【Cochiti】コチティの大巨匠【Joe H. Quintana】ジョー・キンタナ(1915-1991)の作品で、1960年代~1970年代頃に作られたと思われる、同作者を代表するスプリットバンドの造形で構成されたビンテージバングルです。
バンド(地金)のフロントが割り開かれた『スプリットバンド』と呼ばれるインディアンジュエリーにおいてとても伝統的なスタイルを持った作品ですが、インゴットシルバー(銀塊)から成形されたトライアングルワイヤーをベースとしており、非常にシンプルでありながら作者のオリジナリティーさえ感じさせる完成度と造形の美しさを持った作品です。日本において『平打ち』と呼ばれるフラットなシルバーをベースとした作品に比べとても高い技術を必要とするトライアングルワイヤーで造形されていることが特徴的で、スプリットされた上下それぞれの部分もエッジーなトライアングルの断面に造形され、流麗な曲線と立体的な動きが加えられたバングルとなっています。
このような造形は、Joe H. Quintanaを代表するデザインの一つであり、ナバホジュエリーの伝統を踏襲しながらもコチティらしいクリーンで独特の上質感を感じさせる仕上がりとなっています。また、内側には『JHQ』のホールマーク(作者のサイン)が刻印されています。
【Ingot Silver】インゴットシルバー(銀塊)からの成形は、アンティークインディアンジュエリーにおいて非常に重要なファクターですが、銀含有率/品位などの素材とは関係なく、ジュエリーの製法技術を表します。
現在制作されている作品の多くは、材料として市販されているシルバープレート(銀板/ゲージ)を加工することでジュエリーとして成形されていますが、インゴットから成形する製法では一度溶かしたシルバーを、鍛冶仕事に近い方法であるハンマーやローラーで叩き伸ばすことでジュエリーとして成形していきます。最終的にはどちらもプレートやワイヤーの形態になるため、大きな差は無いように思われますが、インゴットから成形されたシルバーの肌は、硬くなめらかで鈍い光を持っています。それにより生み出されるプリミティブで武骨な作品の表情は、やはりアンティークインディアンジュエリーの大きな魅力です。
また、1930年代にはシルバープレートが登場しますが、当時シルバープレートを用いて制作されたジュエリーは政府によりインディアンクラフトとして認定されず、グランドキャニオンなどの国立公園内で販売できなくなった記録も残っています。
【Joe H. Quintana】(Jose Higineo Quintana)の功績はこちらで語りつくせるものではありませんが、多くの賞を獲得しただけでなく、革新的な造形を生み出し、技術的にも頂点に達したインディアンジュエリーにおける最高のシルバー・スミスの一人です。 現在、トップアーティストとして活躍する作家【Cippy CrazyHorse】シピー・クレイジーホースの師であり、父親としても有名です。
1915年、Cochiti Puebloに生まれ、1932年頃からシルバースミスのキャリアをスタートさせたようです。1930年代後半頃には、【Julius Gan's Southwestern Arts and Crafts】(ユリウス・ガンズ サウスウエスト アーツアンドクラフト)に所属し、シルバースミスの一人としてジュエリーの制作に従事しました。Southwestern Arts and Craftsには、【Ambrose Roanhorse】アンブローズ・ローアンホース、【David Taliman】デビッド・タリマン、【Mark Chee】マーク・チーも在籍していた記録が残っており、優秀でクリエイティブな作家を生み育てるバックアップや技術の継承があったと推測されます。
第二次世界大戦中は造船の仕事に従事し、ブラック・スミス(金属(鉄)鍛冶)の技術を身に付け、戦後の1950年代頭頃にニューメキシコに戻り、ロスアラモスの【Turquoise Post】やアルバカーキに在った【Seligman's】、その他にもFrank Pataniaの経営する【Thunderbird Shop】やManny Goodmanの【Covered Wagon】等、多くのインディアンクラフトショップに所属していたと言われています。 その間、1960年代中頃までになんと22本ものアートショーにおけるアワード受賞リボンを獲得しました。
1960年代後半には、【Irma Bailey】の経営する【Irma's Indian Arts & Pawn】等のために作品を制作、70年代にIrma's Indian Arts & Pawnが閉店するとコチティ族の家に戻ってシルバースミスとして活動を継続しました。
長いキャリアの中で、特に影響を感じさせるのが【Frank Patania Sr】フランク・パタニアです。1927年にサンタフェに【Thunderbird Shop】をオープンし、自身もアーティストとして評価の高いイタリア人作家のFrank Patania Srは【Joe H. Quintana】だけでなく、【Julian Lovato】ジュリアン・ロバト(1925-)や、【Louis Lomay】ルイス・ロメイ(1914-1996)にも技術やその美意識を教授した人物として知られています。
彼らは共通して高い独自性とインディアンジュエリーの伝統的で素朴な強さを持ちながら、新しい価値観や実験的な造形を生み出し、品位を感じさせる作品を多く残しました。 それぞれに強い個性を持っていますが、どこか共通する美意識を感じるのも特徴です。
ジョー・キンタナの作品はシンプルで洗練されたクリーンなデザインが特徴で、唯一無二のクオリティーを誇るシルバービーズや伝統的でプリミティブな技術を駆使し、非常に完成されたエレガントな作品を生み出すことを得意としています。
石の選別にも素晴らしい物があります。またそのシルバーワークは多岐にわたり、銀食器や花器など様々な作品を残していますが、やはりジュエリーのクオリティーや美しさは特別なものです。
70年代頭に制作したコンチョベルトはDOORSの【Jim Morrison】が愛用したことでも有名になりました。
こちらの作品もオーセンティックなナバホジュエリーのディテールを受け継いでいますが、作者の突出した造形センスと極限まで高められたシルバーワークの完成度によって練り上げられた伝統工芸品/アートピースとしての美しさも感じさせる作品です。
また、トライアングルワイヤーをベースにしており、ラフなスタイルにもシンプルなスタイリングでもよくフィットし、性別などを問わない汎用性を持ってる為、長年にわたってご愛用いただけるバングルです。
作品が市場に出にくい作家の一人であり、特にこちらの様なシンプルで美しいバングルはアメリカ国内を含め、探してもほとんど見つからなくなっています。
Joe H. Quintanaという巨匠のアイデンティティーも感じ取れるバングルであり、資料価値も高い作品です。
◆着用サンプル画像(9枚)はこちら◆
コンディションも良好です。フロントに比べターミナル付近が荒々しいシルバーの仕上げとなっていますが、使用によって傷がついたものではなく、意図的に表面の仕上げに差をつけたものと推測されます。もちろんダメージなどはありません。