【NAVAJO】ナバホの偉大なシルバースミス兄弟の兄【Austin Wilson】オースティン・ウィルソン(1901-1976)、又は弟の【Ike Wilson】アイク・ウィルソン(1901-1942)による作品。ナバホの伝統的な製法で形作られ、豊かな表情を持ったターコイズを活かした非常にシンプルなデザインでありながら、作者の卓越した技術と造形センスにより宝飾品/ジュエリーとしての美しさが与えられたビンテージ/アンティークピンブローチです。
内側には「ボウ&アロー」のホールマーク(作者のサイン)が刻印されており、兄弟どちらの物か明確ではありませんが、間違いなくAustin WilsonかIke Wilsonによる作品であり、可能性としては兄であるAustin Wilsonによる作品である可能性が高いピースです。
長いキャリアを持つ作者であり、制作された時期を正確に特定するのは困難ですが、石や造形スタイル等からは1950年代頃の作品と推測されます。おそらくインゴットシルバー(銀塊)から成形されたベースは、スクエアにカットされたターコイズのシェイプに合わせて長方形に造形されています。そこに大変美しく深遠な奥行きを持ったターコイズがマウントされ、エッジは同作者の作品において散見される連続した三角形のスタンプワークが刻まれています。さらに、そのスタンプワークに呼応するようにエッジにはファイルワークと呼ばれる鑢で削る原始的な技法により、細かな凹凸が3次元的に刻み込まれています。
それらの丁寧なシルバーワークによってナバホジュエリーらしくも強いオリジナリティと素晴らしい上質感、それに派手さはありませんがジュエリーとしての高い品位が与えられた作品です。
セットされたターコイズはとても深い表情をもつ【Fox Turquoise】フォックスターコイズと思われます。【Royston Turquoise】ロイストンターコイズや【Blue Gem Turquoise】ブルージェムターコイズ等でも似た色相の石が見られますが、独特の強い透明感やミルキーなカラーから、僅かにグレイッシュなグリーンのグラデーション等は、フォックスターコイズの特徴となっています。ビンテージ作品ながら非常に高い硬度を感じさせる艶と透明感のあるハイグレードな無添加ナチュラルターコイズです。
フォックスターコイズは、1900年代初頭に発見された鉱山で、ネバダ州の鉱山の中でも最大の産出量を誇ります。産出量に比例してそのカラーバリエーションも幅広い鉱山ですが、こちらの石のようなカラーと柔らかなグラデーション、強い透明感を持った個体がフォックスターコイズらしい色相・表情として高くグレーディングされています。また、1950年代前後の作品で多く見られるのも特徴の一つとなっています。
【Austin Wilson】オースティン・ウィルソンと【Ike Wilson】アイク・ウィルソンは、ナバホ族の兄弟であり、二人とも1901年生まれで、一説にはアングロ/白人の血が入っていたのではないかとされています。インディアンジュエリー作家の第二世代、セカンドジェネレーションと呼ばれる【Fred Peshlakai】フレッド・ぺシュラカイ(1896-1974)や【David Taliman】デビッド・タリマン(1902or1901-1967)、 ホピの【Morris Robinson】モリス・ロビンソン(1901-1984)、等と同世代であり、インディアンジュエリーの『作家』として活動を始めた最初期の一人です。
二人ともナバホリザベーションに生まれますが、弟のIke Wilsonが先にシルバースミスとして【Charles Garrett Wallace】チャールズ・ガレット・ウォレス(1898-1993)の経営するズニプエブロのC. G. Wallace Trading Postで仕事を始めます。その後、兄であるAustin Wilsonを同じC. G. Wallace Trading Postに誘いれたようです。キャリア中期以降は、ズニプエブロに存在するC. G. Wallace以外のトレーダーにも作品を供給しており、多くの素晴らしい作品を生み出しました。それは、彼らによる多くの作品がすでにミュージアムに収蔵されていることからも作家としての独自性やシルバースミスとしての高い技術がうかがえます。
