【Cochiti】コチティの大巨匠【Joe H. Quintana】ジョー・キンタナ(1915-1991)の作品。インゴットシルバー(銀塊)から成形され、ずっしりとした重みのあるハーフラウンドワイヤーにファイルワークによる深く強い文様を刻み込んだ作品。センターには美しいジェムクオリティターコイズがマウントされ、古い作品ながらミニマムで洗練された美しさを持ったアンティーク/ビンテージバングルです。
1960年代頃に作られたと思われる作品。不確かな情報ではありますが、サイドの内側に刻印された『JHQ』ホールマーク(作者のサイン)の書体や【H】の幅が細い字体は1950年代~1960年代に作られた作品とされています。
このようなインゴットから成形されたハーフラウンドワイヤー等のバンドをベースに、ライン模様だけでデザインを構成した作品は、アリゾナ州のニューメキシコ州境に近い位置で運営されていた【Pine Springs Trading Post】パインスプリングストレーディングポストで多く制作されていた記録が残っています。またそれらは、ナバホの【Ambrose Roanhorse】アンブローズ・ローアンホース(1904-1982)が中心になって運営されていた『U.S.NAVAJO』【Indian Arts & Crafts Board】(IACB)や『Navajo Guild』【The Navajo Arts & Crafts Guild】(NACG)等と関係するプロジェクトの影響を受けた作品群であったようです。
こちらはインゴットシルバーを元にして、ハンマーワークとローラーで伸ばして成形したハーフラウンドワイヤーをベースとした作品です。細い幅でありながら重さが約50g以上もある大変重厚な作品で、高い圧力によって成形されたシルバーの質感はとても硬くなめらかに仕上げられています。 そのフロントからサイドにかけては、ファイルワークと呼ばれるヤスリによって削る技術を駆使し、左右非対称に同じデザインが刻み込まれており、ベースとなっているハーフラウンドワイヤー上下のエッジに至るまで、深く立体的な刻み模様が形成されています。また、それらの装飾が簡素ながらとても効果的に強いコントラストと、動きのある表情が与えているようです。
また、これらのシルバーワークはどれもプリミティブで伝統的な技術となっていますが、その仕上がりは不思議なほどにモダンで現代的な印象となっています。
マウントされたターコイズは、澄んだ水色を基調とし、複雑な表情を生み出すグラデーション、ワイルドなマトリックスが入る上質なジェムクオリティターコイズです。さらに一部には強いチャートの入る石で、鉱山を正確に特定することはできませんが【Stormy Mt. Turquoise】ストーミーマウンテンターコイズや【Godber/Burnham Turquoise】カドバー/バーナムターコイズ、【Calico Lake Turquoise】キャリコレイクターコイズ等に類似した特徴の石が見られます。 宝石としての存在感と煌めきを感じさせる無添加ナチュラルターコイズであり、モダンで洗練されたデザインに、アーシーな表情と深遠な奥行きを与えているようです。
【Joe H. Quintana】(Jose Higineo Quintana)の功績はこちらで語りつくせるものではありませんが、多くの賞を獲得しただけでなく、革新的な造形を生み出し、技術的にも頂点に達したインディアンジュエリーにおける最高のシルバー・スミスの一人です。 現在、トップアーティストとして活躍する作家【Cippy CrazyHorse】シピー・クレイジーホースの師であり、父親としても有名です。
1915年、Cochiti Puebloに生まれ、1932年頃からシルバースミスのキャリアをスタートさせたようです。1930年代後半頃には、【Julius Gan's Southwestern Arts and Crafts】(ユリウス・ガンズ サウスウエスト アーツアンドクラフト)に所属し、シルバースミスの一人としてジュエリーの制作に従事しました。Southwestern Arts and Craftsには、【Ambrose Roanhorse】アンブローズ・ローアンホース、【David Taliman】デビッド・タリマン、【Mark Chee】マーク・チーも在籍していた記録が残っており、優秀でクリエイティブな作家を生み育てるバックアップや技術の継承があったと推測されます。
