【NAVAJO】ナバホの中でも傑作を残している組織【The Navajo Arts & Crafts Guild】=通称『ナバホギルド』で作られた作品。美しいバーストライン(放射状)を基調としながら、スタンプワークを組み合わせることにより、クロスデザインも表現されたビンテージ/アンティークピンブローチです。
また本作は、PAULA A. BAXTER氏の著書『NAVAJO AND PUEBLO JEWELRY DESIGN 1879-1945』の268ページで紹介されているピースそのもの(ON BOOK)です。
内側にはナバホギルドのホールマーク(作者やショップのサイン)である【Horned Moon】共に【NAVAJO】の文字も刻印されていることから、1940年代末~1950年代頃に作られた作品と思われます。
インゴットシルバー(銀塊)より成形された硬い地金がオーバルシェイプを基調としながら、スタンプワークのデザインと呼応したカッティングワークにより、独特な形状にに造形されています。
そこにスタンプワークによってバースト/放射状のライン模様が刻まれ、その中で四方に伸びるライン上には、サイズがグレーディング(徐々に大きくなる)されたスタンプワークが連続して刻み込まれ、クロスが浮かび上がるデザインとなっています。
また全体に『リポウズ/バンプアウト』と呼ばれる技術により、豊かで立体的なアール(曲面)が施されており、中央が少し膨らむドーム型の造形となっています。
これは現在多くみられる凸と凹の金型ツールを用いた技術ではなく、木(丸太)やレッド(鉛の塊)に施された凹みに、地金となるシルバーをハンマーで叩き沿わせることによってドーム状の膨らみを作り上げており、非常に細かく何度もタガネで叩き沿わせる高度なハンマーワークによって成形されています。
全ての工程が伝統的でプリミティブな技術・技法によって形作られた作品ですが、非常に高い完成度を誇り、手工芸品として極限まで高められたシルバーワークは、ビンテージ作品でありながらモダンでクリーンな印象を生み出しています。
【The Navajo Arts & Crafts Guild】(NACG)※以下ナバホギルドはインディアンアートの普及やクオリティーの保全、職人の地位向上等、【The United Indian Trader’s Association】(UITA)とも近しい目的の為に、ナバホのシルバースミス達の手によって組織されました。
中でもナバホギルドは、UITA等に比べナバホの職人主導で組織された団体で、大巨匠であるナバホのシルバースミス【Ambrose Roanhorse】アンブローズ・ローアンホース(1904-1982)が代表を務め、後進の育成や伝統的な技術の伝承、インディアンジュエリーのさらなる普及などを目的に1941年にギルドとして発足しました。
明確にはなっていませんが、U.S.NAVAJO/Indian Arts & Crafts Boardが1937年~1940年代の初め頃までしか見られないのも、第二次世界大戦の激化による影響だけではなく、どちらの組織においても重要な役割を担っていたAmbrose Roanhorseが、Navajo Guild/The Navajo Arts & Crafts Guildに注力したためではないかと考えられます。
ナバホギルドによる作品のスタイルは特徴的で、Ambrose Roanhorseの意図が強く働いた影響のためか、インゴットから作られたベースに、クリーンで構築的なスタンプワークをメインとしたデザインと、昔ながらのキャストワークによるピースが多く、どちらも回顧主義的なオールドスタイルでありながら、洗練された美しい作品が多く制作されました。
また、もう一つの特徴はその構成メンバーです。当時から有名で最高の技術を究めた作家が名を連ねています。
【Kenneth Begay】ケネス・ビゲイ、【Mark Chee】マーク・チー、【Austin Wilson】オースティン・ウィルソン、【Allan Kee】アレン・キー、【Ivan Kee】アイバン・キー、【Jack Adakai】ジャック・アダカイ、【Billy Goodluck】ビリー・グッドラック等、さらに、Ambrose Roanhorseの教え子の一人であるホピ族の【Louis Lomay】ルイス・ロメイもナバホギルドのメンバーだったようです。
さらに特筆すべきは、これだけ有名作家が揃っていながら【NAVAJO GUILD】のジュエリーとして制作されるものは、個人のホールマーク(署名/サイン)が認められていませんでした。
そのため、1941年の発足から1940年代の半ばごろまでは、まったくホールマークなどが記載されていないか、1943年以前には『U.S.NAVAJO 70』が用いられています。
