【Hopi】ホピの巨匠【Lewis Lomay】ルイス・ロメイ(1913-1996)による作品。ファイルワークと呼ばれる削る技術とスタンプワークを駆使して形作られた立体的な動きのある細いトライアングルワイヤーをベースとして、フロント部分にシルバードロップ/シルバーボールが羅列されたアンティーク/ビンテージバングルです。
左右非対称に造形されたトライアングルワイヤーのフロントをハンマーワークによってフラットに叩き伸ばし、そこにサイズグラデーションが美しいシルバードロップが配されています。
ナバホジュエリーの伝統を継承しながらも細部には作者の独自性や卓越した技巧が光る作品です。
内側の左右に刻印されたスネークモチーフと『L.L.』のホールマーク(作者や工房のサイン)により、1960年代~1970年代頃に作られたと思われる作品で、同作者の長いキャリアの中では後期の個体と思われます。
多くのエレガントな造形美を生み出し、卓越した彫金技術を有した同作者ならではのシンプルながら繊細で精巧な造形と高い完成度を誇るブレスレットです。
インゴットシルバー(銀塊)から成形されたと思われるバンド/地金は、細いトライアングルワイヤー(断面が三角形のシルバーワイヤー)をベースとして、左右非対称にスタンプワークが刻まれています。
そして、それらスタンプワークのデザインに呼応し、ファイルワークによって立体的に彫り込まれた刻みや角度が施される事で、左右非対称なデザインが強調され、オーセンティックなトライアングルワイヤーとは異なった複雑な表情が与えられています。
このスタンプワークやファイルワークは、トライアングルワイヤーの造形に変化をもたらし、見る角度によって異なったイメージを感じさせ、360度どこから見ても美しい造形美を持っています。
またフロント部分は、ハンマーによって叩き伸ばされる事で、通称『フラットトップ』と呼ばれる造形が形作られ、そのフラットに造形したフロント部分に、雨粒がモチーフともいわれるシルバードロップ/ボールが羅列されています。
さらに、それらのシルバードロップは前述のようにサイズグラデーションとなっており、さり気ないディテールながらバングルのクラシックな印象や上質な表情を生み出す重要な役割を果たしているようです。
【Lewis Lomay】(Lewis Irvin Lomayesva)ルイス・ロメイは、現代においても非常に高い評価を受ける作家の一人で、ホピの作家としては【Ralph Tawangyawma】ラルフ・タワンギャウマ(1894-1972)や【Morris Robinson】モリス・ロビンソン(1901-1984)の様にナバホのオールドスタイルを踏襲し、独自性の強い作品を生み出したまぎれもない天才の一人です。
1913年(又は1914年)、アリゾナ州オライビというとても小さな村に生まれ、幼少期には絵画等を学びました。
1929年にはアルバカーキのインディアンスクールに入学、その3年後にはサンタフェインディアンスクールにて、ナバホの巨匠【Ambrose Roanhorse】アンブローズ・ローアンホース(1904-1982)の彫金クラスを受講、そこでシルバーワークの基礎を学んだようです。
そのクラスでは、先生であるAmbrose Roanhorseのスタイルや現存するルイス・ロメイの作品からトラディッショナルでプリミティブな技術を守る質実剛健なシルバーワークが教えられていたことが推測できます。
その後、1930年代前半頃にペインター/絵描きとして【Frank Patania Sr】フランク・パタニアの経営する【Thunderbird Shop】サンダーバードショップで働きました。 そのころは、1日1ドル程度の給与だったようですが、毎日の食事やアパートの家賃はFrank Pataniaが負担していたようです。
1年後には、Lewis Lomayのシルバーワークの才能にFrank Pataniaが気付き、ペインターとしてではなく、シルバースミスとしての仕事や道具が与えられました。
そして、Frank Pataniaによりそのモダンなスタイルや新しい技術を享受されたようです。 当時、【Joe H. Quintana】ジョー・キンタナ(1915-1991)や【Julian Lovato】ジュリアン・ロバト(1925-)等と共に制作していたと言われています。
