【NAVAJO】ナバホの巨匠 【Fred Thompson】フレッド・トンプソン(1921or1922-2002)の代表作の一つといえるビンテージネックレス。リンクされたタブパーツが、美しいプレート状に造形され、規則的なスタンプワークが施される事で、モダンでエレガントな造形を生み出しているブレストプレート/ビブネックレスタイプの作品です。
内側にはFred Thompson個人のホールマークのみが刻印されており、おそらく同作者のキャリア後半以降である1960年代末頃~1980年代頃に作られた作品です。
台形型を基本とした11個のタブパーツを丸環でリンクすることで美しい三日月型のブレストプレートが現れる造形です。厚いシルバーや全ての丸環のロウ付け等、細部まで綺麗で手の込んだシルバーワークによって形作られており、繊細な造形ながらナバホジュエリーらしい強さ・丈夫さを感じさせます。また、それぞれのタブパーツには規則的にライン模様を刻むスタンプが刻まれており、Fred Thompsonらしくナバホジュエリーらしくもあるデザインとなっています。さらに、5か所にはさりげなくも存在感を示すターコイズがマウントされており、クラシックでシンプルな造形に美しいアクセントとなっています。
そしてまた、ブレストプレート部分にはシェイプ全体に柔らかなアールがつけられていることで、独特な上質感や立体的な迫力が与えられています。非常に卓越したハンマーワークにより、フロント部分は強く両サイドに向けてフラットになるように立体的な膨らみが与えられています。これらは、木(丸太)やレッド(鉛の塊)に施された凹みに、地金となるシルバーをハンマーで叩き沿わせることによってドーム状の膨らみを作り上げており、非常に細かく何度もタガネで叩き沿わせる高度なハンマーワークで成形されています。
それらの立体的な造形やタブパーツの連結によって、デコルテの微妙な曲面に添うように造形されており、手の込んだ設計やシルバーワークからは、作者の拘りと確かな技術が感じられます。
プレートの上部を繋ぐシルバーチェーン部分も大変手の込んだシルバーワークとなっています。スクエアワイヤーを捻ることで作り出すツイステッドワイヤーと伝統的な製法によるハンドメイドチェーンにより構成され、このようなチェーンは、棒や細い板にシルバーワイヤーをコイル状に巻き付け、それをカットして一コマ一コマを丁寧にロウ付けし、つなぎ合わせることでチェーンにする伝統的な技術によって形作られています。
【Fred Thompson】 フレッド・トンプソンは、1920年代初頭に生まれ、10代の中頃(1930年代中頃)にはニューメキシコ州ギャラップに今も現存するトレーディングポスト【TOBE TURPEN'S TRADING POST】トーブ・トーペン(現Perry Null Trading)でシルバージュエリーの制作に携わっていたようです。
若いころから卓越した技術を身に付け、ナバホのトラディショナルなスタイルの作品を残しました。また、TOBE TURPEN'Sは古くから多くのシルバースミスの作品を扱うトレーディングポストであり、現在も同様のスタイルを守り続ける有名店ですが、Fred Thompsonの作品以外にショップのホールマークである『TT』の刻印を見ることはありません。それは、同氏が所属アーティストとして特別な存在であったことを推測させます。
1960年代末~1970年代頭頃には、TOBE TURPEN'Sから独立してギャラップの少し西にあるチャーチロックという小さな町で自身の店を持っていたようです。また、非常に多くのシルバースミスを指導したことでも有名であり、後進のシルバースミスに多大な影響を与えた作家の一人です。
アメリカの偉大な画家である【R. Brownell McGrew】(1916–1994)は、インディアンの肖像なども多く描き、インディアンジュエリーのコレクターとしても非常に有名な人物ですが、現存している自身のポートレートでFred Thompsonが制作したブレスレットを身に付けています。さらに、UITA6=Borrego Pass Trading Postと共にFred Thompsonのホールマークが刻まれた作品も発見されています。