その後、1943年に【Horned Moon/ホーンドムーン】と呼ばれる空を司る精霊をモチーフとしたシンボルがナバホギルドの象徴として商標登録されており、諸説ありますが1940年代後半頃からホールマークとして作品に刻印されるようになったようです。
1940年代末~1950年代以降には『NAVAJO』の文字や、銀含有率92.5%の地金であることを示す『STERLING』の刻印が追加されていきます。
また、1940年代後半以降でもホールマークの刻印が刻まれていない個体も多く発見されています。
ナバホギルドの代表を務めた【Ambrose Roanhorse】は後進の育成にも熱心な作家で、1930年代からサンタフェのインディアンスクールで彫金技術のクラスを受け持っており、多くの教え子を持っていました。
サードジェネレーションと呼ばれる第3世代の作家ですが、さらに古い年代の伝統を重んじた作品を多く残し、独特の造形美や完成された技術は次世代に絶大な影響を与えた人物です。
【The Navajo Arts & Crafts Guild】 (NACG)ナバホギルドのピースは、アメリカ国内では非常に高い知名度を誇っていますが、それに比例せず、現存数がとても少ないことも特徴です。
コレクターのもとには一定数があると思われますが市場に出る個体は少なく、現在発見するのが大変困難になっています。
本作も前述のホールマーク 【Horned Moon】と【NAVAJO】の文字が刻印されており、作者個人を特定することはできませんがナバホギルドらしいミニマムな造形と、丁寧で上質感を生み出す仕上げ工程が素晴らしい個体となっています。
当時、インディアンジュエリー創成期のリバイバル作品制作をメインとしたナバホギルドですが、やはりその完成度や古典を踏襲しながら新しいクリエーションを含んだ作品群は、アンティークよりもクリーンで練り上げられた造形美を持っています。
【Ingot Silver】インゴットシルバー(銀塊)からの成形は、アンティークインディアンジュエリーにおいて非常に重要なファクターですが、銀含有率/品位とは関係なく、ジュエリーの製法技術を表します。
現在制作されている作品の多くは、材料として市販されているシルバープレート(銀板/ゲージ)を加工することでジュエリーとして成形されていますが、インゴットから成形する製法では一度溶かしたシルバーを、鍛冶仕事に近い方法であるハンマーやローラーで叩き伸ばすことでジュエリーとして成形していきます。
最終的にはどちらもプレートやバーの形態になるため、大きな差は無いように思われますが、インゴットから成形されたシルバーの肌は、硬くなめらかで鈍い光を持っています。それにより生み出されるプリミティブで武骨な作品の表情は、やはりアンティークインディアンジュエリーの大きな魅力です。
また、1930年代にはシルバープレートが登場しますが、当時シルバープレートを用いて制作されたジュエリーは政府によりインディアンクラフトとして認定されず、グランドキャニオンなどの国立公園内で販売できなくなった記録も残っています。
こちらのピンブローチも、インゴットシルバー(銀塊)から成形されることによるシルバーの硬さや質感、そしてリッチな印象を作る膨らみどによる豊かな表情により、左右対称でクラシックで構築的なデザインでありながらどこか有機的でアーシーな魅力を放つ作品です。
程よいサイズ感やクラシックでオーセンティックなシェイプは色々なシーンにおいて使いやすく、多くのアイテムにナチュラルに馴染み、他部族の作品やハイジュエリーを含め多様なジュエリーとも合わせやすいピンブローチです。
さらに、シルバーのみで構成されたソリッドな質感は派手さを生まず、ラペルやハット以外にもコンチョのように使用することも可能で、多くのアイテムに馴染みやすい大変シンプルなピンブローチです。
またそのクリーンなデザインと造形美によりジュエリーとしての品位も感じさせ、立体感により色々な角度からの光を映し出す事によってさり気なくも独特な存在感を示します。
前述のホールマーク【Horned Moon】が刻印され、【Ambrose Roanhorse】と【The Navajo Arts & Crafts Guild】の美意識を強く感じることが出来る作品であり、ON BOOKというスペシャリティも有する大変コレクタブルなピンブローチです。
◆着用サンプル画像はこちら◆
コンディションも大変良好です。
全体にシルバーのクスミが見られますが、ハンドメイドによる造形特有の僅かな制作上のムラが見られますが、使用感を感じさせない大変良い状態を保っています。
また、中心に近い部分のスタンプワークが薄く不鮮明になっていますが、それは裏側に刻印されたホールマークの刻印にる影響を受けており、摩耗などに由来するものではありません。