【PUEBLO】プエブロ・【NAVAJO】ナバホの作家が在籍したインディアンクラフトショップ【GARDEN OF THE GODS TRADING POST】ガーデンオブザゴッズトレーディングポストで作られた作品で、素晴らしいクオリティとオリジナリティを持つ作品を残した同工房の中でも突出したスペシャリティを持つミュージアムクオリティのピース。センターには、ランバスシェイプ/ダイヤモンド型にカットされたターコイズがマウントされ、ワイヤーワークや力強いスタンプワーク等手の込んだシルバーワークによって構成されたアンティーク/ビンテージバングルです。
内側に刻印されている『HAND MADE BY INDIANS』と『SOLID SILVER』の表記により1930年代中頃に同トレーディングポストで作られた作品と判断できます。また、当時作られた同工房の銀製品は全てコインシルバーとされており、本作もコインシルバー(品位900=90.0%の純度)で作られています。
インゴットコインシルバー(銀塊)から成形されたバンド/地金は、同工房の多くの作品に比べ厚みがあり重厚に仕上げられています。また、『スプリットバンド』と呼ばれる伝統的な造形で3本に割り開かれていますが、サイドからではなくターミナル(両端)近くから大胆に長く割り開かれており、フロントに向けて少しづつ幅が広く造形されています。そして、センターにはダイヤモンド型にカットされたワイルドな表情のターコイズがマウントされ、そのベゼル(覆輪)は既製のパーツではなく厚いシルバーからハンドメイドで作られた柔らかな雰囲気を持つノッチドベゼル(刻みを持つ覆輪)となっています。両サイドにはワイヤーワークやシルバーボール、そしてスタンプワークの刻まれたファンシェイプ/扇型のアップリケが配されています。
さらに、全体にほとんど隙間なく力強いスタンプワークが刻まれており、ターミナル部分には同工房の作品で散見されるサンダーバードのデザインが施されています。また、それらのスタンプワークによる文様と呼応して、上下のエッジ部分には『ファイルワーク』と呼ばれるヤスリによる立体的な刻みが施されており、作品に動きとコントラストを与えているようです。
ナバホジュエリーのオーセンティックな技術やディテールで構成された作品ですが、そのデザインや表情にはプエブロインディアンの美意識や様式も感じられる作品となっています。GARDEN OF THE GODSで制作された作品群の多くとは全く違ったクオリティとデザイン・造形を持つ作品となっていますが、稀に同工房に所属した有名作家の作品においては、例外的なオリジナリティと質を持ったピースが残されており、本作もそんな貴重な作品の一つとなっています。
セットされたターコイズは摩耗により少しマットな質感になっていますが、今も美しい色相と発色を保つ石で、マトリックスとそのマトリックスに由来する凹凸を持ち、非常にワイルドな表情のターコイズです。
古い作品の為、その鉱山を特定することは出来ません。しかしながら北米産のナチュラル無添加ターコイズであり、アンティークらしい経年は感じさせますが、上質なターコイズとなっています。
【Thunderbird】サンダーバード はインディアンジュエリーの伝統的なモチーフの一つで、伝説の怪鳥であり、雷や雲、ひいては雨とつながりが深く幸福を運んでくるラッキーシンボルでもあります。 ジュエリーでは、限界の無い幸福を表すシンボルであり、ネイティブアメリカンの守り神的存在です。
【GARDEN OF THE GODS TRADING POST】ガーデンオブザゴッズトレーディングポストは、もともとFred Harvey Companyで働いていた【Charles E. Strausenback】チャールズ・E・ストローセンバックが、1920年にコロラド州Pike's Peakの国立公園『ガーデンオブザゴッズ』で始めた観光客向けのインディアンアートショップです。
多くの優秀なプエブロインディアン作家を擁し、ナバホのオールドスタイルをベースにしながらも、プエブロスタイルを積極的に取り入れたミックススタイルが特徴的な工房です。所属していたのは、インディアンジュエリー創成期の最もクリエイティブな作家の一人として知られるサン・イルデフォンソの【Awa Tsireh】アワ・シーディー(1898-1955)をはじめ、ナバホの【David Taliman】デビッド・タリマン(1902or1901-1967)、他にも【Epifanio Tafoya】【William Goodluck】【John Etsitty】等、プエブロ・ナバホの中でも、後に偉大なアーティストとして知られる多くの作家達であり、それぞれが独創的なスタイルを生み出し、沢山の傑作を送り出したインディアンアートショップです。
GARDEN OF THE GODSも1900年代以降のサウスウエスト観光産業の隆盛により創業された「スーベニア(記念品)ビジネス」と言う意味では、【Fred Harvey Style】フレッド・ハービースタイルと呼ばれるジャンルにカテゴライズされている【BELL TRADING POST】や【Maisel's Indian Trading Post】、【Arrow Novelty】等の分業化や機械化を進めインディアンクラフトの量産化を図ったメーカー/Manufacturersと同じスタートを切っていますが、インディアンアートショップとして古い伝統技術や製法を守り、独自性を持ちながら工芸品/アートピースとしての制作が行われており、上記の様なフレッド・ハービースタイルのプロダクト製品とは一線を画す存在です。しかしながら、当時とても新しいかったポップなスタイルを持つAwa Tsirehの作品が、お手本として【BELL TRADING POST】をはじめとする量産メーカーに模倣されたことや、【Fred Peshlakai】の作品、【C. G. Wallace】で作られたデザイン/造形が上記のようなメーカーのデザインソースとなったことによりGARDEN OF THE GODS TRADING POSTやFred Wilson's Indian Trading Post、Southwestern Arts and Crafts等の分業や量産化を図っていない工房の作品もフレッド・ハービースタイルと混同されることになってしまいました。
