【NAVAJO】ナバホのアンティークジュエリー、中央に象徴的に刻印された【逆卍】Whirling Log/Nohokosのスタンプワークが特徴的なピースで、ツーリストジュエリーながら全てハンドメイドで制作されたアンティーク/ビンテージバングルです。
また本作は、故Dennis June氏の著書『Fred Harvey Jewelry』の58ページで紹介されているピースそのもの(ON BOOK)です。※画像もご参照下さい。
当店ではDennis June氏との長きにわたるリレーションシップを持ち、大変懇意にして頂きました。
多くの事を学ぶ機会を頂き、今後も沢山のご協力を仰ぎたいと考えておりましたが、大変残念ながら2020年に永眠されております。
その後、同氏が1965年から経営したギャラリーを受け継いだご家族より、前述の著書に掲載されている作品の一部を譲り受けました。こちらもそれらの中の一つとなっております。
【Tourist Jewelry】ツーリストジュエリーや【Fred Harvey Style】フレッド・ハービースタイルと呼ばれる、20世紀前半のサウスウエスト観光産業の隆盛に合わせて作られた作品の一つと思われますが、そんなスーベニアアイテムの中でも全ての工程がハンドメイドで仕上げられた作品です。
制作工程に機械化や分業化が導入され、量産されたピースではなく、全ての工程を一人の職人が担当して制作された作品と思われます。
1930年代前後に作られた作品で、おそらくインゴットシルバー(銀塊)から成形されたバンドは、中央からターミナル(両端)にかけて少しづつ細くなるオーセンティックなシェイプとなっています。
そしてセンターには逆卍のスタンプが刻まれ、その中央に小さなラウンドカットのグリーンターコイズがマウントされています。
そのターコイズを留めるベゼル(覆輪)もツーリストジュエリーにおいて多くみられる既製の『ベゼルカップ』パーツではなく、シルバースミスが石に合わせて制作したディテールです。
さらに、その逆卍の両サイド部分には、ハンマーワークによって叩き出すリポウズ/バンプアウトと呼ばれる技術により、僅かなドーム状の曲面が生み出されており、さり気なくも奥行きを生み出す立体感が与えられています。
このようなディテールは、硬い木の土台やレッド(鉛)の塊にアール(曲面)の溝を彫り込んで、そこにシルバーを叩き添わせることによって曲面を作っています。
サイド~ターミナルにかけては、ツーリストジュエリーらしくもプリミティブで力強いスタンプワークが刻まれています。
それら、武骨で野性味のあるシルバーワークによってハンドメイド特有の表情や量産されたツーリストジュエリーにはない味わい深い表情を作り出しているようです。
造形スタイルやディテール等から、1932年創業の【BELL TRADING POST】ベルトレーディングポストや1923年により創業され多くのナバホやプエブロの職人が所属した有名工房【Maisel's Indian Trading Post】マイセルズ インディアントレーディングポストで制作されたものと推測されますが、ショップマークやホールマークは入らず詳細は不明となっています。
分業化・量産化を始める以前に全てハンドメイドによって制作された創業初期の作品であろうと思われ、それによりコインシルバー製である事も推定可能となっています。
卍 【スワスティカ】 Whirling Log 【ワーリングログ】について・・・
4つの【L】 『LOVE・LIFE・LUCK・LIGHT』 からなる幸福のシンボル卍(Swastikaスワスティカ)はラッキーシンボルとして当時よく使われていたモチーフです。
しかしながら、1933年のナチスドイツ出現、1939年にWW2開戦によりアメリカにおいては敵国ドイツのハーケンクロイツと同一記号は不吉だとして使われなくなってしまいました。当時の新聞記事にも残っていますが、インディアンたちにも卍が入った作品の廃棄が求められ、政府機関によって回収されたりしたようです。 その後、大戦中にも多くが廃棄されてしまった歴史があり、現存しているものは大変貴重となりました。
こちらはそのような受難を乗り越えて現存しているものです。
