【NAVAJO】ナバホのアンティークジュエリー、武骨でプリミティブなハンマーワークやスタンプワーク等の伝統的な技術によって独特の立体的なシェイプに造形され、大変美しいターコイズがセットされたハイエンドなアンティーク/ビンテージバングルです。
※こちらの作品は内側にリペア/修理の跡と思われる部分があります。下記に詳しく説明があります。
1910年代末頃~1930年代前半頃に作られた作品と思われ、インゴットシルバー(銀塊)から成形されたバンド/地金はずっしりとした重量感があります。そして、そのサイド~ターミナル(両端)部分は、高度なハンマーワークによって、立体的な動きが加えられています。このようなディテールは『リポウズ』と呼ばれ、硬い木の土台や鉛の塊にアール(曲面)の溝を彫り込んで、そこにシルバーを叩き添わせることによって曲面を作っており、こちらの作品では、技術力を感じさせるハンマーワークでとても美しく迫力のある曲面/膨らみが生み出されています。センターには、ローンマウンテンターコイズかカドバー/バーナムターコイズと思われる大変美しいターコイズがマウントされており、全体にアロー等の細かくも力強いスタンプワークが刻まれています。
さらに、ターミナルには鏨(鉄製の金型ツール)の凸と凹を用いシルバーを叩きだすことで立体的な凹凸を作るシェルコンチョのリポウズ/バンプアウトが配されています。
立体的に造形されたバンドのシェイプをはじめ、作者の思いを宿すような手の込んだディテールにより、ナバホジュエリーらしい奥行きとエスニシティな表情、さらには独特な上質感が与えられています。
本作と類似した特徴を持つ作品は、1982年~1984年の展覧会『SOUTHWEST INDIAN SILVER FROM THE DONEGHY COLLECTION』の図録として出版された書籍上でも紹介されています。
また、こちらの様な美しい立体感を生み出す造形やトラディッショナルなスタンプワークは、1940年代~1950年代には【Navajo Guild】(Navajo Arts and Crafts Guild)等で巨匠【Ambrose Roanhorse】らにより受け継がれ、現代においては【Ernie Lister】アーニー・リスターや【Perry Shorty】ペリー・ショーティー等のナバホの伝統をしっかりと受け継ぐ作家が伝統を守り、こちらの様な作品を制作しています。それらの源流と言えるこちらの作品は、歴史的な史料価値も高いピースです。
セットされたターコイズはおそらく【Lone Mountain Turquoise】ローンマウンテンターコイズか、【Godber/Burnham】カドバー/バーナムターコイズと思われ、高さのあるカボションカットとなっており、その原石はハイドームカットが可能な厚みを持っていたことが判ります。澄んだ水色に強いブラウンなどのマトリックスが入り、アンティーク作品の持つ迫力に負けない濃く深い青さを湛えています。経年によって艶は失われていますが、現在でもその価値を損ねていない貴重な無添加ナチュラルターコイズです。
【Ingot Silver】インゴットシルバー(銀塊)からの成形は、アンティークインディアンジュエリーにおいて非常に重要なファクターですが、銀含有率/品位などの素材とは関係なく、ジュエリーの製法技術を表します。
現在制作されている作品の多くは、材料として市販されているシルバープレート(銀板/ゲージ)を加工することでジュエリーとして成形されていますが、インゴットから成形する製法では一度溶かしたシルバーを、鍛冶仕事に近い方法であるハンマーやローラーで叩き伸ばすことでジュエリーとして成形していきます。最終的にはどちらもプレートやバーの形態になるため、大きな差は無いように思われますが、インゴットから成形されたシルバーの肌は、硬くなめらかで鈍い光を持っています。それにより生み出されるプリミティブで武骨な作品の表情は、やはりアンティークインディアンジュエリーの大きな魅力です。
また、1930年代にはシルバープレートが登場しますが、当時シルバープレートを用いて制作されたジュエリーは政府によりインディアンクラフトとして認定されず、グランドキャニオンなどの国立公園内で販売できなくなった記録も残っています。
こちらの作品もプリミティブな技術で作り上げられており、ワイルドなデザイン/造形は男性的ですが、ハンマーワークによる大胆な曲面は有機的な印象を作り、性別を問わず手首に美しいアクセントとなる造形です。さらに、武骨な印象を持ちながらも、細かなスタンプワークや立体的なリポウズによってナチュラルで奥行きのある表情がもたらされており、多くのスタイルに溶け込む質感です。
また、こちらの様なスタイルのブレスレットは、ナバホの古典期からみられる造形の作品ですが、それは現代においてもデザインの独創性や新鮮な印象を失っていません。武骨ながら洗練された完成度を持つ作品は多く見られますが、こちらのピースはそれらの中でも突出して美しいシルバーワークと完成度が感じられます。
普遍的な造形美を持つデザイン/造形と、美しいジェムクオリティターコイズの存在感によってアンティーク工芸品としてだけでなく、ウェアラブルアートとして高い価値を持つ作品だと思います。
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コンディションは、残念ながらリペアの跡が見られます。制作時~現代まで、いつ頃リペアされた物か不明ですが、とても丈夫にリペアされており、おそらく1950年代以前の補修跡と推測されます。それに伴って石もスワップ/交換されている可能性があります。その他、シルバーのクスミや制作上のムラは見られますが、着用にあたって不安のない状態となっています。