古典作品のリバイバルで大変高名なアングロ(白人)作家である【Jock Favour】ジョック・フェイバーの作品。重厚で独特なシェイプのトライアングルワイヤーをバンド(地金)に構成し、連続した刻みによるラインとドット模様を刻むスタンプワークのみで装飾されバングルです。
本作も古典期のナバホジュエリーをソースとし、当時と同様にプリミティブなツールや製法にまで拘って制作された作品となっています。
内側には、小さく作者のホールマーク『JF』が刻まれており、近年の作品ではなく1990年代~2000年代頃の作品かと思われます。
おそらくキャストによってある程度バー形状のインゴットシルバー(銀塊)が成形され、それを元にハンマーワークによって独特なシェイプを持ったバンドが形作られています。
シンプルなシルバーワークによって形作られていますが、非常に手間の掛る原始的な製法を守って成形しており、その美しい仕上げ等からはJock Favourの強い拘りや技巧が感じられる作品となっています。
また本作では、高い圧力によって成形される事で見た目以上に重く感じ、シルバーの質感も大変なめらかに仕上げられています。
【Jock Favour】ジョック・フェイバーは、ナバホジュエリーの原始的な技術と製法を現代によみがえらせ、1800年代末~1900年代初頭の作品を想起させる重厚な作品を制作するアリゾナ生まれのアングロ(白人)作家です。
製法だけでなく彫金に使用するツールから独自に製作し、そのジュエリーの完成度や重厚な質感は、現地でもインディアンジュエリーを制作するシルバースミス、アーティストとして高い評価を得ています。
もちろん素材にも強い拘りを持ち、使用するシルバー/銀は全てインゴッドシルバー(銀塊)から成形し、ターコイズ等の石も自身の手でカットしています。
また、そのシルバーも純度90.0%のコインシルバーを使用し、大変な手間を掛けています。それにより、長期間の着用による摩耗と酸化を経てとても硬くまろやかで触感に優れたジュエリーを実現させています。
【Ingot Silver】インゴットシルバー(銀塊)からの成形は、アンティークインディアンジュエリーにおいて非常に重要なファクターですが、銀含有率/品位とは関係なく、ジュエリーの製法技術を表します。
現在制作されている作品の多くは、材料として市販されているシルバープレート(銀板/ゲージ)を加工することでジュエリーとして成形されていますが、インゴットから成形する製法では一度溶かしたシルバーを、鍛冶仕事に近い方法であるハンマーやローラーで叩き伸ばすことでジュエリーとして成形していきます。
最終的にはどちらもプレートやバーの形態になるため、大きな差は無いように思われますが、インゴットから成形されたシルバーの肌は、硬くなめらかで鈍い光を持っています。
それにより生み出されるプリミティブで武骨な作品の表情は、やはりアンティークインディアンジュエリーの大きな魅力です。
また、1930年代にはシルバープレートが登場しますが、当時シルバープレートを用いて制作されたジュエリーは政府によりインディアンクラフトとして認定されず、グランドキャニオンなどの国立公園内で販売できなくなった記録も残っています。
【Coin Silver】コインシルバーとは、インディアンジュエリーにおいては銀含有率90.0%の地金を表します。
また、アメリカの古い硬貨における銀含有率は900ですが、日本では800~900や古い100円硬貨では600、メキシカンコインは950であり、900シルバーが最も多く使われていますが世界中で共通した純度ではありません。
同様に【Sterling Silver】スターリングシルバー=【925シルバー】は、銀含有率92.5%の地金であり、こちらは世界中で共通の基準となっています。
また『割金』と呼ばれる残りシルバー以外の7.5%には、銅やアルミニウム等が含まれています。(現在では、スターリングシルバーの割金は7.5%全てが銅と決められています) 925シルバーは熱処理によって時効硬化性をもち、細かな細工や加工に向いていたため食器や宝飾品等様々な物に利用されていますが、インディアンジュエリーにおいては、その初期に身近にあった銀製品、特にシルバーコインを溶かすことで、材料を得ていた背景があるため、現代でも限られた作家によりコインシルバーを用いる伝統が残されています。
シルバーの色味や質感は、『割金』や製法にも左右され、コインシルバー900とスターリングシルバー925の差異は純度2.5%の違いしかない為、見た目で判断するのは困難ですが、やはりコインシルバーは少し硬く、着用によってシルバー本来の肌が現れた時に、スターリングシルバーよりも深く沈んだ色味が感じられると思います。
さらに古い1800年代後半頃の作品では、メキシカンコインが多く含まれていたためか、そのシルバーの純度は95.0%に近くなっているようですが、身近な銀製品を混ぜて溶かしていた歴史を考えると純度に対してそれほど強い拘りはなかったことが推測されます。
本作もコインシルバーのインゴット(銀塊)を叩き伸ばすことで成形しており、全てのシルバーワークはどれもプリミティブで伝統的な技術となっていますが、そのデザインや丹念な仕上げ作業により、原始的な力強さとジュエリーとしての品位が両立されたブレスレットとなっています。
また、フロントからターミナル(両端)にかけて少しづつ細くなる造形もインゴットシルバーから成形された作品の特徴の一つと言えるかも知れませんが、このシェイプによって手首へのフィット感や馴染みが向上しており、厚みなども含め、肉感的な造形美はさり気なくも素晴らしい存在感を示します。
インディアンジュエリー古典期のヘリテイジ感と力強さ、そして洗練された造形美を感じることが出来る作品。アンティークピースではありませんが類似作品の発見は困難な独自性も持った貴重な作品となっています。
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コンディションも大変良好です。
シルバーのクスミや僅かなキズ、ハンドメイド特有の制作上のムラなどはありますが、ダメージの無い良好な状態を保っています。