【NAVAJO】ナバホか【PUEBLO】プエブロの職人による【Tourist Jewelry】ツーリストジュエリーと呼ばれる1910年代~1950年代当時に観光客向けに制作されたスーベニアアイテムの一つで、【逆卍】Swastika/Whirling Log等の細かなスタンプワークが施されたアンティーク/ビンテージバングルです。
また、こちらの作品の内側には、『SOLD BY R.S. DAVIS MAITOU COLO』 の刻印が入り、当時コロラド州コロラドスプリングスに隣接する町、マニトウスプリングスにあったショップ【R.S. DAVIS】R.S. デイビスで1920年代末~1930年代に販売された作品。また、R.S. DAVISで販売された作品群は、多くの作家が在籍しクリエイティブな作品を多く残したことで知られるインディアンクラフトショップ【GARDEN OF THE GODS TRADING POST】ガーデンオブザゴッズトレーディングポストが制作していたとされています。
ツーリストジュエリーやフレッド・ハービースタイルと呼ばれるピースの代表的なスタイルを持ち、キャッチーな印象のデザインで薄く仕上げられていますが、全てハンドメイドにより作り上げられており、スーベニアアイテムの分業化や量産化を推し進めたしたメーカー(Maisel's Indian Trading Post、BELL TRADING POST、Arrow Novelty等)がデザインソースとした『オリジナル』作品の一つです。
インゴットシルバー(銀塊)から成形されたバンド/地金は、ハンマーワークによって叩き出す技術を使い、全体に僅かな曲面がつけられており、高い技術のハンマーワークにより美しいアールと立体感が生み出されています。このようなディテールは、硬い木の土台や鉛の塊にアール(曲面)の溝を彫り込んで、そこにシルバーを叩き添わせることによって曲面を作っています。そして、センターには神秘的な印象を持つグリーンターコイズがセットされ、その両脇にはタガネ/鏨(鉄製の金型ツール)の凸と凹を用いてシルバーを叩きだすことで立体的な凹凸を作る『リポウズ/バンプアウト』が施されています。さらに、全体に細かなスタンプワークが刻まれていますが、逆卍以外はすべて具体的なモチーフではなく、紋様を構成する抽象的なパターンのスタンプが使用され、それらもまたプリミティブな印象を生み出し、オールドピース特有の表情や量産されたツーリストジュエリーにはない威厳のある質感を作り出しているようです。
【R.S. DAVIS】R.S. デイビスは、1800年代末頃~1950年代頃に活動していた写真家でコロラド州マニトウスプリングスにショップ(スタジオ?)を構えていたようです。同州パイクスピーク国立公園『ガーデンオブザゴッズ』(神々の庭)と呼ばれる雄大な自然を撮影し、ポストカードとして販売されたものが残されています。
インディアンの職人が所属していたわけではなく、販売のみを行っていたようで、販売されていたジュエリーに関しては、GARDEN OF THE GODS TRADING POSTが制作していたとされていますが、どのような繋がりを持っていたのかは不明で、GARDEN OF THE GODS TRADING POSTが販売していた作品群と同じスタンプなどが使われていますが、よりツーリスト向けなアイテムが多いように感じられます。
【GARDEN OF THE GODS TRADING POST】ガーデンオブザゴッズトレーディングポストは、もともとFred Harvey Companyで働いていた【Charles E. Strausenback】チャールズ・E・ストローセンバックが、1920年にガーデンオブザゴッズで始めた観光客向けのインディアンアートショップです。
多くの優秀なプエブロインディアン作家を擁し、ナバホのオールドスタイルをベースにしながらも、プエブロスタイルを積極的に取り入れたミックススタイルが特徴的な工房です。所属していたのは、インディアンジュエリー創成期の最もクリエイティブな作家の一人として知られるサン・イルデフォンソの【Awa Tsireh】アワ・ツィレー(1898-1955)をはじめ、ナバホの【David Taliman】デビッド・タリマン(1902or1901-1967)、他にも【Epifanio Tafoya】【William Goodluck】【John Etsitty】等、プエブロ・ナバホの中でも、後に偉大なアーティストとして知られる多くの作家達であり、それぞれが独創的なスタイルを生み出し、沢山の傑作を送り出したインディアンアートショップです。
