【NAVAJO】ナバホの中でも傑作を残している組織【The Navajo Arts & Crafts Guild】(NACG)=通称『ナバホギルド』で作られた作品。ナバホの精霊【Yei】イェイをモチーフとしたサンドキャスト成形のビンテージ/アンティークピンブローチです。
長い歴史を持つ製法による、伝統的なモチーフの作品となっていますが、エッジのしっかりとした造り等、ナバホギルドで作られた作品に共通する質の高いシルバーワークと、モチーフの素朴で愛らしい表情が魅力的な作品となっています。
内側には、ナバホギルドのホールマーク(作者やショップのサイン)である【Horned Moon】のみ刻印されている事などから、1940年代後半~1950年代頃の作品と思われます。
サンドキャスト(砂型鋳物)による成形で、素朴でプリミティブなピースながら【NAVAJO GUILD】ナバホギルドらしく、根源的な美しさや力強さが大変魅力的です。さらに、エスニシティなモチーフとそれに反してクリーンでモダンな表情も兼ね備えた作品となっています。
また、サンドキャストによる成形技術は、ナバホジュエリーの古典期から現在に至るまで大きく変わっておらず、その製法やデザインスタイルも長く受け継がれていますが、現在では多くが同一の『型』を使用した作品となってしまいました。
本作は、量産向けにパターン化された『型』によるピースではなく、作者のオリジナリティーを感じさせ、裏面の研磨等の仕上げ工程や厚みがありエッジのしっかりとした造り等、細部のディテールに1960年代以前のサンドキャスト作品に多くみられる上質感を持っています。
さらに、細部はスタンプワークによって描かれており、顔等の一部に限ったシルバーワークですが、大変効果的にスペシャリティを与えています。
また現在、こちらのようなイェイやホーンドムーン等、ホピ族やズニ族の精霊カチナとは異なるナバホ族独特の精霊をモチーフとして、サンドキャストで成形されたピースは現代にも受け継がれています。
中でも【Francis Jones】フランシス・ジョーンズや【Wilson Begay】ウィルソン・ビゲイ等が本作に類似した作品を制作しており、こちらはそれらの源流/デザインソースとなったビンテージ作品です。
【Yei】や【Yei-be-chai】は、ナバホ独特の精霊・神様で、今も儀式や砂絵で見ることが出来る大変重要な存在です。
自然現象を司り、病を治すヒーリング・セレモニー(儀式)ではメディスンマンが床に砂絵で描く図柄がイェイです。
ダンサーであったり卍/スワスティカを描いて登場することもあり、本作の様にレインボーマンに近い湾曲したシェイプで描かれることもあります。Yei-be-chaiは、イェイの仮面をつけて踊るダンサー(人間)の事を表しています。
【The Navajo Arts & Crafts Guild】(NACG)※以下ナバホギルドはインディアンアートの普及やクオリティーの保全、職人の地位向上等、【The United Indian Trader’s Association】(UITA)とも近しい目的の為に、ナバホのシルバースミス達の手によって組織されました。
中でもナバホギルドは、UITA等に比べナバホの職人主導で組織された団体で、大巨匠であるナバホのシルバースミス【Ambrose Roanhorse】アンブローズ・ローアンホース(1904-1982)が代表を務め、後進の育成や伝統的な技術の伝承、インディアンジュエリーのさらなる普及などを目的に1941年にギルドとして発足しました。
明確にはなっていませんが、U.S.NAVAJO/Indian Arts & Crafts Boardが1937年~1940年代の初め頃までしか見られないのも、第二次世界大戦の激化による影響だけではなく、どちらの組織においても重要な役割を担っていたAmbrose Roanhorseが、Navajo Guild/The Navajo Arts & Crafts Guildに注力したためではないかと考えられます。
ナバホギルドによる作品のスタイルは特徴的で、Ambrose Roanhorseの意図が強く働いた影響のためか、インゴットから作られたベースに、クリーンで構築的なスタンプワークをメインとしたデザインと、昔ながらのキャストワークによるピースが多く、どちらも回顧主義的なオールドスタイルでありながら、洗練された美しい作品が多く制作されました。
