【NAVAJO】ナバホのビンテージジュエリー、サンドキャストで成形された美しいデザインの作品。大胆にクロスの造形をフェイスに構成したアンティーク/ビンテージリングです。
伝統的な技術であるサンドキャストで作られたシンプルでクリーンな作品ですが、量産されたのもではなく、類似したピースを発見するのは困難なオリジナリティを有する作品となっています。
本作のようなサンドキャスト(砂型鋳物)によるシルバーの成形は、ナバホジュエリー創成期からみられる技術の一つであり、その完成された技術/技法は現在に至るまで大きな変化なく受け継がれている為、制作年代の判断が困難な造形スタイルとなっています。
また、ホールマーク(作者や工房のサイン)も刻印されておらず、正確に作者や背景を特定することの不可能な作品です。
ただし本作の場合には、その造形や裏面の丁寧な仕上げ等から【The Navajo Arts & Crafts Guild】 (NACG)=通称『ナバホギルド』で制作された可能性が高い作品となっています。
ナバホジュエリーの伝統的で原始的な製法を用い、古典作品をデザインソースとしながらもミッドセンチュリー期の価値観や様式を取り入れ、モダンでクリーンにブラッシュアップされた作品です。
また、厚くエッジのしっかりとした造形となっており、多く制作された『型』によるピースではなくオリジナリティを持った作品であり、ナバホギルドで作られたものと推測される事等から、1950年代前後に制作されたものと思われます。
デザイン/造形は、トライアングル(竜骨型)の断面を基本とした造形となっており、フェイスには4つの三角形を組み合わせることで、アイアンクロスの造形が生み出されています。シンプルながら立体的で計算されたデザインが美しいリングとなっており、ワイドなリングながら肌が透けるデザインによって指に馴染みの良いリングとなっています。
現代のキャスト作品でも類似した作品は作られていますが、細部にも行き届いた丁寧なシルバーワークや立体的な造形美、しっかりとした各部のエッジが、新しい年代に作られた作品や量産化されたピースとの僅かながら重要な差異となっています。
【The Navajo Arts & Crafts Guild】(NACG)※以下ナバホギルドは【The United Indian Trader’s Association】(UITA)等と共にインディアンアートの普及やクオリティーの保全、職人の地位向上等のために現地トレーディングポストや作家たちの手によって組織されました。
中でもナバホギルドは、UITA等に比べナバホの職人主導で組織された団体で、大巨匠であるナバホのシルバースミス【Ambrose Roanhorse】アンブローズ・ローアンホース(1904-1982)が代表を務め、後進の育成や伝統的な技術の伝承、インディアンジュエリーのさらなる普及などを目的に1941年にギルドとして発足しました。明確にはなっていませんが、U.S.NAVAJO/Indian Arts & Crafts Boardが1937年~1940年代の初め頃までしか見られないのも、第二次世界大戦の激化による影響だけではなく、どちらの組織においても重要な役割を担っていたAmbrose Roanhorseが、Navajo Guild/The Navajo Arts & Crafts Guildに注力したためではないかと考えられます。
ナバホギルドによる作品のスタイルは特徴的で、Ambrose Roanhorseの意図が強く働いた影響のためか、インゴットから作られたベースに、クリーンで構築的なスタンプワークをメインとしたデザインと、昔ながらのキャストワークによるピースが多く、どちらも回顧主義的なオールドスタイルでありながら、洗練された美しい作品が多く制作されました。
また、もう一つの特徴はその構成メンバーです。当時から有名で最高の技術を究めた作家が名を連ねています。
【Kenneth Begay】ケネス・ビゲイ、【Mark Chee】マーク・チー、【Austin Wilson】オースティン・ウィルソン、【Allan Kee】アレン・キー、【Ivan Kee】アイバン・キー、【Jack Adakai】ジャック・アダカイ、【Billy Goodluck】ビリー・グッドラック等、さらに、Ambrose Roanhorseの教え子の一人であるホピ族の【Louis Lomay】ルイス・ロメイもナバホギルドのメンバーだったようです。
さらに特筆すべきは、これだけ有名作家が揃っていながら【NAVAJO GUILD】のジュエリーとして制作されるものは、個人のホールマーク(署名/サイン)が認められていませんでした。
そのため、1941年の発足から1940年代の半ばごろまでは、まったくホールマークなどが記載されていないか『U.S.NAVAJO 70』が用いられています。
その後、1943年に【Horned Moon/ホーンドムーン】と呼ばれる空を司る精霊をモチーフとしたシンボルが、ナバホギルドの象徴として商標登録されており、諸説ありますが1940年代後半頃からホールマークとして作品に刻印されるようになったようです。1950年代以降になってからは『NAVAJO』の文字や、銀含有率92.5%の地金であることを示す『STERLING』の刻印が追加されていきます。
また、1940年代後半以降でもホールマークの刻印が刻まれていない個体も多く発見されています。
ナバホギルドの代表を務めた【Ambrose Roanhorse】は後進の育成にも熱心な作家で、1930年代からサンタフェのインディアンスクールで彫金クラスを受け持っており、多くの教え子を持っていました。古い年代の伝統技術を重んじた作品を多く残し、独特の造形美や完成された技術は次世代に絶大な影響を与えた人物です。
また、【The Navajo Arts & Crafts Guild】 (NACG)ナバホギルドのピースは、アメリカ国内では非常に高い知名度を誇っていますが、それに比例せず、現存数がとても少ないことも特徴です。 コレクターのもとには一定数があると思われますが市場に出る個体は少なく、現在発見するのが大変困難になっています。
本作ではホールマークの刻印がなく、正確な作者や制作時期のの特定が出来ませんが、ナバホギルドの提唱した美意識・価値観を感じさせるデザイン/造形を持った作品であり、シルバーのみで仕上げられたソリッドな質感やシンプルで武骨な印象は汎用性が高く、性別やスタイルを問わずご愛用いただけるリングとなっています。
また、サンドキャストで成形されたナバホジュエリーは珍しくありませんが、その作りの良さや細部の完成度によって古い時代に作られたことが推定可能となる貴重な作品。ハンドメイドされた重厚な造りとクラシックな印象も大変魅力的なキラーピースの一つです。
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コンディションも良好です。シルバーのクスミやハンドメイド作品特有の、制作上のムラ等は見られますが、ダメージのない状態を保っています。