【Cochiti】コチティの大巨匠【Joe H. Quintana】ジョー・キンタナ(1915-1991)の作品で、『ダブルフレア』とも呼ばれるバンドの中央がくびれて上下が広く造形された独特のシェイプを持つワイドウィズなビンテージバングルです。
1960年代頃に作られたと思われる作品で、不確かな情報ではありますが、内側に刻印された『JHQ』ホールマーク(作者のサイン)の書体や【H】の幅が細い字体は1950年代~1960年代に作られた作品とされています。
とてもスペシャリティのあるバンドの造形は、三日月型のパーツ2枚を中央でロウ付けすることで上下が広く開いたシェイプが生み出されています。このような断面がV型になる立体的な造形は、 緻密に計算されたデザイン設計とシルバーワークによって形作られており、迫力のある立体感と素晴らしい装着感を生み出しています。
そして、その中央部分には規則的なスタンプワークが刻まれたワイヤーが施されており、センターにはティアドロップシェイプにカットされた美しいターコイズがマウントされています。さらに、ターコイズの左右にはワイヤーワークによる装飾と、絶妙なサイズのグラデーションを見せるシルバーボールが配されています。
セットされたターコイズはその鉱山を特定することは出来ませんが、強く美しい発色を持った石で、濃いブラウンのウェブが入ります。どこかエレガントな雰囲気を持ったバングルの造形にとても良いフィッティングを見せるノーブルでクラシックな印象を持ったターコイズとなっています。
【Joe H. Quintana】(Jose Higineo Quintana)の功績はこちらで語りつくせるものではありませんが、多くの賞を獲得しただけでなく、革新的な造形を生み出し、技術的にも頂点に達したインディアンジュエリーにおける最高のシルバー・スミスの一人です。 現在、トップアーティストとして活躍する作家【Cippy CrazyHorse】シピー・クレイジーホースの師であり、父親としても有名です。
1915年、Cochiti Puebloに生まれ、1932年頃からシルバースミスのキャリアをスタートさせたようです。1930年代後半頃には、【Julius Gan's Southwestern Arts and Crafts】(ユリウス・ガンズ サウスウエスト アーツアンドクラフト)に所属し、シルバースミスの一人としてジュエリーの制作に従事しました。Southwestern Arts and Craftsには、【Ambrose Roanhorse】アンブローズ・ローアンホース、【David Taliman】デビッド・タリマン、【Mark Chee】マーク・チーも在籍していた記録が残っており、優秀でクリエイティブな作家を生み育てるバックアップや技術の継承があったと推測されます。
第二次世界大戦中は造船の仕事に従事し、ブラック・スミス(金属(鉄)鍛冶)の技術を身に付け、戦後の1950年代頭頃にニューメキシコに戻り、ロスアラモスの【Turquoise Post】やアルバカーキに在った【Seligman's】、その他にもFrank Pataniaの経営する【Thunderbird Shop】やManny Goodmanの【Covered Wagon】等、多くのインディアンクラフトショップに所属していたと言われています。 その間、1960年代中頃までになんと22本ものアートショーにおけるアワード受賞リボンを獲得しました。
1960年代後半には、【Irma Bailey】の経営する【Irma's Indian Arts & Pawn】等のために作品を制作、70年代にIrma's Indian Arts & Pawnが閉店するとコチティ族の家に戻ってシルバースミスとして活動を継続しました。
長いキャリアの中で、特に影響を感じさせるのが【Frank Patania Sr】フランク・パタニアです。1927年にサンタフェに【Thunderbird Shop】をオープンし、自身もアーティストとして評価の高いイタリア人作家のFrank Patania Srは【Joe H. Quintana】だけでなく、【Julian Lovato】ジュリアン・ロバト(1925-)や、【Louis Lomay】ルイス・ロメイ(1914-1996)にも技術やその美意識を教授した人物として知られています。
彼らは共通して高い独自性とインディアンジュエリーの伝統的で素朴な強さを持ちながら、新しい価値観や実験的な造形を生み出し、品位を感じさせる作品を多く残しました。 それぞれに強い個性を持っていますが、どこか共通する美意識を感じるのも特徴です。
ジョー・キンタナの作品はシンプルで洗練されたクリーンなデザインが特徴で、唯一無二のクオリティーを誇るシルバービーズや伝統的でプリミティブな技術を駆使し、非常に完成されたエレガントな作品を生み出すことを得意としています。
石の選別にも素晴らしい物があります。またそのシルバーワークは多岐にわたり、銀食器や花器など様々な作品を残していますが、やはりジュエリーのクオリティーや美しさは特別なものです。
70年代頭に制作したコンチョベルトはDOORSの【Jim Morrison】が愛用したことでも有名になりました。
本作もナバホ・プエブロジュエリーの伝統的な技術やディテールを受け継いでいますが、Joe H. Quintanaの強い独自性と高い技術によって作り上げられたダブルフレアのシェイプは高いスペシャリティを誇っています。
また、作者の突出した造形センスとオリジナリティが与えられることで伝統工芸品として作られたシルバージュエリーが、ウェアラブルアートとしても評価できる作品へと昇華されているようです。
強い存在感を示すバングルですので、スタイリングの要となり得るアイテムですが、性別を問わずラフなスタイルにもドレスにもフィットすると思われます。
作品が市場に出にくい作家の一人であり、特にこちらの様な大作といえるバングルはアメリカ国内を含め、大変貴重なピースとなっています。
Joe H. Quintanaという巨匠のアイデンティティーを感じ取れる作品であり、資料価値も高いピースです。
◆着用サンプル画像(8枚)はこちら◆
コンディションは、全体に細かなキズやシルバーのクスミ、制作上のムラ等が見られますが、目立ったダメージはありません。