【Hopi】ホピの偉大な作家である【Ralph Tawangyaouma】ラルフ・タワンギャウマ(1894-1972)によって作られた事が推定可能な作品で、美しいターコイズをメインとしながらも同作者らしい両サイドのアップリケが特徴的なアンティーク/ビンテージリングです。
本作にはホールマーク(サイン)が刻印されていませんが、過去に見つかっているRalph Tawangyaoumaの作品と全く同一のスタンプツール(鏨・刻印)が使用されており、作者を特定することが可能となっています。
本作に使用されているスタンプツールは、インディアンジュエリーにおいて珍しいデザインではありませんが、作者自身が作成しているツールの為、一部にハンドメイド特有のエラーやデザインの独自性が見られ、作者の特定を可能にしています。
1940年代~1950年代頃の作品と思われ、同作者の非常に長いキャリアにおける中期以前の作品と推測されます。
ホピ族のシルバースミスによって作られた作品ですが、まだナバホジュエリーと差異のない伝統的な技術・技法によって作られています。
ただしRalph Tawangyaoumaの作風や独自性を知っていれば、一見してその作者が思い浮かぶディテールを持ち、素晴らしいオリジナリティを感じることが出来るピースとなっています。
おそらくインゴットシルバー(銀塊)より成形されたシャンク(地金)は、フロントが2本に割り開かれた『スプリットシャンク』と呼ばれる伝統的なスタイルに造形されており、サイドからフェイスに向けて自然な流れを作り出しています。
フェイスにはオーバルシェイプにカットされた美しいターコイズがマウントされ、そのベゼル(覆輪)の外側には、2本のワイヤーが撚り合わされたツイステッドワイヤーが施されています。
そして、本作の作者が特定できるディテールである立体的なドームシェイプを持ったアップリケが石の両サイドに配されており、シャンクからベゼルに至るまで大胆にアップリケされています。
この一見オーセンティックながら独特なシルバーワークにより、特別な立体感や造形的な広がりが与えられており、あらゆる角度から美しく見える立体造形作品となっています。
マウントされたターコイズは、深いグリーンと水色の2TONEカラーが美しい【Royston Turquoise】ロイストンターコイズと思われます。
強い艶や照りも非常に素晴らしく、比較的硬度に欠けると云われるロイストンターコイズですが、こちらの石はとても高い硬度を感じさせます。
ブラウンのマトリックスや柔らかなカラーのグラデーションも見られ、神秘的なグリーンを基調としながら、少しワイルドで複雑な表情も生み出されています。
ブルーターコイズの様な華やかさは有りませんが、とてもシックで落ち着いた表情を有し、色々なコーディネイトに馴染みやすいリングとなっています。
シャンクの内側に施された『STERLING』の刻印については、銀含有率92.5%の地金であることを示す表記であり、1930年代初頭頃には登場していました。
ただし、ショップやトレーディングポストにおいて多用されるようになったのは戦後である1940年代後半以降のようです。
本作の様に1940年代以前に作られたジュエリーでも散見されますが、第二次世界大戦中の金属需要が影響したと推測され、1940年代末以降の作品で非常に多くみられるようになりました。
『925』の表記も同じ意味を持っていますが、925の刻印はインディアンジュエリーにおいては非常に新しく採用された刻印であり、そのほとんどが1990年代以降の作品に刻印されています。
主にイギリスの影響を受けた国において『STERLING』、それ以外の国において『925』の表記・刻印が使用されています。
Sterling Silver/スターリングシルバー=925シルバーは、熱処理によって時効硬化性をもち、細かな細工や加工に向いている為、現在においても食器や宝飾品等様々な物に利用されています。
【Ralph Tawangyaouma】ラルフ・タワンギャウマは、1894年にアリゾナ州北部のオライビに生まれ、クラン(母系の氏族を表す動物)はヤングコーン。少年時代である1906年の【The Oraibi split】オライビ スプリットによってさらに北部であるホートビラ=バカビに移住しています。
