクスミ等は見られ、ハンドメイド特有のムラはありますが、殆ど使用感を感じない大変良い状態を保っています。
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