また、C. G. Wallace はZUNI /ズ二のジュエリーを専門に扱うトレーダーでしたが、1920年代にナバホのシルバー彫金技術を必要としてIke Wilsonを登用したとされており、所属するジュエリー作家の多くがズニのジュエラーでした。そのため、Austin WilsonとIke Wilsonの兄弟の作品の中には、その当時ではほとんど考えられなかったズニの作家との共作と思われるチャンネルインレイ技術が使われた作品などが見つかっています。ただし、二人は基本的にシルバーワークを専門としており、ナバホのトラディッショナルな技術をベースに、ズニの作家による石のカットやカービングと彼らのシルバーワークを組み合わせたピースが残されています。その技術・技法はナバホの伝統的な彫金技術を重視していたようですが、そのデザインスタイルやナバホジュエリーにはあまり見られない繊細な仕事には、ズニの影響が感じされます。
ブレスレットやリングなど、トラディショナルなナバホスタイルを踏襲した作品が多く見つかっていますが、ボックスやカトラリー等多岐にわたるシルバー作品を残しており、伝統的な技術を踏襲しながらも新しいスタイルや実験的な造形のピースも見られ、そのクリエイティブな作風や美意識は後世の作家にも多くの影響を与えています。さらに、1941年発足の職人団体【The Navajo Arts & Crafts Guild】 ナバホギルドのメンバーとしてもその名前が残されています。
ホールマーク(作家のサイン)については、こちらのピースと同じボウ&アローの刻印が多く見つかっています。ただしそれが、兄弟の内でどちらのサインであるか明確になっていません。参考資料によっては、こちらのボウ&アローの刻印が弟のIkeのサインとされていますが、当店の見解としては1960年代まで制作していたと考えられる兄のAustinのサインである可能性が高いと推測しており、共通のホールマークであった可能性も排除できません。また、トマホークモチーフの刻印やホーガンモチーフのものなども同作者のものとして紹介されていることがありますが、C. G. Wallace Trading Postには、二人以外にも【Billy Hoxie】ビリー・ホクシー、【Charles Begay】チャールズ・ビゲイ(1912-1998)等、一説には二十数人と言われるナバホ出身のシルバースミスが作品を供給していたと云われており、オースティン・ウィルソンかアイク・ウィルソン、それぞれのサイン/ホールマークを断定するのは大変困難だと思われます。
またそれは、AustinとIkeが1歳ほど年の離れた兄弟である事が、最近のErnie Bulow氏の研究・調査によって判明したばかりであり、それまでは同一人物とされていました。それらの研究経過からもまだまだ不明点が多く、ホールマーク等の詳細について判断するにはまだまだ今後の研究・調査が必要と思われます。
当時の高名な作家と同じようにホールマークの刻印されていない作品も確認されていますが、当時の作家の中では多作であり、比較的ホールマークの刻印されたピースが残っている作者です。
弟の【Ike Wilson】 は1942年に事故で亡くなられています。兄の【Austin Wilson】はその後も素晴らしい作品を多く残して1976年に亡くなっており、その技術やスタンプ(鏨)ツールはIkeの妻であった【Katherine Wilson】などが少しの間引き継いでいたようです。
また、Ike Wilsonの孫にあたるのが、コンテンポラリージュエリーの有名作家【Harry Morgan】ハリー・モーガン(1946-2007)です。
こちらの作品もそんな【Austin Wilson】オースティン・ウィルソンによるナバホの伝統を守りながらも多くのナバホジュエリーでは見られない繊細な造形美や実験的で新しい試みを感じさせるピースで、オーセンティックでクラシックながら独自性と現代的なセンスを併せ持った作品に昇華されています。
また、洗練された造形デザインやバランスの良いボリューム感、エレガントな上質感は少しフォーマルなシーンでも品格を損なわず多くのシーンにフィットさせる事が出来ます。さらに、アウターのアクセントとしてラペルや襟等にもフィットしますし、ハット等のワンポイント等にも使い勝手の良いピースだと思われます。
【Austin Wilson】オースティン・ウィルソンが残した貴重なピースであり、素晴らしいターコイズの質を含め史料価値も高い作品の一つであり、トレジャーハントプライスな作品となっています。
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コンディションもシルバーのクスミが見られる程度で良好な状態です。
また、ターコイズも今なお高い艶を保ち、マトリックス部分に凹凸が見られますが、それらはカットされた時からの天然石が持つ凹凸であり、現在も艶と透明感を持っています。