ナバホの伝統を重視したオールドスタイルと、ハイグレードなターコイズを用いた作品を多く残したことで評価の高いフレッド・トンプソンですが、製作したジュエリーのスタイルは幅が広く、創造性も高かった作家です。また、現代ではトラディショナル/オールドスタイルと呼ばれるようなデザイン/造形のいくつかは氏が生み出した、もしくは確立したスタイルだと思われ、多くの教え子がシルバーワークの技術とともにそれらのデザインスタイルやディテールを受け継いだ結果、氏の制作したスタイル自体がナバホのオールドスタイルと呼ばれるようになりました。
残念ながらFred Thompsonは1980年代末~1990年代初頭には引退し、2002年に亡くなられています。
また、同作者のホールマークについては、『~』ティルドマークが知られておりますが、逆S字(~)の刻印と、それに対し鏡写しとなった本作と同じS字のマークが存在しています。それらのホールマークが刻印された作品の造形スタイル・作風に違いがあり、異なった作者である可能性について問い合わせを受けることがありますが、本作がその回答と成り得るかと考えております。
現在発見されている作品の中に、本作の様にS字のホールマークでもFred Thompsonの代表作や独自性を感じさせる作品が少数ながら発見されており、逆S字でFred Thompsonの作風と異なった作品も数多く見られます。また、逆S字・S字共に僅かに形状の異なった刻印も存在していますが、サイズや形状がほぼ一致して鏡写しになっている事などから、おそらくどちらもFred Thompson本人の作品であり、制作された年代の違いにより、ホールマークも変遷しているものと思われます。
同作者が長く所属した【TOBE TURPEN'S TRADING POST】トーブ・トーペン トレーディングポスト(現Perry Null Trading)を表す『TT』の文字が同時に刻印される1960年代末以前の作品では、全て逆S字の『~』刻印となっており、それらの作品の方が上質な石が使用され、Fred Thompsonらしいデザイン・造形の作品が多いように感じられます。しかしながらS字となったホールマークの作品でも本作の様に質の高いシルバーワークの作品が散見され、少し年代が新しい分、モダンでクリーンなデザインや1970年代のトレンドに影響を受けた作品が多くなっているようです。
アメリカ国内のギャラリーやトレーダーの間では、ホールマークの違いは議論も話題になる事さえもなく、差異が認識されていないようです。サンプルとなる作品数も少ないので仕方のない事ですが、どちらのホールマークもFred Thompsonの作品として流通しています。
また本作は、Fred Thompsonの代表的な造形スタイルの一つであり、類似した造形のネックレスが幾つか制作されていますが、それらの作品群は上記の双方のホールマークが混在しています。
『ブレストプレートネックレス』や『ビブネックレス』等とも呼ばれる造形スタイルの作品であり、女性のデコルテを彩るエレガントなジュエリーとなっていますが、卓越した技術による品位と共に、天然石の表情によってビンテージインディアンジュエリーらしい質感と深遠な奥行きも感じられる作品となっています。
そのナバホジュエリーらしくもモダンでソリッドな印象と有機的なシェイプにより、女性の装いにナチュラルな感性と華やかなアクセントを与えてくれます。また、タブパーツが連結した造形により柔らかくデコルテにフィットし、エレガントに揺れる動きのある作品です。
クラシックで完成されたデザインや手の込んだシルバーワークを含め、非常にハイエンドなピース。 ミッドセンチュリー期に活躍した最高峰の作家の一人であるFred Thompsonの作品であり、史料価値も高いビンテージジュエリーです。
◆着用サンプル画像(10枚)はこちら◆
コンディションは、全体に少しクスミが見られる程度で使用感少なく良好なコンディションです。
ターコイズも石の動きやクラック等のダメージは無く、母岩部分には多少の凹凸が見られますが現在も艶のあるとても良い状態を保っています。