※【The Oraibi split】オライビ スプリットとは、1800年代後半からスペイン人の入植と共に宣教師がホピ族の村であったオライビにも布教を進め、政府の介入によりホピの子供たちに学校教育を強要しようとします。
1906年、それらアメリカ政府の方針に従った住民と、反対した住民が対立・分裂してしまった出来事。その後、反対派住民の多くはオライビを追われ、当時は何もなかったホートビラ=バカビに移り苦難の末に定住しました。
1906年前後という氏がまだ10代前半のころにはすでにシルバースミスとしてのキャリアをスタートさせていたとされています。
1930年代~1950年代にかけては、【VAUGHN'S INDIAN STORE】ヴァーンズインディアンストアや【Fred Wilson's Indian Trading Post】フレッド・ウィルソンズ インディアントレーディングポストに所属し多くの傑作を残しており、Vaughn's Indian Storeでは、【Fred Peshlakai】 フレッド・ぺシュラカイ(1896-1974)や【Morris Robinson】モリス・ロビンソン(1901-1984)とも同時期に在籍しており、それぞれにナバホの伝統的なスタイルをベースに強い独自性を持った作品を生み出しています。
その時期に彼らが互いに影響しあうことで生まれた技術やデザインには、現在ではトラディショナルなスタイルとして残るものも多く存在すると思われます。
特にラルフ・タワンギャウマは、一つの作品において異なった技法を組み合わせたり、ホピ独特のモチーフをジュエリーに多く取り入れ、その後生まれるオーバーレイ技法によるホピの特徴的なジュエリーにも多大な影響を与えているようです。
また、その多岐にわたるジュエリーに関する技術は、ホピの職人ではとても珍しいインレイワークにもおよび、独特なツイステッドワイヤーや繊細なワイヤーワーク等、非常に卓越した技術によって多くの造形スタイルを実践・確立していました。
1964年には自身が育った故郷であるホートビラに戻りますが、ジュエリーの制作は少しづつ継続していたようです。そして1972年11月に亡くなられています。
本作ではホールマーク(サイン)の刻印は見られませんが、同作者のホールマークは、『サンダークラウド』(レインクラウド/雨雲にサンダー/稲妻)のデザインで、HOPIの頭文字『H』と共に刻印されているものが多く見つかっています。ホピのシルバースミスとしては、最も早くホールマークを使用した作家だとされています。
本作はナバホの古典的な技術によって構成されたトラディショナルなスタイルの作品ですが、強いドームシェイプのアップリケとその配置・装飾だけで同作者を想起させ、多くのクラシックなリングと一線を画す個性が生み出されており、さり気なくも大変大きなスペシャリティとなっています。
緻密でありながら力強く端正なシルバーワークと上質で味わい深いターコイズの織りなす造形美やアーシーな魅力は、長い年月を経ていまだその存在感と威厳を失っていません。
また、経年による迫力と柔らかく自然を切り取ったようなターコイズの表情によって、クラシックでエレガントな印象も併せ持つ作品であり、ビンテージスタイルとの相性はもちろん素晴らしいリングですが、豊かな表情と使い込まれた質感は、性別やスタイルを問わずナチュラルに馴染みやすいリングです。
アンティークジュエリーの中でもリング/指輪は、使用による摩耗や紛失などにより消費され、現存数が少なく大変希少なアイテムです。
中でも本作はインディアンジュエリー史に多大な影響を与え、当時は全く新しかったシルバーワークやデザイン/造形を生み出した【Ralph Tawangyaouma】ラルフ・タワンギャウマという偉大な作家の独創性と素晴らしい造形センスを感じ取ることが出来る非常にコレクタブルでトレジャーハントプライスなピースの一つとなっています。
◆着用サンプル画像はこちら◆
コンディションも大変良好です。
細かなキズやシルバーのクスミ、ハンドメイド作品特有の制作上のムラ等は見られますが、使用感は少なく非常に良い状態を保っています。
また、ターコイズも長い時間を経てなお高い艶と照りを保っており、ダメージのない素晴らしいコンディションを保っています。
マトリックス部分には凹凸が見られますが、それらは天然由来の特徴でありダメージではありません。