【Coin Silver】コインシルバーとは、インディアンジュエリーにおいては銀含有率90.0%の地金を表します。 また、アメリカの古い硬貨における銀含有率は900ですが、日本では800~900や古い100円硬貨では600、メキシカンコインは950であり、900シルバーが最も多く使われていますが世界中で共通した純度ではありません。
同様に【Sterling Silver】スターリングシルバー=【925シルバー】は、銀含有率92.5%の地金であり、こちらは世界中で共通の基準となっています。
また『割金』と呼ばれる残りシルバー以外の7.5%には、銅やアルミニウム等が含まれています。(現在では、スターリングシルバーの割金は7.5%全てが銅と決められています) 925シルバーは熱処理によって時効硬化性をもち、細かな細工や加工に向いていたため食器や宝飾品等様々な物に利用されていますが、インディアンジュエリーにおいては、その初期に身近にあった銀製品、特にシルバーコインを溶かすことで、材料を得ていた背景があるため、現代でも限られた作家によりコインシルバーを用いる伝統が残されています。
シルバーの色味や質感は、『割金』や製法にも左右され、コインシルバー900とスターリングシルバー925の差異は純度2.5%の違いしかない為、見た目で判断するのは困難ですが、やはりコインシルバーは少し硬く、着用によってシルバー本来の肌が現れた時に、スターリングシルバーよりも深く沈んだ色味が感じられると思います。
さらに古い1800年代後半頃の作品では、メキシカンコインが多く含まれていたためか、そのシルバーの純度は95.0%に近くなっているようですが、身近な銀製品を混ぜて溶かしていた歴史を考えると純度に対してそれほど強い拘りはなかったことが推測されます。
【Ingot Silver】インゴットシルバー(銀塊)からの成形は、アンティークインディアンジュエリーにおいて非常に重要なファクターですが、銀含有率/品位とは関係なく、ジュエリーの製法技術を表します。
現在制作されている作品の多くは、材料として市販されているシルバープレート(銀板/ゲージ)を加工することでジュエリーとして成形されていますが、インゴットから成形する製法では一度溶かしたシルバーを、鍛冶仕事に近い方法であるハンマーやローラーで叩き伸ばすことでジュエリーとして成形していきます。
最終的にはどちらもプレートやバーの形態になるため、大きな差は無いように思われますが、インゴットから成形されたシルバーの肌は、硬くなめらかで鈍い光を持っています。それにより生み出されるプリミティブで武骨な作品の表情は、やはりアンティークインディアンジュエリーの大きな魅力です。
また、1930年代にはシルバープレートが登場しますが、当時シルバープレートを用いて制作されたジュエリーは政府によりインディアンクラフトとして認定されず、グランドキャニオンなどの国立公園内で販売できなくなった記録も残っています。
本作も少し暗く渋いシルバーの質感が特徴的で、グリーンターコイズの静かでナチュラルな表情を含め、独特の味わいと深淵な奥行きを感じさせ、とても落ち着いた雰囲気のブレスレットとなっています。
また、そのような素朴なデザイン/造形とビンテージピースらしい質感は、ビンテージスタイルと素晴らしい相性ですが、性別を問わず多くのコーディネイトに馴染みやすく、長年にわたってご愛用頂ける作品です。
ツーリストジュエリー特有のキャッチーな印象と共に、アンティーク独特の表情を持ち、ナバホジュエリーの歴史を体感できるハンドクラフト/工芸品です。
前オーナーであるDennis June氏の研究対象であった来歴も含め、大変コレクタブルでトレジャーハントプライスな作品の一つとなっています。
◆着用サンプル画像はこちら◆
コンディションも良好です。
シルバーのクスミやベゼルに少し摩耗が見られます。また、ハンドメイド特有の制作時のムラなどは確認できますが、目立ったダメージはありません。
リポウズ/バンプアウト部分の内側に、僅かなロウ付け跡が確認できますが、これは制作中に出来たスタンプワークによるクラックを裏から補強している痕跡と思われ、しっかりとした強度を持っています。
【卍】の入るピースは戦後もほとんど着用されずに保管されていることが多く、現存数は少ないですが、コンディションの良い個体が多いことも特徴の一つです。