彼らは共通して高い独自性とインディアンジュエリーの伝統的で素朴な強さを持ちながら、新しい価値観や実験的な造形を生み出し、品位を感じさせる作品を多く残しました。
それぞれに強い個性を持っていますが、どこか共通する美意識を感じるのも特徴です。
第二次世界大戦中の1942年には、Thunderbird Shopを辞め、飛行機工場で働きました。
戦後は、サンタフェに戻り1946年に【Hopi Indian Jewelry Shop】をオープンしますが、当時はインディアンジュエリーの需要が落ち込んでいたため閉店を余儀なくされました。
その後は、ハウスペインター等の仕事をしながらシルバージュエリーの制作を並行して進めていたようです。
1947年以降には、アートショーにも積極的に出展し多くのアワード受賞リボンと共にシルバースミスとしての名声を獲得しました。
その後、1960年代~1970年代にはサンタフェのインディアンクラフトショップ【Rainbow Man】レインボーマンに作品を供給していたようです。
長いキャリアにおける作品の多くは、伝統的で力強く原始的なシルバーワークをベースに、独特の曲線的で流麗な造形を持ったピースが多く見られます。
しかしながら、ホピジュエリー独特のモチーフを落とし込んだオーバーレイの作品や、ポップな印象のあるボロタイやピン、Frank Pataniaの影響を強く感じさせる植物をモチーフにした作品等、多岐にわたるシルバーワークを駆使した美しい作品を残しています。
【Ingot Silver】インゴットシルバー(銀塊)からの成形は、アンティークインディアンジュエリーにおいて非常に重要なファクターですが、銀含有率/品位とは関係なく、ジュエリーの製法技術を表します。
現在制作されている作品の多くは、材料として市販されているシルバープレート(銀板/ゲージ)を加工することでジュエリーとして成形されていますが、インゴットから成形する製法では一度溶かしたシルバーを、鍛冶仕事に近い方法であるハンマーやローラーで叩き伸ばすことでジュエリーとして成形していきます。
最終的にはどちらもプレートやバーの形態になるため、大きな差は無いように思われますが、インゴットから成形されたシルバーの肌は、硬くなめらかで鈍い光を持っています。それにより生み出されるプリミティブで武骨な作品の表情は、やはりアンティークインディアンジュエリーの大きな魅力です。
また、1930年代にはシルバープレートが登場しますが、当時シルバープレートを用いて制作されたジュエリーは政府によりインディアンクラフトとして認定されず、グランドキャニオンなどの国立公園内で販売できなくなった記録も残っています。
本作もプリミティブでネイティブアメリカンジュエリーの伝統的な技術だけで作り上げられたハンドメイドジュエリーですが、Lewis Lomayの美意識を宿す唯一無二のオリジナリティと普遍的な造形美が魅力的な作品。ビンテージ作品ながら、シンプルでクリーンな印象と独特な二面性を備え、現在でも新鮮に感じられるブレスレットです。
また、本作の様なファイルワークやスタンプワークを駆使した流麗で立体的な造形を作り出す造形スタイルは、同作者の代表的な造形・デザインですが、その現存数は非常に少なくほとんど実物を見ることが出来ない貴重なピースともなっています。
シルバードロップが羅列されたエスニシティな印象とシルバーのみで構成されたソリッドでエッジーな質感は、相反するイメージを内包させながら、多くのスタイルにフィットする高い汎用性を示します。
細い幅は日常的な装いから特別なコーディネイトにまで馴染みやすく、他のブレスレットとの重ね付けにも向いたボリューム感です。
また細身ながら厚みのある造形の為、単独でもしっかりとした存在感を示し、洗練された造形美によって長年にわたってご愛用いただけると思われます。
作者のネームバリューのみでなく、その独創性や卓越したシルバーワークにより、アートピース・ウェアラブルアートとしても高く評価される作品。高い希少価値を持ち、非常にコレクタブルなブレスレットとなっています。
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コンディションも大変良好です。
シルバーのクスミやハンドメイド特有の制作上のムラは見られますが、全くダメージの無い状態を保っています。