GARDEN OF THE GODSも1900年代以降のサウスウエスト観光産業の隆盛により創業された「スーベニア(記念品)ビジネス」と言う意味では、【Fred Harvey Style】フレッド・ハービースタイルと呼ばれるジャンルにカテゴライズされている【BELL TRADING POST】や【Maisel's Indian Trading Post】、【Arrow Novelty】等の分業化や機械化を進めインディアンクラフトの量産化を図ったメーカー/Manufacturersと同じスタートを切っていますが、インディアンアートショップとして古い伝統技術や製法を守り、独自性を持ちながら工芸品/アートピースとしての制作が行われており、上記の様なフレッド・ハービースタイルのプロダクト製品とは一線を画す存在です。しかしながら、当時とても新しいかったポップなスタイルを持つAwa Tsirehの作品が、お手本として【BELL TRADING POST】をはじめとする量産メーカーに模倣されたことや、【Fred Peshlakai】の作品、【C. G. Wallace】で作られたデザイン/造形が上記のようなメーカーのデザインソースとなったことによりGARDEN OF THE GODS TRADING POSTやFred Wilson's Indian Trading Post、Southwestern Arts and Crafts等の分業や量産化を図っていない工房の作品もフレッド・ハービースタイルと混同されることになってしまいました。
1940年代には、コロラド州ガーデンオブゴッドとコロラドスプリングス、そしてアリゾナ州フェニックスにも店舗を展開しますが、1956年頃にCharles E. Strausenbackが亡くなっており、その後は妻がビジネスを引き継いでいたようですが、1979年にはビジネス自体が買収されました。そのため、ジュエリー等の制作は1950年代頃までだったと思われます。
また、同店はコロラド州にある神々の庭/Garden of the Godsにて、現在もヒストリックなトレーディングポストとして当時の姿を残して土産物店・カフェとして運営されています。
卍 【スワスティカ】 Whirling Log 【ワーリングログ】について・・・
4つの【L】 『LOVE・LIFE・LUCK・LIGHT』 からなる幸福のシンボル卍(Swastikaスワスティカ)はラッキーシンボルとして当時よく使われていたモチーフです。
しかしながら、1933年のナチスドイツ出現、1939年にWW2開戦によりアメリカにおいては敵国ドイツのハーケンクロイツと同一記号は不吉だとして使われなくなってしまいました。当時の新聞記事にも残っていますが、インディアンたちにも卍が入った作品の廃棄が求められ、政府機関によって回収されたりしたようです。 その後、大戦中にも多くが廃棄されてしまった歴史があり、現存しているものは大変貴重となりました。
こちらはそのような受難を乗り越えて現存しているものです。
ツーリストジュエリーらしいデザイン/造形ながら、プリミティブな技術による丁寧なシルバーワークによって作り上げられた造形はチープな印象がなく、ハンマーワークによる僅かな曲面は、腕に良く馴染む印象を作ります。また、少し黒っぽいシルバーによって多くのスタイルにさり気なく馴染みやすい質感と、使いやすい控えめなボリューム感のバングルです。
また、GARDEN OF THE GODS TRADING POSTの個体は、ツーリストジュエリーとして作られた作品ながら、アンティーク工芸品としても評価され、現存数が少ないため史料価値も高い貴重なピースの一つです。
◆着用サンプル画像(8枚)はこちら◆
コンディションも大変良好。シルバーにクスミが見られる程度で使用感は少なく、特にダメージ等は見られません。
【卍】の入るピースは戦後もほとんど着用されずに保管されていることが多く、現存数は少ないですが、コンディションの良い個体が多いことも特徴の一つです。