【NAVAJO】ナバホか【PUEBLO】プエブロのシルバースミスによるビンテージジュエリー。裏面にある『UITA21』の刻印により、当時サンタフェに在った【SOUTHWEST ARTS&CRAFTS】=【Ganscraft】で制作されたことが確認できるアンティーク/ビンテージリングです。
オーセンティックでクリーンなデザイン/造形を持ったリングであり、その制作背景が明確に確認可能な高い史料価値も有する作品となっています。
『UITA21』のホールマーク(作者や工房のサイン)やセットされているターコイズ等から、1940年代末~1950年代頃に制作されたものと思われます。
インゴットシルバー(銀塊)から成形されたシャンクは、フロントが『スプリットシャンク』と呼ばれる伝統的な造形で3本に割り開かれており、縦に長いシェイプのフェイスに向けて自然な流れを生み出しています。
フェイスはオーバルカットされた美しいブルージェムターコイズがメインに構成され、その石を留めるベゼル(覆輪)の外側には、単独のスクエアワイヤーを捻る事で生み出したツイステッドワイヤーが施されています。
さらにその外側は、流麗なワイヤーワークによってフェイスがフレーミングされており、シャンクとの繋ぎ目には少し大きめのシルバーボール(シルバードロップ)が配される事で立体的な印象が与えられ、造形のバランスが整えられています。
スタンプワークが用いられず、ミニマルでクリーンなシルバーワークによって構成された作品ですが、その造形バランスの美しさやさり気ないツイステッドワイヤーの使い方等、作者の技量とセンスを感じさせる作品となっています。
セットされた石は大変美しい【Blue Gem Turquoise】ブルージェムターコイズと思われます。
ブルージェムらしい高い硬度を感じさせる透明感と艶を持ち、母岩(マトリックス)が中央に大きく入る事で、ワイルドな印象と素晴らしい深みを感じさせる石となっています。
ブルージェムはもともと硬度の高いターコイズですが、こちらはそんなブルージェムの中でも素晴らしい硬度と透明感を持ち、ハイグレードにグレーディングされる質の石です。
美しいアクアカラー~ロイヤルブルーのグラデーションを見せ、古い作品でありながら殆ど使用されていないと推測されるコンディションとその硬度により、現在も宝石としての煌きを失っていません。
また、クリーンで洗練されたデザイン/造形を持つ本作に、ネイティブアメリカンジュエリーらしいアーシーで武骨な表情をもたらしているようです。
裏側に刻印された『UITA』が表している【the United Indian Trader's Association】(以下UITA)は、1931年に組織されC. G. WallaceやGARDEN OF THE GODS TRADING POST、Tobe Turpen等をはじめ、最終的には75のトレーディングポスト/インディアンアートトレーダーが加盟する組織となりました。
UITAが組織された目的は、BELL TRADING POSTやMaisel's等のManufacturersと呼ばれるインディアン工芸品の分業化や量産化を推し進めたメーカー(マスプロ)に対抗するためで、伝統的な製法や材料、一つの作品を一人のシルバースミスが全行程を通して制作するという体制等を守ることなどを規定し、上記のマスプロ品との差別化を計ることでした。
当時、サウスウエスト地方の観光の隆盛に伴ってスーベニア産業もその需要に応えるため、多くのショップやメーカーが生まれました。それらは元々トレーディングポストとして運営されていましたが、やがて多くのインディアンを雇い入れるMaisel'sやBell等のメーカーも創業されることになります。
初期の1910年代~20年代までは、双方の作品には製法やデザインに大きな差がありませんでした。 しかし、後者のメーカーは1930年代に入ると工房で多くのインディアンに同時制作させることにより分業化や機械化をはじめ、少しずつ伝統的な製法や作品の味わいは失われていきました。
また、それらのメーカーの生産する作品の多くはクリエイティブな作家を要するトレーディングポストで生まれた作品の模倣も多く、NAVAJO GUILDの作品やGARDEN OF THE GODS TRADING POSTに所属したAwa Tsirehのデザイン、VAUGHN'S Indian Storeの作品等は多くの模倣品が作られています。
特にこれらの模倣作品はピンブローチが多く、UITAの作品はブレスレットやコンチョベルト等すべてのアイテムに見つけることが出来ますが、ピンブローチに比較的多く刻印されている傾向があるのは、模倣品との明確な区別を促すためだったのではないかと推測されます。
また、UITAではそれぞれのトレーダー(ショップ)ごとにナンバーを割り振っており、『UITA』の末尾にそれぞれのナンバーが刻印されています。それらの内、いくつかのナンバーはそのトレーダーが判明していますが、いまだ不明となっているナンバーも多く存在しています。
『1』 = 【Gallup Mercantile】 ギャラップ マーカンタイル
『2』 = 【C. G. Wallace INDIAN TRADER】C.G.ウォレスインディアントレーダー
『12』 = 【Packards Indian Trading】パッカーズインディアントレーディング
『21』 = 【SOUTHWEST ARTS&CRAFTS/Ganscraft】サウスウエスト アーツアンドクラフト
等々・・・
そして、本作も内側に刻印されたホールマーク【UITA21】の末尾の数字『21』から、【SOUTHWEST ARTS&CRAFTS】=【Ganscraft】で制作・販売された作品であることを特定することができます。
SOUTHWEST ARTS&CRAFTSのUITA参加は1946年頃とされていますが明確ではありません。
【Julius Gan's Southwestern Arts and Crafts】(以下ガンズクラフト)は、もともとは法律家だった【JULIUS GANS 】ユリウス・ガンズによって1915年、サンタフェプラザに小さなインディアンアート/アンティークショップとして創業し、その後、サンタフェでも最大級の店に成長していきます。
