【Ohkay Owingeh】オーケーオインゲ(San Juan Pueblo/サンホァンプエブロ)の巨匠【Mike Bird Romero】マイク・バード・ロメロ(1946-)の作品。インゴットシルバー(銀塊)から成形された重厚なハーフラウンドワイヤーをベースに、独特な文様を刻むスタンプワークによって構成された作品。プエブロジュエリーらしいミニマムでクリーンな印象を持つオールドバングルです。
同作者は、シルバースミスとして50年を超える大変長いキャリアを誇り、本作がいつ頃作られたものか正確に判断するのは困難ですが、おそらく1980年代~2000年頃までに作られた作品と推測されます。
シンプルな造形ながら独特の重厚感や上質感を感じさせるのは、ある程度キャストで成形したシルバーをハンマーやローラーによって造形していくことで、硬く滑らかなシルバーの肌が生み出されている為と思われます。そのようにして成形されたバンドは、半円形に近い柔らかな曲面を持つ断面となっており、その中央にライン状に独特な文様を刻むスタンプワークが施されています。そのスタンプ(鏨)は、Xの様な非常にシンプルなものとなっていますが、ナバホジュエリーの伝統にはない文様であり、プエブロのテキスタイルやポッテリー(焼物)から着想を得て制作されたスタンプツールと推測されます。
内側にはMike Bird Romeroのホールマークである愛らしい2羽の鳥が刻印されています。また、素材を表す刻印等はありませんが、作者の特徴からおそらくコインシルバー900と推測されます。
【Mike Bird Romero】マイク・バード・ロメロは、1946年にニューメキシコ州サンタフェから50㎞ほど北に位置するオーケーオインゲ(サンホァンプエブロ)に生まれ、芸術一家といえる家族のもとで育ちました。祖母である【Luteria Atencio】ルテリア・アテンシオは、非常に偉大な陶芸家であり、母親の【Lorencita Bird】ロレンシータ・バードは、有名なプエブロのテキスタイルアーティスであり教育者でした。
幼い頃から工芸・芸術に親しみ、中学校時代に基本的な彫金技術を学んだようですが、1965年~1969年までは米海兵隊に所属しており、シルバースミスとしてのキャリアをスタートさせたのは1960年代末頃です。独学によって多くの技術や歴史的な造形を学び、当時、同じオーケーオインゲに住み、隣人でもあった【Kewa】キワ(サントドミンゴ)の【Julian Lovato】ジュリアン・ロバト(1925-2018)や【NAVAJO】ナバホの【Mark Chee】マーク・チー(1914-1981)の仕事を近くで見ることで大きな影響を受けています。
また、夫婦で長年に渡ってナバホ・プエブロの源流である古代部族の遺跡等を調査し、ジュエリーのみならず芸術・工芸等、多くのアーティファクトを調査・研究する研究家としも活動しました。それらの研究とフィールドワークから、妻である【Allison Bird】アリソン・バードは、1992年に『HEART OF THE DRAGONFLY』を出版し、その編集過程で出会った数々の作品をリバイバルしたドラゴンフライモチーフのネックレスは、マイク・バード・ロメロを代表する作品群となっています。それらの作品は、そのデザインだけでなく製法や材料にも拘り、美しくもプリミティブでアーティな魅力を宿した作品群となっています。
近年は、プエブロらしいクリーンなシルバーワークに色々な石を大胆に配したブレスレットを中心に制作しており、確かな技術に独創性やアイデンティティを感じさせるジュエリーを生み出しています。
伝統を重視しながら卓越した技術を身に着け、古典作品を踏襲しながらも革新的で強いオリジナリティを有する作品を生み出しており、日本の伝統継承で云う『守・破・離』を体現する数少ない作家の一人。2014年には『Museum of Indian Arts & Culture (MIAC) Living Treasures』という非常に名誉ある称号を得ています。
【Coin Silver】コインシルバーとは、インディアンジュエリーにおいては銀含有率90.0%の地金を表します。 また、アメリカの古い硬貨における銀含有率は900ですが、日本では800~900や古い100円硬貨では600、メキシカンコインは950であり、900シルバーが最も多く使われていますが世界中で共通した純度ではありません。同じように【Sterling Silver】スターリングシルバー=【925シルバー】は、銀含有率92.5%の地金であり、『割金』と呼ばれる残り7.5%は、銅やアルミニウム等が含まれています。 (※現在のSterling Silverは、割金に銅のみを含んだシルバーを表しています。)
925シルバーは熱処理によって時効硬化性をもち、細かな細工や加工に向いていたため食器や宝飾品等様々な物に利用されていますが、インディアンジュエリーにおいては、その初期に身近にあった銀製品、特にシルバーコインを溶かすことで、材料を得ていた背景があるため、現代でも限られた作家によりコインシルバーを用いる伝統が残されています。
シルバーの色味や質感は、割金や製法に左右され、コインシルバー900とスターリングシルバー925の差異を見た目で判断するのは困難です。その差異は極僅かですが、コインシルバーは少し硬く、着用によってシルバー本来の肌が現れた時に、スターリングシルバーよりも深く沈んだ色味が感じられる事が多いと思います。
本作もコインシルバーをキャスト(おそらくトゥーファキャスト)によってバー形状に成形したインゴットシルバー(銀塊)から作られることで、とても心地よい重量感を持ったブレスレット。ハンドメイド独特の味わいや制作上のムラも見られますが、非常に丁寧に造形されることで、手首へのフィット感は素晴らしく、その絶妙な曲面による有機的な表情は、腕にとてもナチュラルに馴染みます。
また、非常にシンプルで洗練されたデザインは、クリーンでミニマムな印象を持ち、普遍的な造形美はどんな装いにもフィットし長くご愛用いただけると思われます。
洗練度の高い造形美とインディアンジュエリーの歴史をも感じさせる奥行きを持ったMike Bird Romeroの貴重な作品。アメリカ国内でも同作者の作品は高く評価されており、現代作家の作品ながら大変コレクタブルなピースとなっています。
◆着用サンプル画像(9枚)はこちら◆
コンディションは、シルバーの細かな傷やハンドメイド作品特有の制作上のムラ等は見られますが、特にダメージのない良好な状態となっています。