1940年代には、コロラド州ガーデンオブゴッドとコロラドスプリングス、そしてアリゾナ州フェニックスにも店舗を展開しますが、1956年頃にCharles E. Strausenbackが亡くなっており、その後は妻がビジネスを引き継いでいたようですが、1979年にはビジネス自体が買収されました。そのため、ジュエリー等の制作は1950年代頃までだったと思われます。
また、同店はコロラド州にある神々の庭/Garden of the Godsにて、現在もヒストリックなトレーディングポストとして当時の姿を残して土産物店・カフェとして運営されています。
【Ingot Silver】インゴットシルバー(銀塊)からの成形は、アンティークインディアンジュエリーにおいて非常に重要なファクターですが、銀含有率/品位などの素材とは関係なく、ジュエリーの製法技術を表します。
現在制作されている作品の多くは、材料として市販されているシルバープレート(銀板/ゲージ)を加工することでジュエリーとして成形されていますが、インゴットから成形する製法では一度溶かしたシルバーを、鍛冶仕事に近い方法であるハンマーやローラーで叩き伸ばすことでジュエリーとして成形していきます。最終的にはどちらもプレートやバーの形態になるため、大きな差は無いように思われますが、インゴットから成形されたシルバーの肌は、硬くなめらかで鈍い光を持っています。それにより生み出されるプリミティブで武骨な作品の表情は、やはりアンティークインディアンジュエリーの大きな魅力です。
また、1930年代にはシルバープレートが登場しますが、当時シルバープレートを用いて制作されたジュエリーは政府によりインディアンクラフトとして認定されず、グランドキャニオンなどの国立公園内で販売できなくなった記録も残っています。
こちらの作品に刻印されている『SOLID SILVER』は、無垢の銀製と言う意味で、メッキでないことを表しており、インゴットシルバーであることを表してはいませんが、当時のGARDEN OF THE GODSの作品は、全てがインゴットシルバーからハンマーで叩くことで成形されており、こちらの作品が制作された時期のピースは、全てコインシルバー(銀含有率90.0%の地金)が使われていたとされています。
【Coin Silver】コインシルバーとは、インディアンジュエリーにおいては銀含有率90.0%の地金を表します。 また、アメリカの古い硬貨における銀含有率は900ですが、日本では800~900や古い100円硬貨では600、メキシカンコインは950であり、900シルバーが最も多く使われていますが世界中で共通した純度ではありません。
同様に【Sterling Silver】スターリングシルバー=【925シルバー】は、銀含有率92.5%の地金であり、こちらは世界中で共通の基準となっています。また『割金』と呼ばれる残りシルバー以外の7.5%には、銅やアルミニウム等が含まれています。(現在では、スターリングシルバーの割金は7.5%全てが銅と決められています) 925シルバーは熱処理によって時効硬化性をもち、細かな細工や加工に向いていたため食器や宝飾品等様々な物に利用されていますが、インディアンジュエリーにおいては、その初期に身近にあった銀製品、特にシルバーコインを溶かすことで、材料を得ていた背景があるため、現代でも限られた作家によりコインシルバーを用いる伝統が残されています。
シルバーの色味や質感は、『割金』や製法にも左右され、コインシルバー900とスターリングシルバー925の差異は純度2.5%の違いしかない為、見た目で判断するのは困難ですが、やはりコインシルバーは少し硬く、着用によってシルバー本来の肌が現れた時に、スターリングシルバーよりも深く沈んだ色味が感じられると思います。
さらに古い1800年代後半頃の作品では、メキシカンコインが多く含まれていたためか、そのシルバーの純度は95.0%に近くなっているようですが、身近な銀製品を混ぜて溶かしていた歴史を考えると純度に対してそれほど強い拘りはなかったことが推測されます。
本作もインゴットコインシルバーから成形されたインディアンジュエリーの歴史を感じさせる作品です。非常に手間のかかるディテールが惜しげなく盛り込まれ、作者の信念や美意識が宿っているようにも感じられます。また、そんな時間と技術が注がれたシルバーワークは味わい深く、奥行きがあり武骨ながらどこかエレガントで工芸品としてだけではなくジュエリーとしての品位を有しています。
アップリケやワイヤーワークだけでなく、スタンプワークやファイルワーク等、全て立体造形物として素晴らしい完成度を持ち、その複雑な表情は見る角度や装着するスタイルによって変化するように感じられます。
GARDEN OF THE GODS TRADING POST/ガーデンオブザゴッズトレーディングポストの個体は、ツーリストジュエリーとして作られた作品ながら、アンティーク工芸品としても評価されていますが、中でも本作の様なスペシャリティを持った個体はヒストリックであり、ミュージアムクオリティを誇る作品の一つとなります。
◆着用サンプル画像(10枚)はこちら◆
コンディションは、シルバーのクスミや僅かなキズ等が見られる程度で使用感の少ない状態です。ターコイズには画像のように天然石に由来する母岩部分の凹凸がありますが、ガタつき等はなく着用に不安のないコンディションとなっています。