また、もう一つの特徴はその構成メンバーです。当時から有名で最高の技術を究めた作家が名を連ねています。
【Kenneth Begay】ケネス・ビゲイ、【Mark Chee】マーク・チー、【Austin Wilson】オースティン・ウィルソン、【Allan Kee】アレン・キー、【Ivan Kee】アイバン・キー、【Jack Adakai】ジャック・アダカイ、【Billy Goodluck】ビリー・グッドラック等、さらに、Ambrose Roanhorseの教え子の一人であるホピ族の【Louis Lomay】ルイス・ロメイもナバホギルドのメンバーだったようです。
さらに特筆すべきは、これだけ有名作家が揃っていながら【NAVAJO GUILD】のジュエリーとして制作されるものは、個人のホールマーク(署名/サイン)が認められていませんでした。
そのため、1941年の発足から1940年代の半ばごろまでは、まったくホールマークなどが記載されていないか、1943年以前には『U.S.NAVAJO 70』が用いられています。
その後、1943年に【Horned Moon/ホーンドムーン】と呼ばれる空を司る精霊をモチーフとしたシンボルがナバホギルドの象徴として商標登録されており、諸説ありますが1940年代後半頃からホールマークとして作品に刻印されるようになったようです。
1950年代以降になってからは『NAVAJO』の文字や、銀含有率92.5%の地金であることを示す『STERLING』の刻印が追加されていきます。
また、1940年代後半以降でもホールマークの刻印が刻まれていない個体も多く発見されています。
ナバホギルドの代表を務めた【Ambrose Roanhorse】は後進の育成にも熱心な作家で、1930年代からサンタフェのインディアンスクールで彫金技術のクラスを受け持っており、多くの教え子を持っていました。
サードジェネレーションと呼ばれる第3世代の作家ですが、さらに古い年代の伝統を重んじた作品を多く残し、独特の造形美や完成された技術は次世代に絶大な影響を与えた人物です。
また、【The Navajo Arts & Crafts Guild】 (NACG)ナバホギルドのピースは、アメリカ国内では非常に高い知名度を誇っていますが、それに比例せず、現存数がとても少ないことも特徴です。 コレクターのもとには一定数があると思われますが市場に出る個体は少なく、現在発見するのが大変困難になっています。
こちらの作品も前述のホールマーク 【Horned Moon/Horned Sun】が刻印されており、作者個人を特定することはできませんが、ナバホギルドらしいミニマルな造形と、比較的珍しい虹の形に造形されたイェイモチーフの作品であり、愛らしい印象も大変魅力的な作品となっています。
当時、インディアンジュエリー創成期のリバイバル作品制作をメインとしたナバホギルドですが、やはりその完成度や古典を踏襲しながら新しいクリエーションを含んだ作品群は、アンティークよりもクリーンで練り上げられた造形美を持っています。
そして現在、それらナバホギルドの残した作品群は、長く受け継がれるスタンダードなアイテムともなっており、本作はその代表的な例の一つです。
ヒーリングや調和を司るイェイモチーフはリラックス感を持ち、着用者にも癒しを与えるように感じられます。
キャッチーで可愛い印象とナバホジュエリーの武骨でエスニシティな表情を持ち、ラペルやハット以外にも多くのアイテムに馴染みの良いシンプルな作品です。
また、アイコニックなモチーフは、男性向けのアクセサリーには重要な要素である『ギャップ』と『遊び心』を与えてくれるアイテムであり、さり気なくスタイルに奥行きをもたらすことが出来るビンテージピンです。
ビンテージ工芸品としての趣を持ちながら、その完成度と明確な制作背景によりウェアラブルアートとして、さらにインディアンジュエリーの貴重な史料としても評価できる大変コレクタブルな作品の一つとなっています。
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コンディションも大変良好です。
シルバーのクスミやハンドメイドによる造形特有の僅かな制作上のムラが見られますが、使用感を感じさせないとても良好な状態を保っています。