【NAVAJO】ナバホか【Hopi】ホピのビンテージジュエリー、オーバーレイによってアイコニックなサンダーバードモチーフが描き出されたビンテージ/アンティークピンブローチです。
裏側に刻印された『STERLING HAND MADE』の刻印により、その制作工房等が幾つか推測されるピースとなっていますが、現時点で制作な作者や工房は不明となっています。
1950年代~1960年代前半頃までに作られた作品と思われ、オーバーレイ技法黎明期特有の特徴を持ちながら、素晴らしい完成度を誇るピンブローチ。現在のオーバーレイジュエリーの多くに比べ厚いシルバーをカッティングし、オーバーレイする事により、立体感と奥行きが与えられています。
また現代のオーバーレイ作品の様な、下地のシルバーに対するテクスチャー(スタンプやエングレイビングによる表面加工)が見られません。このようなディテールはオーバーレイ技法の黎明期の特徴であり、現代の作品よりも素朴でクリーンな印象となっているようです。
またサンダーバードの目等、部分的にはスタンプワークも駆使されており、オーセンティックでどこか惚けたリラックス感のあるサンダーバードデザインも魅力的な作品です。
さらに、全体に柔らかなドーム型のアール(曲面)がつけられていることで、独特な上質感や立体的な迫力が与えられています。
これは、木(丸太)やレッド(鉛の塊)に施された凹みに、地金となるシルバーをハンマーで叩き沿わせることによってドーム状の膨らみを作り上げており、非常に細かく何度もタガネで叩き沿わせる高度なハンマーワークで成形されています。
内側には925シルバー製であることを表す『STERLING』と共に『HAND MADE』の刻印が施されています。
この『HAND MADE』のスタンプにより、1930年代~1950年代にアメリカ中西部に誕生した多くのインディアンジュエリーショップの中でもいくつかのショップ/工房が推測されます。
最初に『HAND MADE AT THE INDIANS』 『HAND MADE BY INDIANS』を使用したのは1920年にコロラド州で創業した【GARDEN OF THE GODS TRADING POST】ガーデンオブザゴッド トレーディングポストです。
1930年代には、当時【Kenneth Begay】ケネス・ビゲイと【Allan Kee】アレン・キーが所属していたフラッグスタッフの【Babbitt's Indian Shop】バビッツ・インディアンショップや、ビンテージインディアンジュエリーの歴史を紐解く上でとても重要であり【Joe H. Quintana】ジョー・キンタナが所属していたことでも知られる【Seligman's】セリグマンズ、1930年代後半にギャラップで創業した【Woodard's Indian Arts】ウッダーズインディアンアーツ、そしてアリゾナ州にオープンし、Babbitt's Indian Shopから移籍したKenneth Begay、Allan Keeという名工達によってその名を馳せた【White Hogan】ホワイト ホーガン等でも『HAND MADE』の刻印が使用されました。
また、それらの店には1930年代中頃~1950年代に多く産出した素晴らしいクオリティーのターコイズが給されていたという共通点も見られます。
その後、1980年代以降でも散見される『HAND MADE』の刻印ですが、相対的に高い技術を感じさせる作品に多く、有力なショップや工房で用いられた歴史的な傾向があったようです。
本作は、上記の様な工房やショップが制作・販売元である可能性の高い作品となりますが、刻印に使用されている少し特徴的な『HAND MADE』の字体と完全に一致するピースが発見されていません。
また、アメリカ国内の研究者の中では、【Julius Gan's Southwestern Arts and Crafts】=【Gans Craft】で制作された作品ではないかと推測される事もあり、当店で過去に販売した下記URLのアーカイブ作品も独特なサンダーバードのデザインに類似点が多く見られます。
ITEM CODE:JBO004642
【Carl Luthy Shop】Vtg Thunderbird Overlay Clasp Bolo c.1960~
ただし、Carl Luthy Shopで制作された作品において『HAND MADE』の刻印が刻まれた作品は発見されていないと思われ、本作もCarl Luthy Shopで生まれたピースではないと考えております。
