【Hopi】ホピのビンテージジュエリー、中でもオーバーレイを用いた初期作品で、内側に刻印されているのホールマーク(作者やショップ等を表すサイン)により、【Hopi SilverCraft Guild】ホピシルバークラフトギルドのメンバーによる作品であることが判るピース。オーバーレイ技法黎明期の作品らしく、シンプルに幾何学模様が構成されたアンティーク/ビンテージバングルです。
また本作には、Hopi Silvercraft Guild通称「ホピギルド」を表すホールマークである『Sunface』と共に、作者個人のホールマークと思われる小鳥の様なスタンプが刻印されています。同様のホールマークが刻印された作品はいくつか確認されていますが、残念ながら現時点では作者が特定できていないホールマークとなっています。
その造形スタイルやシルバーワークのディテール等からは、ホピジュエリーの伝統を形成する上で、非常に重要な役割を担った『GI Bill/GI法』(復員軍人援護法による退役軍人向け教育支援)のクラスの卒業生と推測され、1940年代末頃以前からシルバージュエリーを制作していたシルバースミスであることが判断できます。
1950年代頃に作られた作品と思われ、とても心地よい重量感を持ったバングルです。現代のオーバーレイ作品に比べ、厚いシルバープレートをカッティングし、逆に少し薄いシルバープレートをベースにとした、古いホピ族のオーバーレイ作品独特の特徴を持ち、その厚いシルバーにより深く強い陰影が生み出されています。また、下地のシルバーにはテクスチャー(スタンプやエングレイビングによる表面加工)が見られず、オーバーレイ技法が用いられた初期作品であり、1960年代以前に作られた事が判断できます。
またその文様のカッティングは、細かなデザインを構成するものではありませんが、自然の営みを図案化であろうシンプルなデザインが深く簡潔に切り取られる事で、しっかりとした存在感と立体的な奥行きが与えられています。
本作が制作された年代では、まだオーバーレイ技法がホピジュエリーの代表的な技術として確立されておらず、ホピ族以外のシルバースミスの中にも好んで採用した作家が存在しました。
ナバホの巨匠【Kenneth Begay】ケネス・ビゲイ(1913?-1977)や、同じくナバホの【Tom Bahe】トム・バヘィ/バヒィ(1924-2009)等の作品にも多くのオーバーレイジュエリーを制作しました。特に、コチティの巨匠【Joe H. Quintana】ジョー・キンタナ(1915-1991)の作品には、本作と非常に類似したシンプルな幾何学模様が彫りの深いオーバーレイによって描き出されたシンプルでクリーンなブレスレットが残されています。
【Overlay】オーバーレイと言う技法は、シルバーの板に描いたデザインを切り抜き、下地のシルバーの上に貼り付けることで立体的に絵柄を浮き出させる技法です。スタンプワークやカッティングと組み合わされた作品も見られ、完成度を高められたオーバーレイ技法を用いた美しいホピのジュエリーは、現代に至るまでに多くの傑作を残しています。
1930年代に本作の作者の父親であるホピの【Paul Saufkie】ポール・スフキー(1904-1998)によって生み出された技術で、40年代~50年代に【Harry Sakyesva】ハリー・サキイェスヴァ(1922-1969?)や【Allen Pooyouma】アレン・プーユウマ(1922-2014)、【Victor Coochwytewa】ヴィクター・クーチュワイテワ(1922-2011)、そしてこちらの作者であるLawrence Saufkie等により、ホピの代表的なスタイルの一つとして定着させられました。
オーバーレイ技術の定着以前にも、オーバーレイと近い造形を生み出すような大きく大胆で細かな刻みを持たないスタンプ(鏨)がホピの作家によって制作されていました。しかし、スタンプ(刻印)というデザインやサイズが固定されてしまう技術から解放し、もっと自由な図案を具現化できる技術・技法として生み出されたのではないかと考えられます。
【Hopi SilverCraft Guild】【Hopi Silvercraft Cooperative Guild】)※以下ホピギルドは、1949年に発足したホピ族の職人により組織され、創設メンバーには当時すでにオーバーレイと云う新しいスタイルを確立し成功をおさめていた【Paul Saufkie】ポール・スフキー、そして絵画でも多くの傑作を残したアーティスト【Fred Kabotie】フレッド・カボティ(1900-1986)がおり、彼らが彫金クラスを開設することで、非常に多くのホピシルバースミスを育てました。現在、巨匠として知られるホピのアーティストも若いころには、そのほとんどがホピギルドに所属していたと言えます。そして、前述の創設メンバー二人の精力的なエキジビジョンやプロモーション活動により、オーバーレイと言う技術をホピの特徴的な技術・スタイルとして確立しました。
ホピギルドでは、ナバホギルドとは違い個人のホールマークも初期から認められており、その多くはこちらの作品の様にギルドのスタンプと共に個人のホールマークが刻まれています。また、ナバホギルド以上に後進の教育・育成に力を注いだようです。それは、ジュエリー以外の絵画や織物、彫刻等多くのアーティストを支援し、1970年代にはFred Kabotieの息子である【Michael Kabotie】マイケル・カボティー(1942-2009)の成功にも繋がっていきました。
本作の作者もオーバーレイ技術を育み、後世に伝えた人物と推測され、古い作品ですがすでに高い完成度を誇り、現代においてもモダンでクリーンなブレスレットとなっています。
ホピの人々は基本的に農耕民族であり、どこか優し気で日本人にも共通する美意識を感じさせます。また、それらの多くはやはり日本でも伝統的に受け継がれている『自然』をモチーフに図案化されたデザインであり、それらは構築的な印象も与えますが、ナチュラルでアーシーな表情を持ち多くのアイテムに馴染みやすく性別やスタイルを問わずお使いいただけると思われます。
また本作は、どこかグラフィカルな印象も持ち、ハンドメイドの柔らかな表情と共に、ジュエリーとして品位も有する作品となっています。
オーバーレイ技術黎明期でありながらすでに高い完成度を誇り、初期オーバーレイジュエリー特有のクオリティーと味わいを感じることが出来る作品。大変コレクタブルでトレジャーハントプライスなピースの一つとなっています。
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コンディションはシルバーに多少のクスミや小キズ、制作上のムラは見られますが、特にダメージのないとても良好なコンディションです。