【NAVAJO】ナバホのアンティークジュエリー、ナローなトライアングルワイヤー(竜骨型)のバンド/地金をベースに【逆卍】Whirling Log/Nohokosやアロー等のスタンプワークが刻まれた作品。このような幅のブレスレットにおいては珍しい大きめサイズのアンティーク/ビンテージバングルです。
【Tourist Jewelry】ツーリストジュエリーや【Fred Harvey Style】フレッド・ハービースタイルと呼ばれる、20世紀前半のサウスウエスト観光産業の隆盛に合わせて作られた作品の一つと思われますが、そんなスーベニアアイテムの中でも初期のピースと思われ、全ての工程がハンドメイドで仕上げられています。制作工程に機械化や分業化が導入され、量産されたピースではなく、一人の職人が全ての工程を担当し作り上げられた作品です。
1930年前後の作品と思われ、おそらくインゴットシルバー(銀塊)から成形されたトライアングル(竜骨型)ワイヤーは、独特な角度を持ったトライアングル/三角形の断面に成形されています。
それは現代の作品で多く使用されているコマーシャルワイヤー(既製の地金用シルバーワイヤー)には存在しない、頂点の角度が少し鈍角な三角形型の断面に成形されています。さらにそれは、市販されているトライアングルワイヤー(コマーシャルワイヤー)にスタンプを施した作品に比べ、スムースで独特な硬さが感じられます。
さらに、上下対称に逆卍やアロー等のスタンプワークが施されており、ターミナル(バングルの端)のエッジは丸く鞣されています。
これらの製法や造形スタイルからは、ツーリストジュエリーの中でも古い作品と推測する事が出来ます。また、初期のツーリストジュエリーである為、具体的なモチーフがアロー以外には見られず、スタンプ(鏨)は抽象的なモチーフとなっていますが、連続して構成されることでプリミティブな中に、どこか洗練された印象も感じさせます。
また、長い経年と着用による摩耗したシルバーは、良いコンディションとは言えませんが、鞣されたシルバーの表情は独特のなめらかで柔らかな質感を生み出しているようです。
造形スタイルやスタンプツール(鏨・刻印)等から、1923年により創業され多くのナバホやプエブロの職人が所属した有名工房【Maisel's Indian Trading Post】マイセルズ インディアントレーディングポストや、1935年創業の【BELL TRADING POST】ベルトレーディングポストで制作されたものと推測されますが、ショップマークやホールマークは入らず詳細は不明となっています。
分業化・量産化を始める以前に全てハンドメイドによって制作された創業初期の作品であろうと思われ、それによりコインシルバー製である事も推定可能となっています。
卍 【スワスティカ】 Whirling Log 【ワーリングログ】について・・・
4つの【L】 『LOVE・LIFE・LUCK・LIGHT』 からなる幸福のシンボル卍(Swastikaスワスティカ)はラッキーシンボルとして当時よく使われていたモチーフです。
しかしながら、1933年のナチスドイツ出現、1939年にWW2開戦によりアメリカにおいては敵国ドイツのハーケンクロイツと同一記号は不吉だとして使われなくなってしまいました。当時の新聞記事にも残っていますが、インディアンたちにも卍が入った作品の廃棄が求められ、政府機関によって回収されたりしたようです。 その後、大戦中にも多くが廃棄されてしまった歴史があり、現存しているものは大変貴重となりました。
こちらはそのような受難を乗り越えて現存しているものです。
【Arrow/Arrowhead】アロー/アローヘッドは、『お守り』の意味合いを持ちインディアンジュエリー創成期からみられる最古のモチーフの一つです。
【Ingot Silver】インゴット(銀塊)からの成形は、アンティークインディアンジュエリーにおいて非常に重要なファクターですが、銀含有率/品位とは関係なく、ジュエリーの製法技術を表します。
現在制作されている作品の多くは、シルバーゲージ/プレート(銀板)を加工することでジュエリーとして成形されていますが、インゴットから成形する製法では一度溶かしたシルバーを、鍛冶仕事に近い方法であるハンマーやローラーで叩き伸ばすことでジュエリーとして成形していきます。
最終的にはどちらもプレートやバーの形態になるため、大きな差は無いように思われますが、インゴットから成形されたシルバーの肌は、硬くなめらかで鈍い光を持っています。それにより生み出されるプリミティブで武骨な作品の表情は、やはりアンティークインディアンジュエリーの大きな魅力です。
また、1930年代にはシルバープレートが登場しますが、当時シルバープレートを用いて制作されたジュエリーは政府によりインディアンクラフトとして認定されず、グランドキャニオンなどの国立公園内で販売できなくなった記録も残っています。
【Coin Silver】コインシルバーとは、インディアンジュエリーにおいては銀含有率90.0%の地金を表します。 また、アメリカの古い硬貨における銀含有率は900ですが、日本では800~900や古い100円硬貨では600、メキシカンコインは950であり、900シルバーが最も多く使われていますが世界中で共通した純度ではありません。
同様に【Sterling Silver】スターリングシルバー=【925シルバー】は、銀含有率92.5%の地金であり、こちらは世界中で共通の基準となっています。また『割金』と呼ばれる残りシルバー以外の7.5%には、銅やアルミニウム等が含まれています。(現在では、スターリングシルバーの割金は7.5%全てが銅と決められています) 925シルバーは熱処理によって時効硬化性をもち、細かな細工や加工に向いていたため食器や宝飾品等様々な物に利用されていますが、インディアンジュエリーにおいては、その初期に身近にあった銀製品、特にシルバーコインを溶かすことで、材料を得ていた背景があるため、現代でも限られた作家によりコインシルバーを用いる伝統が残されています。
シルバーの色味や質感は、『割金』や製法にも左右され、コインシルバー900とスターリングシルバー925の差異は純度2.5%の違いしかない為、見た目で判断するのは困難ですが、やはりコインシルバーは少し硬く、着用によってシルバー本来の肌が現れた時に、スターリングシルバーよりも深く沈んだ色味が感じられると思います。
さらに古い1800年代後半頃の作品では、メキシカンコインが多く含まれていたためか、そのシルバーの純度は95.0%に近くなっているようですが、身近な銀製品を混ぜて溶かしていた歴史を考えると純度に対してそれほど強い拘りはなかったことが推測されます。
本作もインゴット独特のシルバーの質感はとてもなめらかで素晴らしい着用感を生んでいます。また、トライアングルの角度が鈍角な為、トライアングルワイヤー特有の重厚感は控えめですが、比較的幅があって高すぎない為に多くの作品と重ね付けに向いたボリューム感であり、単独でも程よい存在感を示します。
アンティークピースながら洗練された普遍的な造形美を持ち、ビンテージスタイルはもちろんですが、あらゆるスタイリングにフィットする汎用性を持ったバングルです。
また、前述のように控えめなブレスレットの中でこちらのような大きめのサイズのピースは、比較的珍しいサイズとなります。
クラシックな雰囲気と共にスタンプワークのクオリティなどには、武骨でワイルドなビンテージナバホジュエリーの魅力が詰め込まれています。
こちらのようなアンティークの良作は、ツーリストアイテム/フレッド・ハービースタイルジュエリーの中でも見つけるのが困難でコレクタブルな作品となっています。
◆着用サンプル画像はこちら◆
コンディションは、長期の着用による摩耗のためスタンプは少し薄くなっており、アンティークのハンドメイド作品の為、制作上のムラ等が見られますが、目立ったダメージは無く着用に不安のない状態です。