『STERLING』の刻印については、銀含有率92.5%の地金であることを示す表記であり、1930年代初頭頃には登場していました。
ただし、ショップやトレーディングポストにおいて多用されるようになったのは戦後である1940年代後半以降のようです。
1940年代以前に作られたツーリストジュエリーでも散見されますが、第二次世界大戦中の金属需要が影響したと推測され、1940年代末以降の作品で非常に多くみられるようになりました。
『925』の表記も同じ意味を持っていますが、925の刻印はインディアンジュエリーにおいては非常に新しく採用された刻印であり、そのほとんどが1990年代以降の作品に刻印されています。
主にイギリスの影響を受けた国において『STERLING』、それ以外の国において『925』の表記・刻印が使用されています。
Sterling Silver/スターリングシルバー=925シルバーは、熱処理によって時効硬化性をもち、細かな細工や加工に向いている為、現在においても食器や宝飾品等様々な物に利用されています。
【Thunderbird】サンダーバード はインディアンジュエリーの伝統的なモチーフの一つで、伝説の怪鳥であり、雷や雲、ひいては雨とつながりが深く幸福を運んでくるラッキーシンボルでもあります。
ジュエリーでは、限界の無い幸福を表すシンボルであり、ネイティブアメリカンの守り神的存在です。
【Overlay】オーバーレイと言う技法は、シルバーの板に描いたデザインを切り抜き、下地のシルバーの上に貼り付けること(オーバーレイ)で立体的に絵柄を浮き出させる技法です。スタンプワークやカッティングと組み合わされた作品も見られ、完成度を高められたオーバーレイ技法を用いた美しいホピのジュエリーは、現代に至るまでに多くの傑作を残しています。
1930年代にホピの大家【Paul Saufkie】ポール・スフキー(1904-1998)によって生み出された技術ですが、その黎明期にはホピ以外のナバホ・プエブロのシルバースミスにも新しい表現方法として色々な作品が作られていました。
1940年代~1950年代にかけて本作と同じ工房で彫金を指導した【Harry Sakyesva】ハリー・サキイェスヴァ(1922-1969?)や、同い年の作家【Allen Pooyouma】アレン・プーユウマ(1922-2014)、そして【Victor Coochwytewa】ヴィクター・クーチュワイテワ(1922-2011)等により、ホピの代表的なスタイルの一つとして定着させられました。
オーバーレイ技術の定着以前にも、オーバーレイと近い造形を生み出すような大きく大胆で細かな刻みを持たないスタンプ(鏨)がホピの作家によって制作されていました。
しかし、スタンプ(刻印)というデザインやサイズが固定されてしまう技術から解放し、もっと自由な図案を具現化できる技術・技法として生み出されたのではないかと考えられます。
また、現在ではホピの伝統的な技術として認知されているオーバーレイ技法ですが、本作が作られた当時は、まだホピの作家によってその技術が高められる黎明期であり、ホピ以外のナバホ・プエブロのシルバースミスにも新しい表現方法として色々な作品が作られていました。
本作もインディアンジュエリーの歴史上、多様な技術と個性が生まれる中で、新しいシルバーワークに挑んだ作者によって作られた作品であり、その作者等の背景は明確になっていませんが、高い史料価値を有する作品です。
サンダーバードモチーフはどこか愛らしくキャッチーな雰囲気ですが、オーバーレイによるシルバーのみの構成は、落ち着いた印象を与え、ビンテージインディアンジュエリー特有の素朴ながらアーティな魅力も持っています。
また、エンブレムの様なシェイプや程よいサイズ感は、ラペルやハット以外にも多くのアイテムになじみの良いシンプルなピンブローチです。
とてもクリーンで無駄のないデザインはタイムレスに洗練された印象を与えます。
オーバーレイ技法により独自性と創造性が自由に表現された作品であり、そのエスニシティな味わいやオリジナリティは、手工芸品としてだけでなくアートピースとしても評価されるジュエリー作品の一つとなっています。
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コンディションも良好です。シルバーのクスミや僅かなキズ、ハンドメイド特有の制作上のムラは見られますが、特にダメージのない良好な状態を保っています。