第二次世界大戦中は造船の仕事に従事し、ブラック・スミス(金属(鉄)鍛冶)の技術を身に付け、戦後の1950年代頭頃にニューメキシコに戻り、ロスアラモスの【Turquoise Post】やアルバカーキに在った【Seligman's】、その他にもFrank Pataniaの経営する【Thunderbird Shop】やManny Goodmanの【Covered Wagon】等、多くのインディアンクラフトショップに所属していたと言われています。 その間、1960年代中頃までになんと22本ものアートショーにおけるアワード受賞リボンを獲得しました。
1960年代後半には、【Irma Bailey】の経営する【Irma's Indian Arts & Pawn】等のために作品を制作、70年代にIrma's Indian Arts & Pawnが閉店するとコチティ族の家に戻ってシルバースミスとして活動を継続しました。
長いキャリアの中で、特に影響を感じさせるのが【Frank Patania Sr】フランク・パタニアです。1927年にサンタフェに【Thunderbird Shop】をオープンし、自身もアーティストとして評価の高いイタリア人作家のFrank Patania Srは【Joe H. Quintana】だけでなく、【Julian Lovato】ジュリアン・ロバト(1925-)や、【Louis Lomay】ルイス・ロメイ(1914-1996)にも技術やその美意識を教授した人物として知られています。
彼らは共通して高い独自性とインディアンジュエリーの伝統的で素朴な強さを持ちながら、新しい価値観や実験的な造形を生み出し、品位を感じさせる作品を多く残しました。 それぞれに強い個性を持っていますが、どこか共通する美意識を感じるのも特徴です。
ジョー・キンタナの作品はシンプルで洗練されたクリーンなデザインが特徴で、唯一無二のクオリティーを誇るシルバービーズや伝統的でプリミティブな技術を駆使し、非常に完成されたエレガントな作品を生み出すことを得意としています。
石の選別にも素晴らしい物があります。またそのシルバーワークは多岐にわたり、銀食器や花器など様々な作品を残していますが、やはりジュエリーのクオリティーや美しさは特別なものです。
70年代頭に制作したコンチョベルトはDOORSの【Jim Morrison】が愛用したことでも有名になりました。
【Ingot Silver】インゴットシルバー(銀塊)からの成形は、アンティークインディアンジュエリーにおいて非常に重要なファクターですが、銀含有率/品位などの素材とは関係なく、ジュエリーの製法技術を表します。
現在制作されている作品の多くは、材料として市販されているシルバープレート(銀板/ゲージ)を加工することでジュエリーとして成形されていますが、インゴットから成形する製法では一度溶かしたシルバーを、鍛冶仕事に近い方法であるハンマーやローラーで叩き伸ばすことでジュエリーとして成形していきます。最終的にはどちらもプレートやバーの形態になるため、大きな差は無いように思われますが、インゴットから成形されたシルバーの肌は、硬くなめらかで鈍い光を持っています。それにより生み出されるプリミティブで武骨な作品の表情は、やはりアンティークインディアンジュエリーの大きな魅力です。
また、1930年代にはシルバープレートが登場しますが、当時シルバープレートを用いて制作されたジュエリーは政府によりインディアンクラフトとして認定されず、グランドキャニオンなどの国立公園内で販売できなくなった記録も残っています。
こちらの作品もインゴットシルバー(銀塊)から成形された地金は硬くなめらかな質感で、素晴らしい装着感を体感できるブレスレット。さらに、作者の突出した造形センスが与えられることで伝統工芸品/アートピースとしての美しさも感じさせる作品です。
また、上記の様な丁寧なシルバーワークによって、当時モダンスタイルと言われたクリーンな印象や上質感が与えられており、シンプルで普遍的な造形美はどんな装いにもフィットする高い汎用性を有しています。
控えめな幅は、他のバングルと重ね付けにも向いた作品ですが、厚みのある地金により単独でもしっかりとした存在感を持っており、長年にわたってご愛用いただける上質感のあるブレスレットとなっています。
作品が市場に出にくい作家の一人であり、特にこちらの様なシンプルで美しいバングルはアメリカ国内を含め、探してもほとんど見つからなくなっています。
Joe H. Quintanaという巨匠のアイデンティティーも感じ取れる作品であり、資料価値も高い作品です。
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コンディションは、全体に細かなキズやシルバーのクスミ、制作上のムラ等が見られますが、ターコイズを含め良好な状態を保っており、目立ったダメージはありません。
ターコイズのマトリックス部分に凹凸が見られますが、それらはカットされた時からの天然石が持つ特徴となっています。