1927年ごろからは独自にナバホ・プエブロのインディアンシルバースミスを雇い入れ、店頭にてその作業を見せるスタイルで運営されていました。
当時、雇われていたアーティストは現在では非常に豪華で、その後有名作家として名を馳せる人物が多い事も特徴と言えます。
それは、【Ambrose Roanhorse】アンブローズ・ローアンホース、【David Taliman】デビッド・タリマン、【Mark Chee】マーク・チー、そして【Joe H. Quintana】ジョー・キンタナ等、非常に優秀で後世にも多大な影響を与えた作家たちが所属していました。
そのため、当時から同工房で生まれた作品は、大変評価が高くトラディッショナルなスタイルを守りながらも独自性のある作品も多く作られました。
しかし、その歴史は平坦でなかったようです。
ガンズクラフトでは、現在フレッド・ハービースタイルと呼ばれるBELLやMaisel's等のメーカーとは異なり、一人の作家がすべての工程を担い、材料の加工から仕上げまでを行っていましたが、いち早くシルバーシート/ゲージ(銀板)材料の導入を行いました。
そのため、政府(米国公正取引委員会)の介入を受けることになり、Maisel's等と同様に扱われることになってしまいます。そして、1930年代中ごろには国立公園内等での販売が出来なくなってしまいました。
そこで、復権のために導入されたのが『S』の刻印が示す【Slug Silver】の採用です。 Slug Silverは、それまでのインゴットに比べると小さなコインシルバーの塊で、大きく扱いにくいインゴットよりも効率がよく、制作しやすかったようです。前述の【Joe H. Quintana】ジョー・キンタナもSWCA在籍時にはこの『S』の刻印を使用していたと証言しています。
現在、【Fred Harvey Style】は明確な定義がなく、Fred Harvey Companyもレストランやホテル等の観光施設経営でだけでなく、もともとはインディアンアートトレーダーとしての側面を持っていました。
そのため、こちらのガンズクラフトやSeligman's、GARDEN OF THE GODS TRADING POST等も旅行者に向けた「スーベニアビジネス」・「ツーリストジュエリー」と言う意味では量産化した工房のBELLやMaisel'sと同様です。
ただし、現代において多くのフレッド・ハービースタイルと呼ばれる作品の多くが、Arrow NoveltyやBELL、Maisel's、Silver Arrowの分業化や量産化を推し進めたメーカーのピースであることを踏まえると、こちらの様に全行程を一人の作家が担当し、ベンチメイドによりすべて手作業で仕上げられている作品はフレッド・ハービースタイルの作品群(マスプロ)とは一線を画しています。
また、もう一つのガンズクラフトの特徴としては半数以上の職人が在宅で仕事をし、定期的に作品を収めるスタイルをとっていたことです。
そのため、同工房が供給する独特のコマーシャルスタンプ(量産化された鏨)も使用しながら、上質なターコイズや安定した質のコインシルバー(Slug Silver)も供給されたことで、それぞれがハイクオリティーで個性的な作品を残すことになったようです。
さらに、現代においてもチマヨ織物を用いたジャケット等で知名度を持つ【Ganscraft】ガンズクラフト社と同じカンパニーであり、パースと呼ばれるチマヨ織のポーチを最初に制作・販売した工房としても有名です。
現在では日本の老舗アパレルである東洋エンタープライズ社が実名復刻をされておられます。
【Ingot Silver】インゴットシルバー(銀塊)からの成形は、アンティークインディアンジュエリーにおいて非常に重要なファクターですが、銀含有率/品位とは関係なく、ジュエリーの製法技術を表します。
現在制作されている作品の多くは、材料として市販されているシルバープレート(銀板/ゲージ)を加工することでジュエリーとして成形されていますが、インゴットから成形する製法では一度溶かしたシルバーを、鍛冶仕事に近い方法であるハンマーやローラーで叩き伸ばすことでジュエリーとして成形していきます。
最終的にはどちらもプレートやバーの形態になるため、大きな差は無いように思われますが、インゴットから成形されたシルバーの肌は、硬くなめらかで鈍い光を持っています。それにより生み出されるプリミティブで武骨な作品の表情は、やはりアンティークインディアンジュエリーの大きな魅力です。
また、1930年代にはシルバープレートが登場しますが、当時シルバープレートを用いて制作されたジュエリーは政府によりインディアンクラフトとして認定されず、グランドキャニオンなどの国立公園内で販売できなくなった記録も残っています。
本作もおそらくスラッグシルバー(小さなコインシルバーの銀塊)から成形された作品であり、クラシックでクリーンな印象とガンズクラフト社が育てたシルバースミスの技術力、そしてビンテージネイティブアメリカンジュエリーらしい魅力が感じられるピースです。
またそれは、伝統的なナバホジュエリーの技術やディテールを踏襲したオーセンティックな表情とミニマムでエレガントな美しさを兼ね備えており、端正で構築的な印象も受けるシルバーワークの完成度は、少しフォーマルなシーンでも品格を損なわず多くのコーディネイトにフィットする高い汎用性を備えたリングです。
さらに、19.5号程度という需要の高いサイズも貴重かと思われます。
また、ガンズクラフト社(SWAC)製という希少価値と共に、質の高いシルバーワークとそのターコイズのクオリティも高く評価でき、非常にコレクタブルな作品となっています。
◆着用サンプル画像はこちら◆
コンディションも大変良好です。
経年によるシルバーのクスミや細かなキズ、ハンドメイド特有の制作上のムラが見られますが、ダメージの無いとても良い状態となっています。
また、ターコイズにはマトリックス部分に凹凸(マトリックスロス)が見られますが、それらは天然石が持つ特徴でありダメージではありません。
僅かなキズは確認できますが、現在も素晴らしい透明感と艶を保っています。